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創造作(そうぞうさ)のエンジェルフェン  作者: テンペスティア
開幕・救済戦
12/22

#12 彷徨えるふたり

 エンジェルフェン、雪奈とリオの戦闘によって渡の住んでいる部屋は修復不可能な程に破壊されてしまった。この事によって渡とニャンコはマンションを追い出され、日が落ちて真っ暗になった街を放浪する事となてしまった。以前の家主である渡の父親があらかじめ払って置いた家賃から弁償は出来、余った金額は返済されたので金はあるのだが、これからの生活に困ってしまった。

 大荷物を抱える渡とニャンコは明日の事も分からず、辺りを彷徨う。


「これからどうしましょうか……」

「ああ、頼れる人がいないのはキツイなぁ」


 渡がうなだれる。と、ニャンコは親戚がいないのか問う。が、その答えは悲惨な物で、誰一人として家族も親戚も知らないと返って来る。それに対してニャンコは少し躊躇いながら質問する。


「普通家族がいるものの筈ですが、渡の家族はどうしたのですか…?」


 ニャンコの質問に渡は顔をしかめるが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「僕ね、元々施設の子供だったんだ。三歳の時に本当の両親が死んですぐ施設に入って、十歳までそこにいたんだ」

「それじゃあ、それからはどうしたんですか?」

「父さんが、僕の世界一尊敬する人が引き取ってくれたんだ」


 そう語る渡の目がきらきらと輝いている。


「それから父さんと暮らした数年間は本当に楽しかったなぁ。人として大切な事、社会での身の振り方とか、何でも知ってる人だったよ」

「去年までの話だけどね」


 突然渡から笑顔が消える。


「……ごめん、話はここまでにさせて。それよりも今夜の事を考えようぜ!」


 先程までの表情から一変してまた微笑む。が、まだその心の中のもやは晴れず目は笑ってはいない。


「渡、ごめんなさい。私は至らず嫌な事を聞いてしまいました」

「いや、良いの。この話題に言及しながら逃げるのは僕の責任なんだから」


 それより、と話題を区切って渡は両手を合わせて打ち鳴らす。


「気を取り直して今日の宿でも探そっか!」


 ニャンコは自分の過去から異様な程に避ける渡に怪訝な顔を見せるが、今がそれどころでは無い事は彼女も理解している。渡の事が気掛かりだが宿の事を考える。

 そう言って渡らは歩み始める。その道中の曲がり角だった。


「僕に心当たりがある」


 曲がり角から急にそう話し掛けられた渡はうわっ! と叫び声を上げて後ろに倒れる。それにつられて

後ろにいたニャンコも倒れてしまう。その姿はドミノの様だった。それを見て微笑む、街角から現れた人影は、シャーロック。


――


「ほんで、どうしてシャーロックがこんなところに?」


 一旦落ち着いた所で渡は問う。それに対してシャーロックは伝えたい事がある、と今までの経緯を話し始める。

 リオと雪奈の救済戦を感知したシャーロックはその方角から渡の自宅へ向かった。それは直感による物でもあったが、何より渡とニャンコに協力を仰ぎたかったからだ。

 が、その道中でシャーロックは道に迷った少年、重い荷物を運ぶ老婆、母親とはぐれた子供に遭遇し、到着に時間が掛かってしまった。彼女は自分が探偵である事を誇りに思っているが故に”人助け”こそが自分の本懐としていた。その為に困っている人を見つけたら手を貸さずにはいられないのだ。

 そして、その結果シャーロックが着いた頃には部屋の中はもぬけの空だった。


「―――だから頑張って探したんだよ君達の事。探偵は人探しもお手の物なんだから」

「そ、そうだったの…。困難へのエンカウント率高過ぎないか? それよりそうだ、シャーロック。伝えたい事って? それと心当たりって……」


 渡の言葉にシャーロックは自分の目的をやっとのこさ話し始める。探偵は導入が長いのだ、とシャーロックが”言い訳”を残すが渡は当然無視する。


「焼きプリンが好物のエンジェルフェン、リオがいるだろう。彼女のエルフェンが今豪邸で暇そうにしているんだ。居候しようよ」

「おっ居候か! 流石探偵、名案だな! ―――え?」


 今、シャーロックは何て言った? 渡が聞き直す。すると彼女はリオのエルフェンの家へと居候すると言っている。何度頭の中で考えても全くもって意味が分からない。

 シャーロックの言う事にニャンコが口を挟む。


「つまり、リオのエルフェンの家に泊まろうと? それが提案として通る程の有力な考えとは思えません」


 ニャンコが表情を曇らせる。リオがいない状態でそのエルフェンは気が立っている可能性もある上、そもそも自分達はリオ陣営にとって”敵”と認識されている筈なのだ。そんな場所を自分達の休む場所とする事など出来ない。


「シャロ…あなた程の洞察力ならばその事の危険性が分かっている筈でしょう?」

「うん、分かっているとも。そして僕は、探偵だ。君が思っている以上の事情を汲んでの判断だよ。ついて来てくれないだろうか」


 そう説得されるが、尚もニャンコの不信感は揺らがない。

 しかし、と続ける彼女の肩を渡がそっと叩く。


「良いよ、ニャンコ。シャーロックを信じて行ってみよう。どのみちどこかで寝食しなければいけないし、シャーロックの言う事情、それが何なのかを知りたいんだ」


 ですが、とニャンコは未だ言葉を連ねるので渡はそうだ! と自分の提案を口にする。


「威力偵察だよ。僕達からリオの本拠地に行って、彼女の情報を得る。そうすればリオを仲間に出来る鍵が見つかるかも知れないし、そこに泊まる事が不可能なら速効で逃げよう。家が無い分察知もされづらい」


 リオもいないから分はこちらにあるよ、とシャーロックが付け加える。二人の説得を受けたニャンコは肩を落とし、深い溜め息を吐く。


「それでは、敵地に宿泊すると言うのですね…二人の予想がムダにならないように。私は知りません」


 眉を下げてシャーロックが渡を見ると、彼は微笑んで頷く。


「オーケー、話はまとまったね。それじゃあ向かおう!」


 シャーロックに案内されながら、一行は夜の繁華街を通り抜ける。

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