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創造作(そうぞうさ)のエンジェルフェン  作者: テンペスティア
開幕・救済戦
1/22

#1 呼ばれし者

 東京都千代田区の閑静な住宅街。車両の通行が多い大通りから少し離れた無機質な七階建てマンション。その一室、四〇二号室の家主であるのは少年であった。


 少年の名は雨鵜 渡(あもう わたる)。近くの高校に通う齢十五の彼には一つ願があった。

 ”幸せになりたい”と。

 自分の歩んだ道を振り返ればそこそこ良い事と酷く悪い事しか無いな、と自らを不幸と卑下し、憂う事ばかりが日課となっていた。

 だが、そんな彼が唯一楽しめる、いわゆる趣味があった。物語を創作する事。

 自分の中に内包する空想の世界。創造でしかあり得ぬ場所。それを自分の尺度で表現する事が好きだった。

 自分みたいな人間の、つまらない人生を歩むより、夢に溢れたフィクションを描く方が断然”面白かった”。そしてそれらの物語は自らの理想を体現する様な話を好んで書いた。

 こんな事があったら良いな、とかこんな出会いがあったら良いな、なんてきっと自分には訪れない経験を想像して、書く。そうしている事が渡にとっての至高だった。故に彼は物語を書き続ける。

 ―――しかし彼はいつも呟く。


「僕も、幸せになれればなぁ……」


 何故幸せを願うのか。その理由は人だから。そんな適当な理由を付けて彼は生きて来た。



 そんな彼の何て事無い一日である十月四日、半袖で過ごすのが少々厳しくなってきた頃合いであった。

 日が変わってまだそう経っていない午前三時。渡は寝付けずに自分の趣味に没頭していた。

 ただ無言でパソコンに書き連ねていく。公表はするが評価は求めず、ただただ自分の中の湧水が如く溢れ出る想像の捌け口として文章に起こしている。それだけ。

 それだけであるが故にいつかは手を止める。そしていつもの口癖―――


「幸せになれれば、なれればな……」


 と、渡がふと天井を見上げて、もう一度パソコンの液晶に目を向けると、メールボックスに新しいメールが届いた事を伝える通知が出ている。こんな時間に何なのかと渡は通知画面をクリックする。差出人不明のメッセージが開かれた。メッセージには


『あなたの願、叶えます。是か否かお答え下さい』


 と書かれている。

 ―――怪しい。一目見た瞬間渡の脳裏にその言葉がよぎった。

 ちょっと見た事の無い迷惑メールだなぁ、位にしか最初は思わなかったが、次第に先程のメッセージに夢中になっていた。

 人には誰だって願がある。それを叶えてくれると聞いたら少しでも興味が湧くはずだ。しかし、普通の人ならそれでおしまいだ。そんな面倒に巻き込まれそうな物に近付くのが嫌だし、何よりメッセージに頼って願を叶えて貰うなんて胡散臭いメッセージは構わず無視してしまう。

 だが渡には、人一倍懇願する願があった。幸せになりたいと言う願。

 渡はメッセージの返信用の文章に指定された通り是、と答え、返信する。

 面倒事に巻き込まれたって胡散臭くたって彼にとっては”関係無い”。自分の幸せを掴む為、そして自分の幸せの正体を知る為に手段は選ばない。

 返信が終わると、一気に力が抜け、今まで夜更かししていた分の疲労がどっと押し寄せる。そのまま渡は大きな溜め息をついてその場に寝転がり、眠ってしまった。


――


 その夜、渡は夢を見た。それは幼い日の自分が見る幻想。

 夢には五年前の自分ともう一人、ワンピース姿の少女の姿が見える。

 自分はどうやら走る彼女を追いかけているらしい。その理由はどうあれ、渡は彼女を追いかけ続ける。


「待って、待ってよ!」

「行かないで―――!」


 渡の叫びは少女には届かない。伸ばした手も意味は無く、少女は霧散して消える。


「行かないでよーーーッ!!」


 すると、渡の伸ばした腕を誰かに掴まれた。誰と問う前に渡の眼前は光に包まれていった。


――


 渡が目を覚ますと、夢の時の様に手を伸ばしていた。寝ぼけているのかな、と渡が体を動かそうとすると、伸ばしている先の手に何やら温かい感触を覚えた。その感触を渡は知っている。

 ―――手だ。人の手。渡の伸ばした手を引っ張っている。

 そしてその温かさはいつか感じたモノ、の様だった。

 寝ぼけた目を瞬きさせて、手から先を見る。するとそこに見えたのは―――。


「……女の子…?」


 渡の目の前に立つ”少女”が彼の手を握っていたのだ。渡は目の前の状況に絶句する他無かった。それと同時にこれが夢であると思って寝なおそうとする。が。


「…エルフェン」


 少女は何かを呟く。それに対して渡は思わずえ? と返してしまった。興味がそちらに湧いてしまった。こうなると寝るものも寝られない。

 エルフェン、と、そう呟いた少女はさらに言葉を続ける。


「私は、ニァン・クォーツ・フィーア。あなたが呼びし”エンジェルフェン”。願を叶える天使です」


 黒い髪とツインテール、緑の瞳、純白のワンピースを纏う少女、ニァンは自らをそう名乗り、優しい微笑みを向ける。渡はその表情に少し照れる。


「……質問なんすけどこれ、夢ですよね?」


 意を決して渡はニァンに問う。が、彼女は夢と聞いても全くピンと来ていないのかはて? と首を傾げる。


「もう一度聞きますけど、これは現実、僕の本来住んでいる世界では無いんですよね?」

「現実…それが今あなたが生きている世界とするならば、ここはそうです。現実です」


 ニァンの答えに渡は顔を蒼くして洗面台へ走り、鏡を見る。きちんとした自分の顔だ。頬をつねってみる。痛い。寝ぼけて力んだのか凄く痛い。

 これらの事を確認してもう一度渡はニァンを見る。


「じゃあ、アンタは……」


 自分を見られた事に気付いてかニァンが純朴な笑顔を浮かべる。


「アンタは……」


今度は子をなだめる様な声色でエルフェン? と呼ぶ。


「アンタは一体誰なんだーーーッ!?」

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