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黒天使エンリィ

作者: たとい

書けなかった部分をどうせなので後書きにちょっと書き足し。

一人の男が咽び泣いていた。

誰もいない街路地。

ふと、上から差し伸べられた手に気が付く。


そこには、一人の少女が浮かんでいた。


少女は男に囁く。

「願い、叶えて差し上げましょうか?」

男は半信半疑で問う。

「叶えて、くれるのか?」

少女はほほ笑みながらうなずいた。


男の願いはすぐに叶った。

自分の娘を襲った不良共に不幸が訪れたのだ。

飲酒運転の常習犯だったようで、どっちもどっちの結果で終わったという。

あっけなく感じるほどにあっという間の展開に、男は呆然とする。


「お前は、悪魔...なのか?だとしたら、代償は何なんだ。」

恐る恐る、少女に問いかける。

「私は悪魔ではありませんし、代償はいりません。そもそも、悪魔というのは存在しないのですよ。」

少女は、とても悲しそうに言った。

「地獄すら存在していないのですから。」


一仕事を終えて休んでいた少女の背後に、羽の生えた天使が舞い降りる。

「あなたは何をやっているかわかっているのですか!?」

何か悪いことでもしたのかと言いたげな目をした少女に、天使は叫び続けた。

「天使は人々に幸福を与えるのが役目。あなたは、生前の行いがあまりにも素晴らしかったから天使に選ばれたというのに。」

「だから、天罰は許されないと?」

「悪人には罰を。それは、生前に人間が決めた法律です。」

「おかしいではありませんか。悪人が幸せな余生を送るだなんて。」


地獄も無いのに。


少女は立ち上がって、天使をにらみつける。

「私は生前、善行を行っていれば神様が必ず救ってくださると信じていました。だから、天使に選ばれた時は嬉しかった。これで多くの人々に幸せを授けられると。」

けれど違った。与えるのは、ほんの少しの幸せ。それもなるべく平等に。

それで幸せを得たとしても、不幸になるのは簡単だ。

「幸せなんて一時的なもの。悪人はいとも簡単に多くの人々を不幸に陥れる存在なのです。私は、きっと神様が裁いてくださると信じていたのに。」

この世にあるのは天国だけ。罪人は他の人と同じように輪廻を繰り返す。

「だから私は選んだのです。善人に幸福を授けるより、悪人に不幸をもたらそうと。」

「ですが、悪人だって幸せに触れれば心を改めることだって。」

「その日まで何日かかります?どれほどの被害者が?なにより、善人すら悪に染まるキッカケになることだって。」

そればかりは天使にも否定はできない。

目の前にいる少女こそ、その一人のようなものだからだ。


「あの世で懺悔させられないのならば、現世で罪を償ってもらうだけ。」

「ならば、やはりあなたから天使の力を奪いとらなければならないのですね。」

「人の良すぎる天使たちにできるのかしら?」


黒く染まった大きな翼を広げて、かつて天使であった少女は不気味に笑った。


「あぁ、かつてはその偉大な翼も白かったというのに。」


天使は目の前の堕天使に嘆いた。

その真っ黒な翼に、彼女の曇りなき決意が現れていたのを知ったから。


復讐は駄目だ。なんてことを言っておきながら、天国を信じる人がいる。地獄を願う人がいる。神に祈る人がいる。

憎む人の不幸を天罰だと言えるなら、神であれ何者であれ、誰かによる裁きを望んでいたに違いない。

あの世が存在せず、この世しか存在しない世界だと判明したら人々はどうなるのか。

「だからこそ、あの世という概念が必要なのかもしれない」

エンリィは笑った。


無いのなら、望むなら、地獄をつくるまで。



そんな彼女に天使は叫んだ。

罪人を許し、悪人を更生させることこそ、必要なのだと。

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― 新着の感想 ―
[一言] エンリィの言っていることもある意味正しいのかもしれません。だけど堕天使となって不幸をもたらすのはよくないことです。
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