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忌忌しき事件

あらかた事件が終わったと言うのに

またあの現場に行かなくてはならない

あの場所は呪われている

私の部下までがほざいた言葉だ

あの場所は呪われている

何時の時代の探偵小説だ

ただ、毎年その場所で、人が死ぬと言う事実だけが

調書に着実に積み重ねられている

その時期は大体同じであるが

そのすべてに事件性は皆無に等しいと言うか

もう偶然、そう、まるで、一億円が、二年続けて当たるかのように

それはひどく酷い内容で

毎年恒例行事のように

人が死ぬ

ある人は、心臓発作

ある人は、食中毒

ある人は、交通事故

ある人は、ある人は、ある人は、

もうかれこれ、百数年

その数100とんで、21なのだ

121人

それはおおよそ、戦争のあととはいえ

とても尋常ではない

もしかしたら、戦時中も

死亡者が出ていたかもしれないが

何分、焼け野原となった

あの自分では

おおよそ分かるわけもない


「あのー今日引っ越してきました煤元と、もうしますだ」

酷く訛りの強い言葉を聞きながら

私は、玄関のキーチェーンを外し

外にいるであろう

訛りの強い客人の前に出ようとする

「いやー、大家さんですか、私、大江山の麓、黄永山村の時頃米主の一人息子

煤腹録米ともおしますだ、これからやっかいになるべから、これ詰まらんものですが

どうぞどうぞ」

それは、言葉とは裏腹に

酷く垢抜けた顔をした

麦わら帽子をかぶった男だった

「いえいえ、ここの人は、田舎と違って、人づきあいがそれほど得意ではない人が多いですが

あまりお気にせずに」

男が差し出してきたものは

一玉2、3000は、しそうな、黒光りする大玉の西瓜である

「いやいや、そうでげすか、まあ、とかいっちゅう物は、いきうまのめえっちゅうもんをぬくってきいたんげすが、それはおそろしいですがな」

男はそう言うと、酷く、驚いた顔をして

スイカを渡すが

私にはいくらも重くて

危うく落としそうになり

「あらあぶねえな」

と、結局、台所まで運んでもらうも

おおよそ一人暮らしの私に食べ切れる量ではない

「ほんじゃ、おらは、隣近所に」

不味い、自分で、言うのもなんだが、子のボロアパートに住んでいる人間には、ましと言うべきものがいない

それこそ、家出娘みたいのやら

夜逃げ一家、夜の仕事みたいな男女、目つきの悪い老人とかとか

このアパートの唯一の良い所は、先代が、宝くじを当てて掘った、天然温泉と馬鹿に安い家賃だろう

これには、訳がある

と言うか、その訳の方が大きい気がしてならない

このアパートでは、毎年誰かが死ぬ

そう言ううわさが、流れている

実際には、違うとは言い切れないとも言い切れないが

ただ、このアパートの敷地内で人が死んだことは、歴史だけ古いアパートで

唯一奇跡的ともいえる奇跡だ


「へい、彼女ぉー」

酷く間延びした声に

後ろを、振り返ると

そこには、ここの前責任者

カトウ シシが、こちらに何処かのデパートの下げ袋を、手に、こちらに手を振っている

「どうしたんです、この時期になるといつもやってこないと言うのに」

彼は、実に臆病で、それでいて狡猾で、また、テンションの高いおかしな人物であり

親戚筋でなければ、あまり付き合いたくはない人種だ

「なんだよ、心配して来たって言うのに、よぉー」

そう言ってふてくされているが、それなら未来ある私の人生を、ぼろアパートに左遷したあなたの心は一体どう言ったものだろうか

しかし、おじさんは、そんな私の心象など、気が付いていないかのように、そのまま私の元住居である

管理人室の扉を開けた

確かにしめておいたはずであるが

彼の事だ

私に鍵を渡す前に

もしかすると合鍵でも、作っておいたのかもしれない

もし彼からそのカギを取り返したとしても

きっと別のモノを作っているのだろうか


「おいいつまで玄関に、居る気だ」

人の家に入っておいて

良くそこまで横暴にいられるものだ

高校生の女子なら

卒倒するだろう

「おい、これは何だ」

一体何を見たと言うのか

私はいそいそと玄関に走る



「いやー、今年も大変だね」

このアパートで一番長いムシュトさんが、そんな事を言いながら、一人カップ酒を手にしている

「どうでした」

私は、彼の部屋で、そんな事を聞く

「いや、すごいのなんのって、今年は、某有名テレビ局まで」

「・・・それってどこ」

キビ団子を手にした、今年小三の柚希ちゃんが、窓辺で、警官やら野次馬やらテレビ新聞の関係者が

わらわらと集まっている

塀向こうの人を見ながら言う

「そうだね、ゆずちゃんが好きなアニメなんてあるかい」

それに対して

「私分かるもん、冨士テレビ、日デレ、ノビタミ」

「あんたたち、そんなところで何やっているの」

狭い部屋に、数人の人間が引きめき合っていた

これはもはや、春先の花見のような

一つのイベントとなって入り

私が来たころからこんなものであり

一番道路が目にしやすいムシュトさんがいるこの部屋が、会場となっていた

一部結婚式とかで、例外はあるものの

引きこもりまで出てくる恐ろしいイベントだ

「もうそろそろかね」

そう、ムシュトさんが言う

この人も良く分からない人であり

もう六十年近くこのアパートにいるはずなのだが

まだ3、40代にしか見えない

「そうですね」

おじさんがそう言って、麦焼酎に口をつけている

自分で買ってきて一人で飲んでいるのだから世話がない

「私も飲ませろぉー」

先ほどから無下に扱われ続けた柚希ちゃんが

引っ手繰ろうとして、足の裏で押さえつけられ

まるで、いつか見た憤怒の顔をした仏像の下にいる鬼の形相だ


「つまり、毎年のように来る、カメラマンやなんかを皆さんで見ていたと言う訳ですね」

髭面の男が、私を、爬虫類のような眼で、睨んだ

「はい、毎年の・・イベントのようなものでしたので」

「イベント」

睨みを利かせたわけではないのだろうが、こちらを見た目は

私をそれだけで怯えさせた

「あなたは、殺人事件を面白がるような人なのですか」

淡々と語っているはずの言葉が

実にもっともな

それでいて、人を思いやる言葉に驚く

それも、嫌らしい感じの正当性ではなく

それは、真意に聞こえるから怖い

「いえ、もう殺人事件なんて起こっていませんから」

「ええ、確かに殺人事件は起こってはいません

ただ、毎年死人が出ることには変わりありません

去年も昔も」

「・・・・」

わたしは、かすかな苛立ちを覚えたが、それをこの、キミの悪い男に話してどうにかなると言うものでもない、私は、あいてがなにをさぐろうとしているかを、知ることにした

「では、あなたがどうして、殺人現場を見ていないかについてです

どうして見ていないんです、見ていたんでしょう、酒盛りをしながら」

「ええ、そうはいっても、形だけですし、そうですね、九時ごろには、皆ばらけるようにお開きに」

「・・そうですか、その間に、あなたのおじさんカトウシシトウさんが、あの道路で死んでいた、本当に何も知らないんですね」

「私が何か隠しているような言い方ですけど何か」

「いえいえ、皆様に言っている事なのでお気になさらず・・いやはや、

われわれも、大変なんですよ、もうもう、警察の面子丸つぶれですよ」

「死んだおじさんよりも、警察の面子の方が大事ですか」

私の言葉に、爬虫類面の刑事は、頬をなぜると

こちらを、気味の悪い笑みを浮かべてみた

始めこそその表情のあまりにも悪寒のする造形に

その感情が掴み兼ねていたが

笑っていると気が付き

いよいよ気色が悪い

「では、死んだあなたのおじさんが、自殺を図ったとき、あなたは気が付かなかったと」

「ええ」

私はそう言って、刑事を睨もうとしたとき、あることが引っ掛かった

そう言えば、どうして今年だけ、朝まで待たずに、お開きにしたのだろうか


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