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読み切り作品

SOUL LEADER ─魂の案内人─

作者: ふぉるて

 周囲を深い霧で包まれた、何もない空間。

そこを走る、一台の黒い車があった。


「……お客様。そろそろ、旅も終わりに近付いてきたようです」


 帽子を目深まぶかに被り、黒いコートを羽織った中性的な顔立ちの青年が、後部座席に向かって声を掛ける。

すると、後部座席に座っていた姿が透けたその男は、前方にうっすらと見えた巨大な門の影を見て、運転手に尋ねる。


『おー……、でっけぇなぁ。あれがさっき言ってた、"転生の扉"って奴か?』


「ええ。あの門を通れば、あなたの生前の記憶は全てリセットされ、お客様の魂は新たな生命として、現世に"輪廻転生"するという次第にございます」


 はっきりと聞き取れるように、運転手の青年は淡々と説明する。

すると、生前の金貸しという生業なりわいで行ってきた汚い仕事の数々を気にしたのか、透けた男はこんな言葉を口にした。


『そっか……。なんか悪ぃな、兄ちゃん。俺みたいなロクデナシまで転生させてくれてよ』


「いえ……、お礼を言われるほどの事ではありませんよ。魂の転生は、誰にでも平等に訪れるこの世界のことわり。私は、その理のレールにあなた様の魂を導いただけでございます。

それがどうしてかと問われれば……、それが、我々"魂の案内人(ソウルリーダー)"の役割なのですから、としか答えようがないのですが」


 そう言って、運転手は微笑する。

その言葉に、透けた男は先程運転手と出会った際の会話を思い出し、『そりゃそうだよな』と言った後、一つだけ気になった事を質問する。


『そういや、兄ちゃん……。お前、いつからこの仕事やってんだ?』


「いつから……、ですか。そうですね……。

……あえて言うなら、この世界が生まれた時から……、ですかね」


 その返答に、男は「へぇあっ!?」と言わんばかりに目を丸くさせる。

そして、暫し放心した後、『兄ちゃん……。いや、超兄貴様……?』などという言葉を呟き始めたのを聞いた運転手は、思わず笑ってしまいそうになるのをこらえながら、「先ほどまでと同じ話し方・呼び方で全然構いませんよ」と男をなだめるのだった。




『……まあ、その、なんだ。これからも、頑張れよ』


「ありがとうございます。お客様のその言葉、励みになります。

……それでは、そろそろ降りる準備をお願い致します」


 そして、長い時間を走り続けていた車が、"転生の扉"の前で停車する。

車から降りた運転手は後部座席に回って扉を開け、天性の扉の前に立ったところで、透けた男に最後の確認を行う。


「……それではお客様、来世での恩恵は"知"でよろしいですね?」


『おう』


「"知"のカテゴリーから、どの恩恵が選ばれるかは私にも分かりません。それでも、宜しいですか?」


『おう』


「……承知致しました」


 運転手は最終確認を終えてそれだけ言うと、門扉に向けて手をかざした。

そして、ゆっくりと重い音を立てながら、"転生の扉"が開かれてゆく──。


「それではお客様、良き来世を」


『おう! 兄ちゃん、また来世でな!』


 男はその手を大きく振りながら、後ろ走りで門の奥へと消えていった。

運転手の青年は、今まで目深にかぶっていたその帽子を取り、その男の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていた。




 そして、扉が重い音を立てて、再び閉じられる。




「……いつかまた、この場所でお会いしましょう」


 青年は再び帽子を被り、車へと乗り込む。

エンジンがかかり、その場でUターンしたその車は、再び深い霧の中へ向けて走り去り、やがて、完全に影すらも見えなくなった。




 魂の案内人(ソウルリーダー)

彼らは、この世界の"輪廻転生の理"に従い、死した魂を来世へと導く者達である。

ぱっと思いつきで書いた読切です。

お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死後の世界。 どんな感じなんでしょうね。そして案内人という存在はどういうものなんだろうと考えると想像が膨らみますね また読みに行きます
[良い点] この小説の雰囲気が好きです。 私は転生ものをあまり読まない人間なのですが、この作品はリズムよく読めて、文体もしっかりとしていて分かりやすく、面白かったです!(*^^*)
[良い点] 雰囲気がしんみとしていて、お酒を飲みながら読める。 [気になる点] 短いかもしれません!!  (´;ω;`) [一言] 自分はこういうの好みですけど、連載となるとかなり難易度の高いものにな…
2016/07/03 23:26 退会済み
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