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運だけ男のハーレム・ライフ  作者: ブラック池田
1章
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プロローグ

「今更、課金ガチャを回すプレイヤーなんているわけないよな」と、佐々木昇はため息を吐いた。

 

 今日は、アスパラトス・オンラインの最終日である。アスパラトス・オンラインは、サービス停止が決定しているのだ。


 最終日、プレイヤー達は、お祭り騒ぎとなっていた。サービス停止決定のプレイヤー側へのお詫びとして、課金ガチャとは別に、無料ガチャを設け、レアアイテムの出現確率を大幅に高めたのだ。100回ガチャを回して1枚出るかどうかの五ツ星のレアが、3連続で出る、などというあり得ない現象がアスパラトス・オンラインの世界では起こっていた。


「よっしゃ。滅竜の篭手コテ引いた! これで滅竜シリーズの装備コンプだ。ちょっとドラゴン無双してくるわ」

 竜族に対する攻撃力増加500%、竜族に対する防御力増加500%、ブレス無効…… 対ドラゴンに特化した装備をガチャで集めて、ドラゴンの群を全滅させに行く者。


「究極系魔法の巻物、あと10枚引いたら都市落としてくるわ〜」

 アスパラトスで最も威力の強い魔法を封じ込めてある消費アイテムをありったけ使って、本来、プレイヤー、千人程度で行う都市攻略戦を、1人で行おうとする者もいた。さすがに、それは無理だろうと思う反面、効果範囲の広い魔法を使ってのヒット&アウェイ戦法を行えば可能かも知れない、と佐々木昇は思ったりもする。課金ガチャだとしたら、下手をしたら10万円は必要となる戦法だが……。


「ダマスカス、ドリムの水、女王の鱗粉、世界樹の若枝、この組み合わせも違う〜〜」

 未だに解明されてない錬金術のレシピを解明しようと、ガチャで引いたレア調合素材を手当たり次第組み合わせている者。


「力MAX、知力MAX、素早さMAX、魔力MAX、器用さMAX…… ステータス全てMAXにしたぜ。これぞ完璧人間」

 力の種、魔力の種など、基礎ステータスを1上げる種をガチャで集め、理論上でしか存在しなかった、全ステータス・カンストのキャラを作り上げる者。


 プレイヤーそれぞれが、思い残すことがないように、このアスパラトス・オンラインの世界を楽しんでいた。そんな中、佐々木昇は、最後に様々な遊び方をしているプレイヤー達を眺めてまわる。

 種族は人間。ステータス、非特化型、所謂、器用貧乏。容姿、普通、というゲーム内であまり使えなさそうなキャラが、佐々木昇のキャラクターだった。そして、彼は、ゲーム・マスターの1人であった。


 佐々木昇のGMとしての仕事は、課金ガチャの確率操作である。プレイヤー同士の争いの仲裁をするというGM部署の花形ではなく、どちらかというと窓際であった。

 なぜ窓際かと言うと、「このプレイヤーは、欲しい武器・防具が当たるまで、課金をしてガチャを回すタイプだから、レア武器の当たる確率を下げて、レアアイテムの確率を上げて調整しよう」とか「このプレイヤー、行き詰まっているな。課金をするとしたらそろそろか。課金癖をつけてもらうために、一回目の課金ガチャは、4ッ星の防具に設定しておこう」など、おおやけに出来ないことをやっているからだ。

 

 だから、佐々木昇とすれ違っても、だれも彼をGMだとは気付かない。NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)のようなGMであるのだ。


 ・


 佐々木昇は、誰もいない草原へと移動した。そこで仰向けになって、満天の星空を眺める。都会では絶対に見ることができない星空。いや、正確に言うならば、地球上のどんな辺鄙な所よりもこの世界の星空は美しい。なぜなら、見える星の数が段違いだからだ。地球であれば、1等星から6等星まで、数にして四千数百の星しか肉眼では見ることはできない。しかし、このアスパラトス・オンラインの世界では、肉眼で見える星の数は、1万を超える。倍の星が輝く夜空だった。


「作り込み過ぎだよなぁ。開発費とメンテナンス費が大きいのが一番の原因だろうに」と佐々木昇は星空に向かって言った。


 佐々木昇が思い出していたのは、アスパラトス・オンラインのサービス停止についての会議であった。新たにアスパラトス・オンラインを始めるプレイヤーの減少。数か月、数年とログインをしていないプレイヤーの増加。そしてそれに伴う課金収入の減少……。


「ガチャに問題があったのではないか。他のと比較して、レアアイテムの出現率が厳しい。課金組が減るのも頷ける」と、取締役が発言したのだ。同種のゲームと比べて、出現率が厳しいというようなことはない、と開発スタッフが反論をした。しかし、佐々木昇は自分のGMの仕事に不備があったのではないか、それを指摘されたのではないか、と思い落ち込んだ。そしてそれを今でも少し引きずっていた。

 そして、無料ガチャを使って、無双しに行ったり、発見されていない調合レシピを探したりするプレイヤーを見て、もっと俺がガチャをうまく調整していたら、もっと楽しくこの世界を楽しめたプレイヤーも多数いたのではないか、という思いも強くなった。

 いや、レアアイテムが氾濫すると、インフレ状態になるし…… なんてことを考えるが、すっきりしない。GMとして一生懸命仕事に取り組んだと断言できる。しかし、もっと上手くやれたのでは、という後悔も同時にあった。結果論でしかないのだが、自分自身を納得させることができなかった。


「あと、5秒で日付が変わるな」と、ステータス画面の右上の時間を佐々木昇は確認をする。あと、5秒で強制ログアウトだ。








 「ゼロ」となった瞬間、身体が宙に浮いたような感覚になり、そして視界が電波の入っていないテレビ画面の砂嵐のようにになった。システム停止に伴う強制ログアウトって、こういう感じなんだぁと佐々木昇は思う。


 そして、次に視界が開けた先は……。さきほどの草原だった。


 あれ? ログアウトされない。ステータス画面の日付を確認したら、すでに日付は変わっていた。おかしい。システム・エラーか? スタッフに状況を知らせない、と思いとログアウトを選択するが、ログアウトできない。システム障害確定だ。

 仕方ないので、GMコールを行う。自分自身もGMなのだから、GMコールをするのはおかしいだろう、と佐々木昇は思いながらも、GMコールを行った。

 自分がGMコールするのは、初めてだなぁ、良い記念になった。駆け付けに来た同僚には、笑われるだろうけど、など星空を見ながら考えていた。


 しかし、いくら待てども連絡すら来ない。


 重大な障害が起こっている? 他にも取り残されたプレイヤーがいるのでは? それならば、GMとして落ち着いて行動するように説明をしなければ。

 ひとまず、町に戻ろう。取り残されたプレイヤーがいたら、救助しなければ……。まぁ、俺ができることは何もないけど……。


 佐々木昇は、町へと向かった。しかし、在るはずの町はそこに無く、鬱蒼とした森が佐々木昇の目の前に広がっていた。


 え? どういうこと? 地形まで変るほどのバグ? やば過ぎでしょと思う。事の重大さに気づき、冷汗が流れる。


 ・


 ・


 って、ちょっと待て、と佐々木昇は気づく。なんで俺、汗掻いてるんだ? 汗を掻くシステムなんて実装されていないぞ。それに…… なぜか、自分自身に尿意を感じるのだ。ションベンしてぇ。


 勘違いだろうと思い、しばらく森の前で立ちすくんでいたが、ついに我慢できなくなった。そして、立ちションをした。

 

 じょぼじょぼじょぼ という音を聞きながら、自分は、どこか別の世界に来たと確信をする。なぜなら、アスパラトス・オンラインの世界において、立ちションをするというような行動はGMであってもできないからだ。直接的な表現をすれば、性器を露出させるような行動は、もともとシステム上作られていない。発汗するというシステムもあり得ないが、それ以上に有りえない。


 それが出来ているということは、完全に、ここが別世界であることを示していた……。

 しかし一方で、アスパラトス・オンラインの仕様と同じステータス画面は使える。同様に、アイテムボックスからアイテムも取り出せる。魔法も使える……。

 アスパラトス・オンラインに似た世界であるが、ゲームシステムの中では無い……。


 あぁ、ログアウト不可能で、ゲームに似た世界に迷い込むって話、よく小説であるな。アスパラトス・オンラインを題材にした二次創作でも、そういう設定の小説があった、と思い出す。

 自分も、同じことを体験しているのだろう……。

 

 佐々木昇は、この状況になって、なぜか自分がわくわくしているということに気が付く。もともと、彼はゲームが大好きだらかゲーム会社に就職し、GMという仕事をしていたのだ。


 どうしてこうなったかは知らないが、この超リアルにアップグレードしたと思われる、アスパラトス・オンラインのような世界を、徹底的に楽しんでやる! と、佐々木昇は思ったのだった。

立ちションして、気づくとか……w

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