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   Ⅳ 二〇〇一年 秋(4)


 川があった。さして大きな川ではない。住宅街の間を流れる、幅数メートルの川。

 両岸には桜の木々がこれでもかというほどに植えられており、太く生気を感じさせる幹が延々と川に沿って並んでいる。夏であれば目に痛いほどの緑を輝かせ、春であれば肌の下に直接触れるような不思議な、甘やかな香りに満ちるであろう場所だった。

 川の途中には、桜の足元を通る歩道から大きく張り出すようにして作られたスペースが一箇所設けられていた。さして工夫された様子もない、手すり付のちょっとした休憩スペースといった風情だが、そこから望める景色は絶品でしかなかった。

 そのスペースに、一人の女性が佇んでいた。

 大きく整った吊り気味の目と、細くしなやかな体躯。

 エリサは、その場所から、川の下流に当たる方向を見つめていた。

 この場所は、エリサにとっては、ユーリや、彼の兄とよく話をした、思い出深い場所だった。自宅から近く、景観がよく、心地いい場所。

 悠里は海外へと渡る直前、ここでエリサと最後に話し、そして消息を絶った。

 それから、ユーリもまた。以前最後に帰国した際、ここで話し、空港へ向かい、そしてそのまま失踪した。

 突然自らの元を訪ねてきた死んだはずの悠里を追うために、あてもなくエリサは海外に渡った。

 その数日後に、世界中で核爆発が起こった。

 川の先には、何もない。視界の果てに封鎖線が張られている。汚染区域とクレーターが、その先にある。

 ユーリとは、連絡がつかない。どこにいるとも知れない。

 しかしエリサは、何故か、どこかで直感めいたものを覚えていた。

 どこにいるとも知れないのではなく、彼が、既に、どこにもいないという直感を。

 何度も足を運んだ、記憶の中に深く根を下ろすその場所に佇み、エリサは、とっくに何もなくなった世界を見つめ、干上がった意識の中に自らをうずめていた。

 最早、どうにもならない。この先世界が変革しようがどうなろうが、知った話ではなった。

 悠里は決定的に何かを違え、ユーリは消えてしまった。

 そう――消えてしまった。

 視線の先、世界にいくつもいくつも穿たれたクレーターのひとつ。

 何の確証もなかった。なかったが、エリサはそこに、最も深い喪失を嗅ぎ取っていた。まるで、何度も似たような光景を味わったことがあるかのようだった。幻、妄想、錯乱――なんと呼ぼうと意味はない。ただ、直感していた。

 ユーリも悠里も大事な人間だった。代わりの効かない絶対的な価値だった。それが失われた。それが、行き着く先だった。エリサにとっての。

 それ以上のあれこれの出来事には、何の救いも地獄もない。何もかもは今ここで、虚無に呑まれていた。

 何度となく語り合った場所。何度となく共に訪れた場所。待ち合わせた場所。

 今となっては、自ら以外に訪れるもののない場所。

 エリサはただただ、いつまでもその場に、立ち呆けていた。世界中の吼え猛る狂気など、知ったことではないといった面持ちで。ただ空白だけを湛えて。

 

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