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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
8/49

ダブルがダメならトリプルで

衝撃 (?)の彼氏宣言からもうすぐ1ヶ月になる。


周囲の熱も覚めたのか今では嫉妬の眼差しは残っているが周りから囃し立てられる事も少なくなってきた。


そんなGWも迫ったある日の帰り道。


正明、愁一、夕希と4人で下校している時だった。


「ねえ慧。GWどうすんの?」


夕希が聞いてくる。


「どうするもなにも部活もあるし…」


「そうじゃなくてさあ、ほら、彼女!」


夕希は興味津々といった感じでこちらを見てくる


「何も無いよ」


「……」


信じられない、といった顔で夕希がこちらを見ている。


なんだそのリアクション?


「何か、おかしな事言ったかな?」


「十分おかしいわよ。あんた、彼女放っておくの?」


「それは確かにおかしいな」


「…甲斐性なし、か」


夕希の発言に男二人も同調する。


お前らには言われたくないぞ。男二人。


「うーん…。そう言われても特別に何かしなくてもいいような」


偽物だし、とは言わないでおこう。


「そんなわけないでしょ。あ、そうだ」


夕希が何か閃いたのか、パンと手をたたく。


「ん? 夕希?」


「こうなったらダブルデートよ! 正明、愁一、あんたたちも付き合う!!」


「ちょっと待ちなって夕希。男三人に女一人のダブルデートなんて聴いたこと無いよ」


「違うわよ! 正明、あんたは薫を誘いなさい。愁一は私とオマケ」


「へ? それだとトリプルだろ?」


「ダブルがダメならトリプルよ!」


夕希はもう決定! とばかりに鼻息を荒くしている。


一方、男性陣は


「どうする?」


「お、俺は別に構わないぞ」


「俺も構わん。久しぶりに楽しめそうだ」


強引な夕希の提案に乗ることにした。


そしてダブル改めトリプルデート当日


さて、誰が最初に来るか…。おそらくは正明だろうな。


次に愁一、そして女性陣かな?


そんな予想を立てながら待ち合わせ場所のバス停に佇んでいると予想通りの人物の姿が見えた。


「おお、早いな」


最初にやって来たのはやはり正明だった。


「…予想通りすぎてつまんない」


「ん? なんか言ったか?」


「いーや、何でもない。どうせ薫とデートが出来るってことで、興奮して寝れなかったんだろうなーと思って」


「な、何でわかるんだ?」


正明は驚いた顔で尋ねる。


「何でって、目の下にくまが出来てるよ」


「ほんとか? 鏡を見たときはそんなことなかったんだが」


「嘘だよ。鎌をかけてみたんだけど、こんなに見事に引っかかるとはね。相変わらずわかりやすい奴だねぇ。服装まで気合入れちゃって」


正明は流行りもののシャツとパンツを組み合わせて、いかにも気合入ってますといった感じだ。


ちなみに僕は面倒なのでワイシャツにジーンズという当たり障りのない格好である。


「う、うるさい」


正明は見透かされて悔しそうだ。


「他はまだ来てないみたいだな」


「ああ、でもそろそろ来るんじゃないかな。もうすぐ集合時間だし」


そう言っていると、残りの愁一と夕希がやって来た。


「おー早いね。感心感心」


夕希はシャツにショートパンツといかにも動きやすさを重視しました、といった格好をしている。


「…よう」


パーカーにジーンズ姿の愁一が夕希の背後から現れる。


「残りは二人か」


正明はきょろきょろと辺りを見回す。


「そんなに早く逢いたいのかい?」


からかってやる。


「ち、ちげえよ! あ、あの二人そうじゃないか?」


正明の指差す方向にはカーディガンにロングスカート姿と春らしい色のワンピースを着た女性の二人がいた。


「あら、みんな早いわね」


「もしかして、私達遅刻?」


「いや、時間ぴったりだよ。二人共今日はありがとう」


夕希が二人の前に出てにこやかに話す。


「いいのよ。私も少しは楽しみだったし」


「私も遊園地は久しぶりだから楽しみ」


「じゃあ全員揃ったのでしゅっぱ~つ」


夕希の号令に全員が頷いた。


バスに乗ること15分。目的地の遊園地最寄りのバス停に到着。


バスを降りて遊園地の入場口で、各々料金を支払う。


男性が奢る? 金欠な高校生にそんな格好いい真似ができるわけがないだろう。


「最初はどれに乗ろうか?」


正明が聞いてくる。


「任せるわ」


「やっぱ遊園地ときたらジェットコースターだよ!」


「私も賛成」


「じゃあジェットコースターにしようか」


まずい、このままではいきなりジェットコースターに乗る羽目になってしまう。


実は僕はジェットコースターが大の苦手だ。あの落下する感覚がどうしても好きになれない。


ここはなんとか流れを変えねば。


「あのー最初はもっと刺激の少ないものにした方が…」


「あら、あなたジェットコースターが嫌いなの?」


「いえ、そんなことはないんですけど…」


「ふーん。山名君、私もジェットコースターが言いと思うわ」


こいつ、僕の顔色見て決めたな。なんて女だ。


「じゃあ、最初はジェットコースターに乗ろうか」


僕の提案はあっさりと却下された。


「じゃああたしは愁一と乗るから、薫は正明、花丘さんは慧とね。行くよ、愁一」


「ああ」


夕希、愁一の組はそう言ってさっさとジェットコースターに向かって歩き出す。


「雪村くん、行こ?」


「はいはい」


次いで僕と花丘さん。


「じゃ、じゃあ俺達も行こうか」


「ええ」


最後に正明と薫の組が続いた。


入場口から歩いて5分ほどでジェットコースター前に到着。


コースを見ると回転アンド急降下多数とかなりの高レベルの絶叫マシーンのようだ。


特に最初の急降下の距離は正気の沙汰とは思えない。


誰だこんな設計したの。


「へえー、聞いてはいたけど凄そうだね。よーし、ますます楽しみになってきた」


夕季はこれを見てさらに気分が高まっている。うらやましいかぎりだ。


「……」


言葉がでない。まずい、間違いなくこれは耐えられそうもない。脂汗が出る。


「雪村くん、顔色悪いけど大丈夫? あ、もしかして苦手なの?」


「そんなとこです…」


肩をすくめる。


「ムリしないほうがいいんじゃない? ほら、そこのベンチで待ってるとか…」


「いやいやダイジョウブデスヨ」


「…大丈夫そうに見えないんだけど」


花丘さんは心配そうにこちらを見やる。


「それにしても、すごいな。ここのジェットコースター。龍崎さん、大丈夫?」


遅れてきた正明たちもジェットコースターのコースを見て驚きを隠せないでいる。


「ええ、私は別に平気よ。でも、誰かさんは平気じゃなさそうだけど」


と、こちらを見てくる薫。


「…」


返す言葉もない。


「慧、駄目ならやめた方がいいぞ」


「そうだよ。無理して気分でも悪くなったら大変だからね」


正明と夕季が心配そうに声をかける。


「いや、大丈夫だよ。このくらい」


無理矢理平気そうな顔をして答えた。


「じゃあ早速乗ろうか。ほらみんな行くよ」


夕季は待ちきれないといった感じだ。


「ああ、行こうか」


「そうね。行きましょ」


こうなったら覚悟を決めるしかない。


10分ほど並んだ後、僕達の番が来た。


シートに座り、固定具を取り付けられる。


ああ、いよいよ始まるのか。


開始を告げるベルが響き、ゆっくりとジェットコースターが前進を始める。


ジェットコースターの開始をこんなゆっくりにした奴は一体どこのどいつなのだろう?


もう気分は断頭台に載せられる人間である。


ゴトゴトゴト…。


ジェットコースターが停止する。いよいよ始まりのようだ。


そして一気に落下。落下が終わると上下が入れ替わるそしてまた落下


顔を切り裂かんばかりの風、やはり耐えられそうもない。


早く終わってくれ…。


俯いたままただそれだけを願った。


回転、旋回、急降下のオンパレードの後、ようやく元の場所に戻ってきた。


「ああー、楽しかった。後でもう一回乗ろうか?」


ジェットコースターから降りるなり夕希は言う。


こんなものを2回も乗ってどうするのだろうか?


「そうだなあ。じゃあ最後にもう一回乗ろうか」


「いいわね。ねえ、雪村くん?」


「……」


まずい、このままだと倒れてしまいそうだ。


やはり耐えられなかったようだ。片膝をつく。


「ちょっと慧、あなた大丈夫なの?」


「だ、大丈夫。少し気分が悪くなっただけだから、そこら辺のベンチにでも行って休んできます」


「仕方ないわね。私が…」


「そんな青い顔して大丈夫なわけないじゃない。 私は雪村くんの介抱するから、みんなは遊んできて」


そう言うと花丘さんはベンチの方へと引っ張っていく。


「わかった。じゃあみんな、慧は花丘さんに任せて行こうかー」


「あ、ああ。そうしようか。俺らは邪魔みたいだし」


「そうだな」


3人はそう言って再びジェットコースターの列に並ぼうとする


「…」


薫だけは2人の方を見ていた


「薫ー? 行くよー」


夕希に呼ばれて薫もジェットコースターへ向かっていった。


何だ? 薫のやつどうしたんだろう?


薫の妙な動きが気になったが、それどころではない。


「さ、座って」


花丘さんに促されてベンチに座り、背もたれにもたれかかる。


「横になったほうがいいんじゃない?」


隣に座った花丘さんが心配そうにこちらを見る


「大丈夫。横にならなくても座ってればすぐに落ち着くよ」


「…えい」


「え?」


花丘さんに襟首を掴まれて無理矢理横にさせられた。


-あ、


後頭部に柔らかい感触。どうやら花丘さんに膝枕をされているようだ。


「あのー花丘さん?」


「この方が楽でしょう?」


「は、はい。でもここまでしなくても」


これじゃ本当の恋人同士みたいだ。


「ひ、日頃のお礼よ。偽物やってもらってる」


「は、ははは」


力無く笑う。


「な、何がおかしいのよ?」


「いえ、名前だけの彼氏やってるだけなのに、お礼なんて」


「あら、結構助かってるのよ。以前よりアプローチが減ったし」


「そうなんだ」


「そうよ。だから、その御礼」


「わかりました。ではありがたく頂戴します」


目を閉じる。


それからしばらくして回復した僕は薫とともに4人に合流した。


「よーしみんな揃ったから観覧車に行こう」


夕希の号令に従い、観覧車に向かう


乗る面子はジェットコースターと同じになった


…絶対に外は見ないようにしよう。


「雪村くん、大丈夫?」


観覧車に乗るなり、花丘さんに心配された。


「大丈夫だよ。もう落ち着いたし」


「よかった。私の膝枕が効いたのかしら?」


花丘さんがイタズラっぽい笑みを浮かべる


「そうかもしれないね」


「あ、『かも』なんだ」


「すみません、効果てきめんでした」


「よろしい」


二人して笑い合う。


「それにしても今日はよく来てくれたね。断ってもよかったのに」


「断る?どうして?」


花丘さんは首を傾げる。其の姿がまた可愛らしい。


「いやだって、僕偽物の彼氏だし」


「偽物でも他の娘といたら、そのほうが問題じゃない?」


「ま、確かに」


花丘さん以外の娘とこんなトコにいる事が知れたらそれはそれでまずいか。


「…それに偽物なんて口実だし」


小声で花丘さんが何かを呟く


「なんか言った?」


「あ、終わったみたい」


出入口が開けられるなりそそくさと花丘さんは出て行ってしまった。


なんだったんだ?


その後、ひと通りのアトラクションを楽しんで遊園地を出る。


再びバスに乗って元の待ち合わせ場所に戻ってきた。


「みんな今日はごめん、迷惑かけて」


「謝らなくてもいいわよ。久しぶりに情けない顔したあなたを見て楽しめたから」


「まったく。男のくせになっさけないなあ。あんなジェットコースターくらいで気分が悪くなるなんてさ」


「…苦手なものは誰にでもある」


「別に気にするなよ。誰でも苦手なものはあるからさ」


みんな僕を責める気はないらしい。


「じゃあ、かいさーん!」


夕希の最後の号令が響き、みなそれぞれ帰路につく。僕は正明と同じ方向に歩いて行く。


「正明、今日はすまない」


「いいんだよ。ところでお前、本当に大丈夫なのか?」


こいつは本当にいい奴だ、だからこそ辛い。


「ああ、もう落ち着いたから大丈夫だよ」


「しかし、お前がジェットコースターが苦手とはな」


「…落下する感覚は嫌いなんだよ」


「そうか。でも怖いもの知らずの慧君の意外な一面が見られたな、今日は」


「僕だって怖いものはあるさ」


「へえ、じゃあ次はみんなでバンジージャンプにでも行こうか?」


「…勘弁してくれよ」


夕日が眩しい中、二人で歩いて帰った。

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