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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
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一緒に食事

やっと4つの授業が終わり、食事の時間がやってきた。放課後になるまでの唯一の楽しみである。


「慧。行こうぜ」


正明は早くも弁当箱を片手にやって来た。


「ああ、行こう。愁一は?」


「ああ、購買部にダッシュして行った。場所は取っておいてくれだって」


「そうか。じゃあ行くか」


「ああ」


いつものように屋上へと向かった。


学校の屋上といえば金網がある程度の殺風景な場所だが、うちの学校は私立校のせいなのか木が植えてあり、床は煉瓦張り、さらに木陰にはベンチと椅子とテーブルがいくつか存在する。そのせいか、昼寝をしに来る生徒や食事を採りに来る生徒も結構いる。


「今日は空きがあるかな」


正明はテーブルがある方を見回す。


「あそこが空いてる」


空いているテーブルを指さす。それは木陰の部分からはみ出ているためあまり人気のないテーブルだ。しかし、今日は来るのが遅かったのか空きはそこしかない。


「あちゃあ、あそこだけか」


正明がしまったと額に手をやる。


「まあ仕方ないね」


正明が躊躇している間にさっさと席につく。当然、日陰側だ。


「あ、お前、抜け駆けとは卑怯だぞ」


「じゃあ二人で並んで食べるかい?」


「……わかったよ」


正明は渋々と反対側の長椅子に腰掛ける。


「いただきます」


互いに自分の弁当を広げる。


「相変わらず食べないな、お前」


正明はこちらの弁当を見ながら言う。


「これでも普通の人のやつより大きいよ。だいたい、お前が食べ過ぎなんだよ」


正明はいつも二人前くらいの弁当を持って来る。今日も大盛りのライスの入った弁当箱とおかずの入った弁当箱は別々だ。


「そうか?やっぱり食べないと後が辛いからな。お、その肉うまそうだな」


正明は自分の弁当だけでは飽きたらず、人の弁当に手を出そうとする。二人前も食べているのに他の奴の弁当にまで手を出すとはと呆れたくもなるが、もう日常化してしまったため大した抵抗もない。


「ほれ」


1切れあげる。


「お、ありがとな。もぐもぐ…、うまい!」


正明は感嘆の声をあげる。


「それは良かった」


「相変わらずいい腕だな、お前」


「それはどうも」


正明と二人で食べていると、


「…すまん、遅れた」


愁一が購買で買ってきたものが入った袋を片手にやって来て、木陰側の長椅子(つまり僕が座っている椅子)に腰掛ける。


「お、来たか」


「先にいただいてたよ」


「ああ、別に構わない」


愁一はそれだけ言うと、紙袋からパン5つ(カレーパン、コロッケパン、焼きそばパン、メロンパン、ジャムパン)と紙パックのオレンジジュースを取り出し、食べ始める。


「これまた妙な組み合わせのパン達だね」


率直な感想を述べる。


「手が届いたものを適当に集めたらこうなった」


愁一は眉一つ動かさずに黙々とパン(カレーパン)にかぶりついている。


「まああそこは戦場だからな」


正明は一口カツを口に運びながら言う。二人前あるというのにもう3分の1は食べている。


「確かにそうだな」


愁一は静かに答えてまた黙々と食べる。こちらはもう2個目ジャムパンに突入である。


正明は驚いて愁一を見る。


「愁一、何でカレーパンの後にジャムパンなんだ?」


「……」


愁一は少しの間黙ると


「…単に好きな順番に食べているだけだ」


それだけ答えてジャムパンにかぶりつき始めた。


「食べ合わせってものがあるだろう?」


正明はまだ食い下がる。


「…正明君、こいつはいつもこうだから気にしない方がいい」


「そ、そうなのか?うーむ…ぶつぶつ」


どうやら正明には理解しがたい行動らしい。箸を口に運びながら何かブツブツと呟いている。


そんなやりとりをしながら三人で食事をしていると


「あ、三人もここで食べてたの?」


正明の背後に、花丘さんと仁科さんがお弁当を片手にやって来た。


「ああ、花丘さんに仁科さんもいつもここなの?」


正明は振り返って言う。


「いえ、たまに来るぐらいです」


「今日は天気もいいから外で食べようと思って」


二人は予想通りの答えを返す。


「そう。確かに今日は天気がいいよね。」


正明は相づちを打つ。


「でも来るのが遅かったみたいね。もうどこも空いていないのよ」


花丘さんはそう言ってテーブルを見回す。


「じゃあここでよければ…」


正明は食べかけの弁当箱2つと水筒を持って席を立とうとする。


「待て、正明君」


正明を制止する。


「な、何だよ?」


「愁一、移動だ」


「ああ」


愁一と二人で正明の座っている長椅子に移動する。


「お前ら二人が移動しなくても俺が移動すれば…」


「…ふう」


愁一は正明の反応に溜息で答える。


「正明君、我々男三人が日陰にいるわけにはいかないだろう?」


「あ、そうか」


正明はやっとこちらの意図を理解した。


「じゃあ二人ともどうぞ」


テーブルの反対側に手を向けて、座るように促す


「ありがとう。じゃあ失礼させてもらうわ」


「失礼します」


二人は我々男三人の対面に座り、弁当を広げる。


「二人とも、美味しそうだね。」


正明はこの二人の弁当にも手を出そうとする気なのだろうか?目を輝かせている。


「そんなことないですよ。それにしても、山名さん、そんなに食べるんですか?」


仁科さんは正明の弁当の中身の多さに目を丸くしている。


「仁科さん、こいつは異常だから」


「こら! 人を変人扱いするな!」


声を荒げる正明。


「そう言う雪村さんも、沢山食べてるじゃないですか」


仁科さんは珍しく突っ込みを入れてくる。


「まあ確かに多めだけどね」


「さつき、あなたが食べなさすぎるだけでしょう? だから背が伸びないのよ」


花丘さんは笑顔を作りながら言う。花丘さんの言う通り、仁科さんはかなりの小食である。弁当箱はおかずとご飯が一緒に入っているというのに、大きさは正明の4分の1程だ。


「…別にいいだろう。自分に合った量を食べればいい」


愁一は無表情のまま言う。


「景浦さんの言うとおりです。水音ちゃん、酷いです! そう言う水音ちゃんは食べ過ぎだから太るんです」


仁科さんは反撃に転じる。


「う、痛い所を…」


花丘さんは黙ってしまう。


「花丘さんってそんなに食べるの?」


正明は意外そうな顔をしている。


「そうです。私の倍は食べます」


仁科さんが肯定する。


「倍って…、あなたが普通の人より少ないだけでしょう?」


花丘さんは慌てて反論する。


「確かにそうかもしれませんけど。それでも少し多いと思います」


ひるまない仁科さん。


「う…。でもやっぱり食べないと保たないのよ」


花丘さんはいじけるように言う。


「そうだよね。やっぱりしっかり食べないとね」


正明はまた相づちを打つ。


何か…、平和な家族の団欒みたいだねえ…


そんな様子を見ながら黙って食べていると、


「雪村くん」


花丘さんが話しかけてきた。


「何?」


「その煮魚、美味しそうね?」


ここにも人の弁当を狙う輩が。


「ああ、どうぞ」


煮魚を渡す。


「ありがとう」


花丘さんは早速口に運ぶ。


「…美味しい」


正明と同じく感嘆の声をあげる。


「そんなに美味しいんですか?」


仁科さんは花丘さんを見る。


「ええ。雪村君のお母さんって料理上手なのね」


花丘さんは感心している。


「ああ、それこいつが作ったんだよ」


正明は余計な事を言う。


「ええ! 嘘でしょう?」


花丘さんはもの凄く驚いている。


「水音ちゃん、そんなに驚いたら失礼でしょう?」


珍しく仁科さんがたしなめる。


「ああ、ごめんなさい。あまりも意外だったから…」


花丘さんはハッキリと言う。


「そうでしょ?俺もこいつが自分で作っているって聞いてびっくりしたもの」


正明は何故か得意げだ。


「…俺もだ」


さりげなく愁一も肯定する。


「雪村さんと景浦さん、お母さんは料理しないんですか?」


仁科さんは不思議そうに聞いてくる。


「まあ…ね」


「…いや、今日はたまたまだ。いつもはきちんと作ってくれる」


愁一は4つ目のパン(メロンパン)にかぶりつきながら答える。


「そうですか」


「雪村君のお母さん、仕事人間なの?」


花丘さんもこの話に興味があるらしい。食いついてくる。


「まあ、そんな所かな」


「それは問題ね。さつきのお母さんだってお弁当だけは作っているのに」


花丘さんは憮然としている。


「え、そうなの?」


正明は意外そうな顔をする。


「そうです。お母様は料理が好きで『忙しくてもお弁当くらいは自分で作る』って言って作ってくれるんです」


仁科さんは嬉しそうに話す。


「へえ、良いお母さんなんだね」


正明は感心している。


「はい」


仁科さんは笑っている。


「雪村君も、さつきのお母さん見習った方がいいわね」


花丘さんはそう言ってうんうんと頷いている。


「…まあそうだね」


「まあそれはいいとして、雪村君、これあげる」


花丘さんは卵焼きを一切れくれた。


「え?別にいいよ」


「いいから、煮魚のお礼よ」


「はあ、じゃあいただきます」


口に運ぶ。


「……」


「どう?」


花丘さんは自信に満ちた顔でこちらの様子をうかがう。


「……負けた。花丘さんのお母さんって凄いね」


「ふふふ…。残念、それは私が作ったものよ」


花丘さんは勝ち誇っている。


「え? じゃあ花丘さんも自分で作ってるの?」


正明は意外そうな顔をする。


「そうよ。これでも腕には自信ありよ」


花丘さんは得意げに胸を張る。


「花丘さんって本当に何でもできるんだね」


正明は感心している。


「本当に、羨ましいですねえ」


仁科さんもだ。


「別にそんな事無いわよ」


あくまで謙虚な花丘さん。


「…そろそろ昼休みが終わるぞ」


いつの間にか自分の分を平らげた愁一が呆れたように呟く。


「そういえばそうだな」


残りをさっさと平らげる。


「じゃあ二人とも、喋ってばかりいないで食べようか?」


正明は二人に確認を取る。


「そうですね。昼休みが終わってしまいますね」


「ええ、急ぎましょうか」


それからは黙って弁当を食べた。


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