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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
48/49

クリスマス

時間は午後4時を少し回ったところ。携帯が震える。表示された名前は彼女だ。


「もしもし」


「あ、慧くん。今からウチに来ない?」


「行く行く。準備したら出るよ」


電話を切り、戸倉先生の所にでかける旨を伝えに行く。


「先生。今日は遅くなります」


「そう。彼女さんと仲良くね」


「はい。行ってきます」


施設を出て瑞音の家へと向かった。


店の裏手の玄関のインターホンを押すと、いつもより気合の入った格好の瑞音が出迎えてくれた。


「いらっしゃい。さ、入って入って」


瑞音に招き入れられ、居間へと通される。


居間にはすでに食事とケーキが用意されていた。


「まずは乾杯しましょうか」


ノンアルコールのシャンパンをグラスに注ぐ


互いにグラスを持って向き合う


「じゃ、乾杯」


「乾杯」


チン、とグラスのぶつかる音がする


「さあ、どうぞ」


シャンパンを飲んだかと思うと、瑞音が切り分けたケーキを差し出す。チョコレートのケーキだ。


「…すごい。美味しそう」


「味の保証はしないわよ」


どうやら手作りのようだ。


フォークでケーキを一口大に切り、口へと運ぶ


思ったより甘くなく、くどさもない。


「美味しい」


「本当?ありがとう」


瑞音は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、どんどん食べてね」


目の前では鍋が煮えている。寄せ鍋のようだ。


「ええ。いただきます」


適当に具材を取り、口へと運ぶ。


「うん。こっちも美味しい」


「良かった」


「そういえば、こうやって瑞音が作ったもの食べるのって初めてだな」


「…そんなに食べたいならお弁当作るのに」


「いや、そこまでしなくてもいいよ」


「じゃあ、たまにおかず分けてあげるわ。それなら良いでしょう?」


「はーい…」


話しながら二人して鍋をつついた。


「ふう、美味しかった」


「美味しかったねー」


「じゃあ、食後のデザートといきましょうか」


瑞音はそう言って箱をテーブルに乗せる。


「食後?デザートは食前に食べたはずじゃあ…」


「食前に食べるのはデザートとは言いません」


「…ま、確かにそうか。で、一体何が出るの?」


「これよ」


瑞音は箱を開けてアップルパイを取り出す。


「作り置きしておいたもので悪いんだけど、どうぞ」


「じゃあいただきます…ってまずは切らないとな」


「ちょっと待って、切り分けるから」


「はーい。じゃあお願いします」


瑞音がアップルパイにナイフを走らせる。さすがに慣れているのか、アップルパイは綺麗に8等分される。


「はい」


「ありがとう」


切り分けたアップルパイを受け取る。


「美味しそうだね」


「『美味しそう』じゃなくて、『美味しい』のよ」


瑞音は自信ありげに言う。


「じゃあいただきます」


「どうぞ」


瑞音は自分のアップルパイに手をつけようともせず、期待に満ちた眼でこちらをじっと見つめている。


アップルパイを口に運ぶ。パイのサクサクした食感の後、中からりんごの酸っぱさとほんのりとした甘さが染み出してくる。どうやら砂糖は控えめどころかほとんど使っていないようだ


「うん、りんごの味がして美味しい」


「ほ、本当?」


「うん。砂糖ほとんど使ってないのがいい感じだよ」


「良かった…。あなたは甘くない方が好みだと思って使わなかったんだけど、ちょっと物足りないかもって不安だったのよ」


瑞音はほっと胸をなで下ろす。


「これならいくらでも食べられる」


「じゃあ沢山食べて」


瑞音は上機嫌になり、まだ食べ終わってないのに皿にさらに2切れ乗せてくる。


うーん…こうして自分好みの味に仕上げてくれる心遣いは何ともありがたい。


幸せな気分に浸りながらアップルパイを頬張り続ける。


「……」


瑞音はニコニコしながらじっとアップルパイを食べる様子を見ている。


うーん…さすがにちょっと恥ずかしい。


「……あの、見つめてないで瑞音も食べたら?」


「え? あ、ごめんなさい。わ、私も食べるわね」


瑞音は頬を赤くして下を向いて自分のアップルパイを食べ始める。恥ずかしさも手伝っているのか、先程よりもさらに速い速度で食べている。


……放っておいたら全部食べるんじゃないだろうか?


……


結局、8切れあったアップルパイのうち、5切れは瑞音が食べてしまった。


「…ごめんなさい」


瑞音が申し訳なさそうに頭を下げる。


「はは…好きなんだから仕方ないよ。とっても美味しかったよ、ありがとう」


「どういたしまして。あ、そうそう。忘れる所だったわ。はい」


瑞音は包装紙に包まれ、リボンのついた箱を差し出す。


「ありがとう。あ…そうそう。これ、僕からのプレゼントです」


瑞音の前にプレゼントの入った袋を差し出す。


「ありがとう。開けていい?」


「どうぞ」


そう言うと瑞音は袋を開けて、中にある物を取り出す。


「あ…これって! あの時の」


瑞音は袋の中から出てきたものを見て驚いた顔をする。


「そう。昨日それを買ったんだ」


「とっても嬉しい。明日から早速着るわ」


「どうぞ」


「慧くんもプレゼント、開けてみて」


「あ、はいはい」


テーブルの脇に置いてある箱の包装紙を取り、ふたを開ける。


「あ、これ…」


中には新品のスパイクが入っていた。最近発売された、今履いているスパイクの最新モデルだ。


「そろそろスパイクを替えた方がいいかと思って」


「あ、ああ。だけど…」


こんな高いものを受け取っていいのか?確かこれは2万近くするモデルだ。


「値段のことなら、気にしなくていいの。受け取って。だいたい、あなたがくれたこのコートだって同じような値段がするでしょう?だから遠慮しなくても良いのよ」


瑞音はこちらを真っ直ぐに見据えてくる。その眼を見ていると、やっぱり受け取れないとは言えなくなった。…4割引で買った事も。「…わかった。ありがたく受け取るよ」


「ええ、そうして」


「ちょっと、履いてみてもいいかな?」


「どうぞ」


許可を得て、紐を通して履いてみる。今まで使っていたスパイクよりも軽く、サイズもピッタリで履き心地も良い。


今までのものよりも足に馴染むような感じが凄く良い。実際にボールを蹴ってみないとわからないが、違和感なく使えそうな気がする。


…とと、いつまでもスパイクに熱中して瑞音を放っておくのもマズいな。


スパイクを脱いで箱にしまう。


「すごいね…これ」


「ふふ…」


「どうしたの?」


「だって、おもちゃをもらった子供みたいに目を輝かせてるんだもの」


そう言って瑞音は渡した甲斐があったと言わんばかりに、嬉しそうに笑っている。


「はは…そうかな?」


「どう、使えそう?」


「ああ。全然違和感もないし、今まで履いていたヤツよりずっと良いよ。でもサイズや色の好みまで良くわかったね」


「私の情報網は完璧なのよ」


瑞音は得意気に胸を張る。


しかし、情報網って…色の好みはともかく、サイズまで知っているのはマネージャーの皆さんと正明ぐらいしかいないだろう。


「それは山名君という名の情報網? それともマネージャーの皆さんかな?」


「山名君に聞いたのよ。喜んで教えてくれたうえに、一緒に選んでくれたしね」


瑞音は笑っている。


…普段散々からかったから、からかう材料ができて、嬉々として選んだんだろうな。そんな正明の姿に目に浮かぶようだ。


まあそれでも今回ばかりは、何を言われても感謝しよう。


「大切に使うよ」


「ええ。それを履いて、予選は休んだ分選手権で大暴れしてね」


「はは…がんばます。あ、もうそろそろ帰らないと」


「ええ…」


瑞音は何故か少し沈んだ顔をする。


「どうかした?」


「……しないの」


「え?」


「二人きりでしか出来ない事、しないの?」


瑞音は顔を上気させながらこちらを見る。


「ああ…いいの?」


「うん」


「わかった…」


瑞音の方に近付いく。


「……」


間近で見る瑞音の顔は、いつになく綺麗だった。


瑞音の顎の辺りに手をやり、そっと自分の顔を近づける。


「ん…」


「ん…」


唇を数十秒重ねて、離す。


「じゃ、行こうか」


「…嫌」


瑞音は何故か不満げな顔でこちらを見る。そして、今度は瑞音の方から唇を重ねてくる。


「ちょっと、瑞…!」


瑞音は唇を重ねると同時に、舌をこちらの口内に滑り込ませてきた。


「ん…ふ…うん」


瑞音は滑り込ませた舌で口内を貪るように舐めながら、舌を絡めようとしてくる。


くすぐったいような、それでいて気持ちいいような…。


今まで感じた事のない妙な感覚に戸惑いながらも、恐る恐る自分の舌を絡めようとする。


すると瑞音は一気に舌を絡ませてくる。


「ん…ん…ちゅ…はぁ…んん…」


舌同士が絡み合う感触と、口の中で混ざり合う唾液が喉を通る感覚だけが頭の中を支配し、気が付くとこちらも負けじと


瑞音の唇と舌を貪っていた。


「ふ…ん…んう…はぁ」


時間にして1分程、互いの舌と唇を絡み合わせた後、互いに息を吐きながら唇を離す。


心臓が脈打つ音が聞こえてくる。


「じゃあ、帰るよ」


「うん」


瑞音は満足そうな笑みを浮かべていた


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