プレゼントはどうしよう?
クリスマスまであと1周間。
冬休みも到来しようかというところで妙に真剣な顔をした正明が目の前にやってきた。
「慧。話がある」
「ん?何の話?」
「…その、ここじゃなんだから、屋上にでも行かないか」
正明は周囲に聞こえないように小声でささやく。
他の連中に聞かれたくない話とは、珍しい事もあるものだ。
「いいよ。行こうか」
その珍しさに興味を引かれたか、正明の後について屋上へと行く事にした。
さすがに冬とあって屋上には誰もいない。
「で、話って?」
一応周囲に人がいない事を改めて確認した後、正明に問い質す。
「じ、実は…」
正明は何故かそわそわと落ち着きがない。手を組んだりほどいたりしながらモゴモゴと喋る。
…野郎がそれをやると気持ち悪いぞ、正明。
「実は?」
心の中に浮かんだ言葉を胸にしまい込み、とりあえず気にしない事にする。
「その…お前、龍崎さんの欲しいものって知らないか?」
正明は手を組んだりほどいたりしながら今度はやや俯き加減で恥ずかしそうに顔を赤くしている。
…だからそれは余計に気持ち悪いぞ、正明。
「欲しいもの?」
「そうだよ。ほら何か知らないか?」
「何でまたそんなこと…あ、そうか」
こいつ薫と過ごす気か。
「その…まだ上手くいくかわからないんだけどよ。クリスマスは龍崎さん誘って遊園地でも行こうかなって…」
「なるほど。そこで帰りにでもさりげなくプレゼントをあげると…」
「ま、まあそんなところだ」
「で、上手くいったところでお持ち帰りでもするのかい?」
「も、持ち帰り?!」
正明が素っ頓狂な声を上げる。
「あれ?違った?」
「ばばばばば、バカ言うな!そんなことできるわけないだろうが!だ、だいたい、家には両親もいるしうるさい姉貴どもが…」
「ホテルにでも行けばいいじゃないか」
「だ、だだだだから、お、お前じゃあるまいし、そんな大それた事俺にできるわけないだろ!」
正明は顔を赤くしたままギャーギャー喚く。
「うーん…この調子じゃプレゼント買ってもあげる事ができずに終わりそうかな?」
「う、うるさい! と、とにかく教えろ! いいから教えろ! ただし予算は2万以内で!」
正明はそう言って必死の形相で掴みかかってくる。
「そうは言ってもね、僕だって薫が欲しがってるものなんて知らないよ」
「嘘をつくな! お前なら知っているはずだ! それとも何か? 俺には教えられないって言うのか? そうなのか? そうなんだな?」
正明はさらに食らいついてくる。
「とにかく、落ち漬けって」
胸ぐらを掴む正明の手を振り払う。
「はぁはぁ…。す、すまん」
「別にいいけどね。…そうだな、薫が欲しがっている物なら夕希の奴に聞けばわかるんじゃないかな?」
「高平さんに?」
「そう。こういうのはやっぱり友達に聞くのが一番でしょ」
「なるほど…。よし、じゃ早速聞いてみる」
「ああちょっと待て」
早速実行に移そうとする正明の肩を掴む。
「何だよ?」
勢いをそがれた正明が不機嫌そうにこちらを向く。
「お前、聞き出すってまさか屋上に呼び出す気じゃないだろうね?」
「もちろん。教室でこんな話するわけにいかないだろ?」
「はあ…あのね、お前こんな人気のないところで夕希と二人でいたら妙な噂が立つよ。なにより、薫に知られたら…」
「あ…」
正明はかつてのあの恐怖を思いだしたのか、途端に青ざめる。
「だから、メールで聞いた方が良いよ。知ってるだろ? 夕希のメールアドレス」
「なるほど。よっしゃ、それで行こう」
早速正明は携帯を取り出す。
「別にこんな寒いところでメール打たなくてもいいだろ? 教室に戻ろう」
「あ、そうだな。じゃ、行くか」
正明と屋上を後にして、教室へと戻った。
さて…どうしよう?
席について今度は自分の事について考える。
女性は記念日にうるさいって言うしなあ…。やっぱりプレゼント用意しといた方が良いよねえ。でも、正明と同じで僕も彼女の欲しい物なんて知らないしな。
うーん…とりあえず瑞音の友人にでも聞いてみるか。
瑞音の友人で思い浮かぶのはまず…仁科さんか。
あ、でも仁科さんだと瑞音に直球投げたりしそうだな…。
というわけで仁科さんに聞くという策は却下。
だとすると…副委員長か。…こんな相談したら、学園祭の時みたいに女子の皆様に玩具にされるだけだな。
というわけで却下。
他に瑞音の友人は…駄目だ。あんまり話した事のない人ばっかりだ…。
というわけで友人に聞くという策はすべて却下。
いっそのこと、本人に聞いてみるか?…でもそれだとあげる前からバレるし、つまらないな。
却下。
……どうしましょう?
「どうかしたの?」
一人でどうしたものかと悩んでいると、瑞音に声をかけられた。
「いや、ちょっとね…」
「ちょっとって言う割には、随分悩んでたみたいだけど、何かあったの?」
瑞音が心配そうにこちらを顔を覗き込む。
「大した悩みじゃないから、そんなに心配そうな顔されると困っちゃうな…」
「…そうみたいね。じゃ、私に何かできる事があったら相談してね」
「頼りにしてます」
瑞音はこちらの様子を見て納得したのか、席に戻っていった。
……そうだ。ウチの女性陣に聞いてみよう。
部活を終えて施設に戻ると共用スペースに凛と優子がいた。
ちょうどいい、二人に聞こう。
「凛、優子」
「なに慧?」
「慧兄、なんか用?」
テレビを見ていた二人がこちらを向く
「えーと…女の子って、どんなもの貰ったら嬉しいのかな?」
「は?」
「い?」
二人はキョトンとする。
「もうすぐクリスマスだから、一応用意しておこうかと思って」
「ああ、花丘さんにあげるんだー」
「そういうことならまっかせなさーい」
「で、何がいいだろう?」
「うーん…やっぱりアクセサリが良いんじゃない?」
凛は思案顔で言う
「あー、いーかもね。いきなり指輪とかにしないなら」
優子が同調する。
「なるほど…。他には?」
「他には服とかバッグなんていいと思うよ―。ほら、グーチとかヘネメスとか」
優子が冗談半分に高級ブランドの名前を出す。
「そんな高いもの買えないよ」
「わかってるよー。冗談冗談。高くなくてもいいと思うよ」
「ふむ…しかし、困ったな」
「え、なんで困るの?」
凛が目をパチパチさせる。
「いや、買うにしてもどうやって選べばいいんだろ?」
「それは慧が花丘さんに似合いそうな…あ」
凛は僕が言いたいことに気付いたらしい。
「ああ、慧兄のセンスじゃ選べないか―」
優子がしまったーとわざとらしく頭を抱える。
「どうしようかな…」
「あ、そうだ。慧、花丘さんが欲しがってた物とか心当たり無いの?」
「え?」
「それを買えばいいのよ」
「欲しいもの、ねえ…」
果たしてそう都合良くそんなものがあるだろうか?
彼女が欲しがっていたもの、彼女が欲しがっていたもの…
「あ…」
一つだけ、心当たりがあった。
「何かあった?」
「ああ、あったよ」
「なになに?」
「慧兄、教えて」
二人は欲しがっていたものに興味津々だ。
「先月買い物に行ったときにコート欲しがってたんだよ。あの時は予算が無くて諦めたし、今は古いコートをそのまま着ているから、おそらく買ってないはず」
「へえ…コートか。うん、いいかもね」
「いいんじゃなーい?」
「二人共ありがとう。おかげで何とか決まったよ」
「別に礼なんていいよ。ところでさ…」
凛がこちらに向き直る
「ところで?」
「私には何かプレゼント無いの?」
「あ、そうだ。あたしもー」
二人はそう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「…考えとく」
「ホント!ありがと」
「期待しないで待ってるよ―」
さて…そうと決まれば明日は祝日だし、練習も休みだから買いに行こうっと。




