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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
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踏ん切りが付かない

「おはよう…」


「おはよ」


互いに目を合わせることなく挨拶すると、学校へ向けて歩き出す。


「……」


「……」


微妙な距離を開けながら、二人で並んで歩く。


今日はこうして迎えに来たわけだが、気まずいのは相変わらずである。


…黙っているとはいえ、一緒に歩こうとしているところを見ると、少しはマシな状況になったのかね?


横目で瑞音の様子を窺う。


「……」


押し黙っているとはいえ、これまで感じていた刺々しい雰囲気は無い。ただ、その顔には何か迷いのようなものが感じられる。


…もしかして、アレかな?


土曜日に正明と話していた『どうするか考える』。何について考えているかはわからないが、おそらく迷いの原因はそれだろう。


聞いてみるか?…いや、そんなことをしたら尾けていたことがバレる。でも気になる…。


「あの…」


そんな事を考えていたら瑞音の方から話しかけてきた。


「何?」


「えーと……、やっぱりなんでもないわ」


「そう…」


また二人して沈黙。


結局黙ったまま学校まで歩いた。


教室に入ると珍しく夕希と愁一の二人がいた。そして、何か教室がざわついている。


「おはよー、二人とも」


「…おはよう」


「おはよう」


「グーテンモルゲン」


挨拶を交わす。もう三人とも慣れきってしまっているのか、この手のボケには誰も反応してくれなくなった。…ちょっと哀しい。


「何か騒々しいけど、何かあったのかい?」


「…少し、な」


「なあ慧、正明と薫に何があったか知らない?」


「ん?正明と薫がどうかしたの?」


「…あれを見ろ」


愁一が正明と薫の席の方を指さす。そこには


「……どうして朝が来るんだ? どうして時は止まらない? どうして時は戻ってくれない? 夢はどうして醒める? こんな現実なくなってしまえばいいのに…」


不気味なオーラを漂わせながら何かブツブツと呟いて頭を抱えている正明と


「……」


いつものように静かに文庫本を読む薫…ではなくて、触れれば殺すと言わんばかりに殺気を放ちながら文庫本を読む薫がいた。怒りのあまり手に力が入っているのか、文庫本の手で掴んでいる部分が歪んでいる。


…ありゃ、拗れっぱなしだな。正明の奴は上手くやれなかったか。…まあ人の事を言えた義理ではないが。しかし、相当頭に来ているんだな薫は。…思ったより正明の奴は上手くやってたのかな?


「…一体何があったの? あれ」


瑞音は二人を見て困惑した顔をする。


「…登校して来るなり、あの調子だ。正明の方に何があったか聞いたが、まったく反応がない」


「薫の方にも何があったか聞いたんだけどさ、『一昨日ちょっと腹立たしい出来事があった』としか教えてくれないのよ」


「一昨日? 土曜日に何かあったって事?」


瑞音は少しだけ驚いた顔をする。


「うん、そうみたい」


「一昨日…」


瑞音の表情が曇る。…自分も無関係ではない事に気がついたのだろう。


「ん? どうかしたの? 瑞音」


「い、いえ…何でも」


「で、あの様子だからそれ以上は深く追求できないんだよ。まあ正明と何かあったって事だけはわかるんだけどさ」


「そうだろうね…」


周囲の連中も二人の様子を見て何やらヒソヒソと話している。おそらく二人の間に何があったか憶測が飛び交っているのだろう。落ち込んでいる男と怒っている女。そして男がその女に好意を寄せているのが公然の秘密となっている以上、皆考える事は一つである。


「で、何があったか知らない?」


「いや…知らない」


本当は知っているが、ここで知っていると言えば間違いなく副委員長達に捕まる。


「そっか…花丘さんも何か知らない?」


「え…いえ、何も…」


「そう…」


「…高平、あまり詮索しなくても良いんじゃないのか?」


愁一が夕希を窘める。


「うーん…確かにね。でも、ちょっと気になるじゃない? 慧がらみ以外で薫があれだけ怒ったところ見た事無いからさ」


「…何か僕が酷い人間みたいな言い方だね」


「…心配するな。お前が思っているほど酷くはない」


「しくしく…愁ちゃんそれフォローになってない」


屈んで猫背になって指で床にのの字を書く。


「まあまあそう拗ねるなって」


夕希がポンポンと肩を叩く。


「…しくしく」


「ほら、それだけあんた薫に…あれ?」


夕希が妙な声を上げる。


「ん?どうかしたのかい?」


「あ…そうか…だから…なるほどぉ。うふふ…」


夕希は一人で納得して一人でにやついている。


「な、何だよ?突然にやついて」


「いやー、そうかそうか。うん、めでたいめでたい」


「めでたい?」


「ほらほら…山名がらみで薫があれだけ怒るって事は、山名にも脈があるって事かもしれないって事よ」


「ああ…そういう事ね」


「…しかし、この状況では脈があってもどうしようもないのではないか?」


「……」


「……」


「……」


沈黙をもって、朝の会合は終了した。


退屈な授業を4時間耐えて昼休みの時間が来る。


今日は瑞音を誘って一緒に食事した。しかし


「……」


「……」


互いにテーブルに向かい合って座り、目を合わせる事もなく弁当箱を突く。


普段ならこちらからも話題を提供できるのだが、まだ怒っているのではないか?という警戒感から、こちらから話しかけるのに二の足を踏んでしまう。


「……」


「……」


うーん、これでは何のために二人で昼食を採っているのかがわからない。


「ねえ…」


登校時と同じように、瑞音の方が口を開いた。


「何?」


「その…えっと…。や、山名君と龍崎さん、何があったのかしら?」


「さあ?余程の事があったとは思うけど」


「余程の事って?」


「さすがにそこまでは…」


「そう…」


「……」


「……」


会話が続かない。


結局ほぼ無言のまま昼休みが過ぎていった。


下校時、瑞音の方から誘ってきたので一緒に帰ることにした。


「……」


「……」


陽が沈み、徐々に空が暗く染まっていく中、二人で坂を下る。


瑞音の方から誘ってきたのだが、相変わらず会話が続かず、重苦しい雰囲気だ。


何か今日の瑞音は様子がおかしい。朝からずっと何かを言いかけては言い淀んだり誤魔化したり…、何か言いたいのならはっきり言って欲しい。


「瑞音」


「…何?」


「何か言いたい事でもある?」


「…別に」


「そう…」


結局、深く追求できないまま瑞音と別れた。


自室のベッドに寝転びながら、瑞音の異変について考える。


瑞音、どうしたんだろ?


今日の瑞音は明らかに先週の瑞音とは異なっていた。先週末なんて近付く事すら許さないといった感じだったのに、今日は向こうから近寄ってきた。やはり土曜日のアレが関係しているのだろうか?…しかし、そうだとしたらわからない。一体土曜日に正明との間で何があったのだろうか?…そういえば、金曜日に正明と一緒に帰った時、あいつの様子も変だったな。


まさか…。


ある一つの仮説が浮かぶ。


正明の奴、瑞音に僕と仲直りするように説得したのか?瑞音の様子が先週と違う事に土曜日の件が関係しているなら、そう考えると合点がいく。


あの馬鹿…それで薫との約束すっぽかしたのか?まったく良い奴というか何というか…。


折角あいつが自らを犠牲にしてチャンスをくれたんだ。こちらも関係修復に動くとしよう。


明日決行…と。


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