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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
40/49

不満?5

「どうですか?」


「…ふむ、良くはなっているみたいだね」


「じゃあ…」


「そうは言っても、予想していたよりも回復具合は良くないな。このままだと…思ったよりもかかるかもしれないな」


「そうですか…」


ある程度は予想していた。もう3週間休んではいるものの、まだ筋肉痛や倦怠感は収まっていない。自分でもあまり良くなっていないのは実感していた。だから、もしかしたら…とは思っていた。


「でも、回復しているのは事実なんだ。だから、とにかく焦らないこと」


「はい」


「あとは…もう少し気分転換をした方がいいかもしれないな」


「気分転換ですか?」


「そう。君の場合は回復が遅れている原因は精神面にあるかもしれない。どうせ毎日落ち着かない様子で練習を見ているんだろう?」八原医師はそう言って笑う。


「あらら…バレてましたか」


「長く診ている患者のことだったら、性格面その他までわかるさ」


「確かにそうですね」


「とにかく、まだ間に合わないと決まったわけじゃない。じゃあまた2週間後に来てくれ」


「はい、ありがとうございました」


一礼して、診察室を後にした。


ロビーに行くと病院までついてきた瑞音が駆け寄ってきた。


「どうだった?」


「良くなってるってさ」


「本当? よかったわね!」


瑞音は自分の事のように喜ぶ。


「ああ…」


「どうかしたの?」


「いや…、じゃあ行こうか」


「…ええ。行きましょう」


二人で病院を出て市街地へと向かった。


土曜日ということで、人で溢れかえっている。


そんな中を二人で並んで歩く。


「そういえば初めてよね?付き合ってからこうやって二人で出かけるのって」


「月曜日とか金曜日に寄り道したりしてるじゃないの」


「…それとは別よ」


瑞音は唇をとがらせる。


「学校の帰りか、そうでないかの違いだけじゃないの?」


「それでも違うのよ」


「そういうものかね…」


「ねえ、昼食にしましょ? 行きたいお店があるの」


時計を見ると12時半。昼食時である。


「いいね。行こうか。で、どこに行くの?」


「ついて来ればわかるわよ」


そう言って瑞音はさっさと行ってしまう。


「あ、待ってよ」


あわてて追いかけた。


で、やって来たのはリストランテ・ミケ。


「やっぱここよねー。お値段お手頃で美味しいし」


席に座るなり、瑞音はどこかで聞いた言葉を口にする。


「…私が悪うございました」


テーブルに手をついて謝る。非はこちらにある以上、謝るしかない。


「冗談よ。もう怒ってないわ」


瑞音はからかうように笑う。


そこにウェイターがやって来た。


「いらっしゃいませ。お、今日は本物の彼女連れかい?」


「はい。正真正銘の彼女です」


「え…」


瑞音はこちらの言葉に惚けたような顔をしている。


「…うらやましいな、こんな可愛い娘が彼女だなんて」


ウェイターは苦笑する。


「そうでしょう?ボンゴレロッソとビアンコを一つずつ」


「はい、ではごゆっくり」


オーダーをメモするとウェイターは一礼してカウンターの方へ行ってしまった。


「……」


瑞音はまだ呆然としている。


「そんなに驚いた?」


「うん…。こうやって人に堂々と彼女ですって紹介されると、ちょっと恥ずかしいかな?」


「事実だろ?」


「そうだけど…。やっぱり、慧くんはずるい」


瑞音は照れ隠しなのかそれとも拗ねたのか、窓の外に視線を移す。


「ところでロッソとビアンコどっちがいい?」


「どっちも」


「はいはい…」


……


結局、互いにボンゴレロッソとビアンコを半分ずつ分け合った。


店を出ると時計は1時を回っていた。


「美味しかったわね」


「そうだね」


二人して満足な笑みを浮かべる。


「それじゃ、デパートに行きましょうか」


「はーい」


やって来たのはデパート内にあるブティックの、男物の服が売っているスペースだ。


「これなんかどうかしら?」


瑞音はハンガーに掛かったシャツをこちらに見せる。


「……」


良くはなっている。けど回復具合は予想よりも良くない…か。間に合うって言ってたのにな。


八原医師の言葉を反芻する。


「ちょっと、どうしたの?」


「え? ああ、ごめん」


「さっきから、たまに考え事しているみたいだけど、何かあったの?」


「いや…何でもない」


「…そう。で、これ、どうかな?」


瑞音は再びシャツをこちらに見せる。


「うーん…これなんかの方が好みだけど」


「……」


瑞音は僕が手に取ったシャツを見て唖然としている。


「ん?どうかした?」


「…聞いた私がバカだったわ。私が選ぶから、黙ってて」


「はい」


「うーん、これと、あ、これなんかも…」


瑞音は服を取っ替え引っ替え手にとって見ている。


今日は二人で僕の服を買いに来た。瑞音がどうやら僕の服装のセンスに音を上げたらしく、昨日『明日は休みだから服を買いに行きましょう』と言いだした。で、断る理由もないので了承。


自分では服装のセンスがそんなに悪いとは思ってはいなかったが、悪いことはもう自覚している。瑞音と付き合う以前から周囲の人間から『センスがない。いや、無さ過ぎる』と言われ続けているからだ。…でも、自分の彼女に改めて指摘されるとちょっと悲しかったりもする。


自分の今日の服装を見る。今日だって一応考えて選んできたつもりである。しかし、瑞音にはいきなりダメ出しされた。


「これと、これと、これね。はい、これ全部着てみて」


瑞音は選び終わった服を差し出す。


「はーい」


服を受け取り、試着室へと向かう。


瑞音から渡された服は自分なら絶対に選ばないようなものばかりである。一つは柄がうるさすぎる。もう一つは色が好みじゃない。最後の一つは色も柄もちょっとだけ良いかなとも思う。果たして似合うのだろうか?


一つ目の服を着て、瑞音に見せる。


「どうかな?」


「うんうん。よく似合ってるわ。はい購入決定。次」


「はーい」


再び試着室に籠もって着替える。


本当にこれ似合ってるのか?


自分が試着したばかりの柄のうるさいシャツをまじまじと見つめる。…まあ瑞音が似合うと言うのだから、疑うのも悪いか。


色が好みではないシャツを今度は着て見せる。


「あんまり緑系統が似合うとは思わないけど」


「そんなことないわ。よく似合ってるわよ」


どうやらこれも買うことに決定したらしい。


「じゃあ、最後の着てみるね」


再びカーテンを閉める。


これ、本当に似合ってるのか?…いかんいかん、疑わないって決めたんだった。


最後に残ったシャツを試着する。


「どうでしょう?」


「…うーん、これはやめておいた方がいいかも」


…やっぱり僕にファッションセンスは皆無のようだ。


結局、瑞音の選んだ服だけを買う事になった。


服を購入後、今度は女性物の服の売り場にやってきた。もう10月とあって、冬物の服が並んでいる。


瑞音は売り場に来るなり一直線にコート売り場へと向かう。


「コートが欲しいの?」


「ええ。持っているのがそろそろ古くなってきたから、新しいのを買おうかと思って」


瑞音は売り場にあるコートを一つ一つ見ながら、あれでもない、これでもないと言っている。


…正直なところ、どれでも良いように思う。


この売り場に並んでいるコートはどちらかというと落ち着いた物が多いせいなのか、それほど違いにあるようには思えない。


それでも瑞音は複数に絞った候補を見比べて何か考えている。


「あ」


瑞音が売り場の隅にあるマネキンに着せてある黒いコートを見て声をあげる。どうやら本命が見つかったらしい。


「あれにするの?」


「ええ。値段を見てからね」


瑞音がマネキンの方に駆け寄って、値札を確認する。そして落胆した表情を浮かべる。


「もしかして、予算オーバー?」


「ええ」


そういって瑞音は値札を見せる。


…25000円。


確かにこれは高い。


「いくらかなら出すけど?」


「あなたはさっき服を買ったんだから無理はできないでしょう?それに、他にも買いたいものがあるし、残念だけどあきらめるわ。行きましょう」


「あ、ああ」


うーん…ここでポーンと『買ってあげるよ』とでも言えれば格好良いのかね?


結局、コートは諦めて、冬物の売り場へと向かった。


デパートを出るなり、瑞音は満足そうに伸びをする。


「うーん、沢山買ったわ」


「そうだね」


僕は両手に袋をぶら下げて歩く。時間は既に4時を回っている


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」


「そうしようか」


西日を背に浴びて、二人で駅前通りを並んで歩く。


「ねえ、慧くん」


「何?」


「先生に何か言われたの?」


「別に…」


「じゃあ、どうしてあれからたまに考え事してるの?」


瑞音は責めるようにこちらを見る。


「ああ、ちょっと寝不足でさ。昨日夜更かししちゃって」


「…そう」


瑞音は一瞬悲しそうな顔をして、それきりは押し黙ってしまう。


「……」


せっかくのデートだと言うのに、最後は何となく暗い雰囲気になってしまった。


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