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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
35/49

再交際宣言

「では、ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


施設の面子全員での朝食が終わり、皆それぞれの食器を片付けていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。


どうやら来客のようである。


「はーい」


施設の長である戸倉先生が玄関へと向かう。


すると


「慧クーン。お客よー」


戸倉先生から呼び出しがかかる


「はーい」


食器を片付けて玄関に向かうと


「おはよう、慧くん」


花丘さんがいた。


「ああ、おはよ…。ふわぁ…って何で花丘さんがウチに?」


欠伸を噛み殺す。


「寝坊しないように迎えに来てあげたのに、何ではないでしょう?」


花丘さんは小さく溜息をつく。


「それはどうも。それと…」


「何?」


「いきなり名前で呼ばれるとちょっと恥ずかしいかな?」


「…龍崎さんや高平さんだって名前で呼んでるじゃない」


「確かにね。じゃ、玄関に入ってちょっと待っててね」


「ええ」


「慧クン」


部屋に戻ろうとした所を戸倉先生に呼び止められた


「はい」


「彼女さん?」


花丘さんを指さす


「そんなところです」


僕の返答に戸倉先生があらあらーと色めき立っている。


そこに凛を先頭に中高生組がやってくる。


「先生、どちら様ですか?」


「慧クンの彼女さんだそうよー」


戸倉先生はにこやかに答える


「ええ、慧の!」


「やるぅ、慧兄」


「あらぁ。慧くんにこんな美人さんがねえ」


「慧の兄貴の、か、彼女? 嘘だろ…」


それぞれの反応をする


「え、と…。花丘です。よろしく」


花丘さんは少し困ったように挨拶する


そうして、自己紹介+質問タイムが始まる


「島津です。よろしくお願いします。あの、慧のこと捨てないでやってください!」


「秋村です。慧とはどういういきさつで?」


やれやれ…


騒々しい玄関を後にして自室へと戻って準備を進める。


自室から戻ると、騒々しかった中高生組はもう施設を出た後だった。


「おまたせ、行こうか」


「ええ」


施設を出て、二人で並んで歩く。


「騒々しい連中でごめんね」


「そんなことないわ。皆いい人達だったわよ。色々慧くんについて教えてくれたし」


花丘さんはそう言ってニコニコ笑っている。


…一体なにを話したんだあの連中は。


嫌な予感しかしないが気にしないでおく。


「そういえば、こうやって一緒に登校するのって初めてになるのか」


「そうね。だって『偽物』だったものね」


「ははは…思えば変な関係だったね」


「確かにね」


二人で偽物の時のことを話しながら歩いていると校門前まで来ていた。


二人並んで校門をくぐり、玄関へ向かい、靴を履き替えて階段を登り、教室へと廊下を歩く。


通学路からここまで、すれ違う人は皆驚いた顔をしたり、こちらを指さしてコソコソと話を始めたり、好奇の眼差しや嫉妬との羨望の痛い眼差しを向けてきたりと様々な反応を示した。


女子の場合は二人の姿を見て驚いた後、楽しそうに話の種にしているだけなので別に気にも留めないが、男子の場合は明らかに敵意むき出しの目を向けてくるから厄介なものである。


…これが続くのかと思うと毎日疲れそうだ。まあ、仕方ないのか。


諦めて、教室へと二人で入ると、女子の皆さんから歓声が上がり、いきなり周囲を囲まれた。


「あの…どうしたんです?」


「ちょ、ちょっとみんなどうしたの?」


困惑していると、輪の中から副委員長が歩み出る。


「二人とも、確認したい事があるの」


「何でしょう?」


「あなた達、復縁したの?」


副委員長は眼鏡をくいと直しながら問い質す。


女子の作る輪の外から、ただならぬ視線を感じる。


花丘さんの方へと視線を送る。


「ええ」


花丘さんはいきなり即答した。


この瞬間、女子から指笛やら嬌声やらがあがり、輪の外ではバタバタと何かが崩れる音がした。


「なーんだ。あの噂デマだったのね」


「ほら、私の言った通りじゃない。おめでとう、花丘さん」


「いやぁ、あのときはどうなるかと思ったわよ」


「そーそー。でもおかげで儲かったわ」


女子の皆様に囲まれ、暖かい祝福…ってあれ?儲かった?


「…今、儲かったって言わなかった?」


「え? やーねー。別に何でもないわよ」


「そうよ。とにかく、二人ともおめでとう」


無理矢理押し切られた。よく見ると、周囲を囲む女子の中に悔しそうな顔をしている人がちらほら…。


この人達が何故他人の事でこれだけ喜び、祝福してくれているのかがよくわかった。


祝福の輪が解けて、席に向かうと今度は友人連中に迎えられた。


「慧。良かったな」


「…やれるものだったろう」


「いやあ、元通りになってよかった!」


「おめでとうございます!」


4人して満面の笑みを浮かべている。


「……」


その横の席で1人、黙って何かの本を読んでいる生徒がいた。怖いくらいに無表情で、こちらとは目を合わせようともせず、ただ周囲の状況を無視し続けようとしている。


「ん?どうした?」


「何ボケッとしてんのよ」


「……」


「あ、悪い。みんなありがとう」


…ここは、薫は無視した方がいいんだろうな。本人が無視しろって意志を示しているし。


「花丘さん、こいつ結構人でなしだから気をつけてね」


「花丘さん、こいつ浮気性だから気をつけなよ」


「…人に気持ちを伝えるのが下手な奴だが、これからも見限らないでやってくれ」


「あのね…お前ら。早速妙な事吹き込まないでくれる?」


「大丈夫。がっちり捕まえておくし、不器用で人でなしなのは最初から知っているから」


花丘さんは笑顔ですべて肯定するような事を言う。


「はあ…信用ない上に、酷い扱いなのね。僕」


「そんな事はないです。瑞音ちゃん、素直じゃないところがありますから」


仁科さんがさりげなくフォローする。


「そうなの?」


「はい。あんな事言ってますけど、昨日は私の所に電話してきて…」


「さつき! それ以上言わない!」


花丘さんが慌てて仁科さんの口を塞ぐ。


「む…むー!」


仁科さんはバタバタと暴れる。


「あはは…もう慧にぞっこんだね。花丘さんは」


「…安泰だな」


「逃がすなよ」


「はいはい」


それから放課後になるまで会う人会う人にやいのやいの言われたりなんだりと慌ただしい一日だった。


放課後に入りようやく喧騒から逃れ、部活へと入った。


「ふぃー…」


芝生に腰掛けて、用意しておいたタオルで汗を拭いながらドリンクを飲む。酸っぱい味が口の中に広がり、温い液体が喉を潤す。


気分が良かったのか、今日はついつい3時間も居残り練習してしまった。もう校内は真っ暗で、グラウンドにも誰もいない。


「……」


雲一つない夜空に輝く星を見上げる。別にいつもと変わらない、ただの星空である。しかし、今日はそれがやけに美しく見える。


恋人がいると景色が変わる…ってやつかねえ。


そんな事を考えながら星を見上げていると


「もう練習は終わり?」


突然背後から声をかけられ、心臓がドクリと大きな拍動をする。


振りかえると付き合い始めたばかりの彼女が立っていた。


「…もしかして、待ってたの?」


「ええ」


花丘さんはしれっと言う。


部活が終わる時間はほぼ同じはずだから、彼女は3時間待っていた事になる。やはり帰ってもいいと言っておいた方が良かった。


「隣、いい?」


「どうぞ」


脇に置いてあった空のボトルをよけてスペースを作ると、花丘さんはゆっくりと腰掛けた。


「慧くん、本当によく練習するわね」


「ん、そうでもないよ。ウチの部はみんなよく練習するし」


「ふふ…」


僕の言葉に何故か笑い出す花丘さん。


「何か可笑しいこと言ったかな?」


「ごめんなさい。ちょっと去年の事思い出して」


「去年?」


「ほら、去年文化祭の1週間前に一緒に帰ったことがあったじゃない?そのときも同じ事言ってたなって」


「えーと…」


記憶を辿る。


……そう言われればそんなこと言ったような。朧気ながら思い出す。


「思い出した?」


「…同じ事言ってたかも。それにしても、良くそこまで覚えてたね」


「…だって、初めてだったじゃない? 慧くんと色々話したの」


「確かにね。でもあの時ってそんな面白い話したかな?」


再び記憶を辿ってみるが、あの時は確か花丘さんの質問に素っ気なく答えてただけのような…。


「別に面白い話をしたわけでもないけど、何故か覚えてたのよ」


「…もしかして、その時に惚れた?」


「いーえ」


キッパリと否定された。


「あらら…」


「大体、あんな冷たい態度取っておいて惚れるも何も無いでしょう?」


「ごもっとも」


「まあそうは言っても、それから1週間後には惚れてたけど」


「はい?」


「ほら、文化祭の試合。慧くん大活躍だったじゃない」


「ああ…」


去年の文化祭の他校を招いての練習試合。相手校との交渉の結果レギュラー同士とサブ同士で1試合ずつやることになり、


Bチームも試合に出ることになった。レギュラー同士の試合は白熱して1-0でウチの辛勝だったが、サブ同士の試合は


5-0で圧勝。当時Bチームにいた僕は1ゴール4アシストと結果を出してAチームに復帰するきっかけになった試合だ。


「見てたんだ」


「ええ。それで音楽室の窓からグラウンドが見えるじゃない? 暇な時にグラウンドのあなたの姿を追うようになったの」


「え? そうなの?」


「最初は…何か下手な子が頑張ってるなあって見ていたんだけど」


「はは…まあ去年はちょっとね…」


花丘さんの言葉に苦笑する。


去年はリハビリ途上のところで疲労骨折したものだから、とにかく筋力と感覚を取り戻すので精一杯だった。負荷をかけすぎないように慎重に慎重を重ね、時間をかけて少しずつ…。


「でも、いつも飽きもせずに練習していた。そして、どんどん上手くなってた」


「…なんか、恥ずかしいね」


「それから、何となく負けていられないなって、勝手に思って私も最後まで残って練習していた」


「音楽室の電気が遅くまでついてるなとは思ってたけど、あれ花丘さんだったのか」


「そう。でも、本当は練習に集中してなくて、あなたの姿ばかり追ってた」


花丘さんはそう言って苦笑する。


知らなかった。てっきり好きになったのは最近だと思ってたのに。


「正明のファンはいっぱいいるけど、僕にもとびっきりがいたんだね」


「そうね。で、気になって山名君に聞いてみたの。そうしたら彼、『同じ一年のふざけた奴だ』って言ってたわ」


「…そのふざけた奴に負けかけたくせに」


「でもこうも言ってたわ。『サッカーに関してだけは真剣だ』って」


「それ、フォローになってないよ」


明日、あいつを一発殴っておこう。


「ま、まあそれはいいとして、山名君からあなたの事を色々と聞いて、どんな人か勝手に想像していた」


「で、理想と現実の差を味わったと」


「そうね。想像以上にふざけた人だったし、想像以上に抜けたところがあったし、想像以上に鈍感だったし…」


「…もういいです」


「でも…やっぱり思った通りの人だった」


花丘さんの一言に、動悸が速まる。それを悟られないように、わざと突き放しにかかる。


「本人を前にして惚気られても困るんだけど…」


「あ、確かにそうね。じゃあ…」


花丘さんは身体をピッタリと密着させ、肩に頭を乗せてくる。


また動悸がしてきたし、恥ずかしさで身体も火照ってきた。


「汗臭いから、離れた方がいいよ」


「別に気にしないわ」


「気にしないって言われても、こっちは気にするよ」


「別に恥ずかしがる事ないじゃない。もう付き合い始めたんだし」


花丘さんはそう言ってさらに身体を密着させてくる。どうやらこちらが動揺しているのをしっかりと見られていたらしい。


「人を動揺させて楽しい?」


「…ちょっとつまらないかな。慧くん、顔に出ないし」


「その割には、しっかりわかってるじゃないの」


「これでも、少しはわかるようになったのよ」


花丘さんは拗ねたように言う。


「そうですか」


「とは言っても何かある時は無表情になるって事しかわかっていないけど」


「あんまり自覚無いけど、そうなの?」


「そうよ。だから今もそう」


花丘さんはそう言ってこちらの顔を指さす。


「まいったな。全部表情で筒抜けか…」


「あら、彼女の前でポーカーフェースにでもなるつもりだったの?」


「…別にそういうわけじゃないけどね」


「私に捕まったのが最後よ。隠し事ができるとは思わない事ね」


花丘さんは悪戯っぽく笑う。


「はーい」


「よろしい」


花丘さんは満足そうに頷くと、空を見上げる。


「…綺麗ね、星」


「…そうだね」


結局、しばらく二人でくっついたまま、星を見続けた。


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