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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
30/49

学園祭だよ全員○○その3

文化祭まで3日と迫り、キャスト陣、スタッフ陣も最後の追い込みに入っている。


今日はステージの使用許可もおり、キャスト陣はステージ練習である。


「じゃあ、最初から最後まで通すわよ」


「はい」


「では配置について」


監督(副委員長)の号令がかかり、配置に付くキャスト。


「では、スタート」


ステージ練習が開始された。


………


時折監督(副委員長)が「カット!」と大きな声をあげ、細かな注文をする事はあったものの、大きな破綻もなく進行する。


そして正明との殺陣のシーンが巡ってくる。


殺陣の練習は繰り返していたものの、やはり台詞を挟みながらやるのは難しい。つい集中しすぎて台詞を忘れたりして監督(副委員長)に何度か止められる。また、殺陣の動きについても細かい指定を受ける。


『もう少し手ごたえがあるかと思ったが…残念だよ!』


正明の左胸目がけて剣を伸ばす。しかし、正明が半身になって避ける。


そこでまた監督(副委員長)に止められる。


「カーット!」


「今度は何?」


「山名君、そこは左腕を剣がかすめるようにしてかわして!」


「え?それは難しいよ」


「いいからやる!」


「はい!」


「じゃあもう一度雪村君が山名君の心臓目がけて剣を突くシーンから! アクション!」


監督(副委員長)の指示に従い、もう一度同じシーンをやる。


『もう少し手ごたえがあるかと思ったが…残念だよ!』


正明の左胸目がけて剣を伸ばす。正明は言われたとおりに左腕をかすめるような避け方をする。


監督(副委員長)がカットと言わないので、これでいいらしい。


今度は正明がこちらの脇腹目がけて剣を振る。


よっと


それを後方にステップしてかわす。


「カーット!」


そこでまた監督(副委員長)に止められる。


「あれ?もしかして僕も当たらなきゃ駄目?」


「そう! 左腕をかすめ…いえ、当たるくらいにして。それから、もう少し余裕のない感じでかわして!」


「はい」


「じゃあ同じシーンから。アクション!」


互いに僕が剣をかわす前の体勢に戻り、正明が再び剣を振る。


今度はさっきより、ギリギリのタイミングでステップし、わざと左腕を残す。


…あでっ!


残した左腕に正明の振るった剣が当たり、左手に持っていた剣を落とす。


…当たるってわかってるんだから手加減してくれないかな?


「そうそう! そんな感じ! 続けて」


こんな感じで殺陣は最後まで細かい指示を受けながら練習が繰り返された。


……


そしていよいよクライマックスのシーン。姫(花丘さん)とクラウディウス(正明)の会話だ。


もう僕の出番はないので、幕の影から様子を窺う。


『クラウディウス、一つだけ…最後にお願いを聞いてくれますか』


姫(花丘さん)は真っ直ぐにクラウディウス(正明)を見据える。


『何でございましよう?』


『本心を聞かせてください』


『……』


クラウディウス(正明)は僅かに困ったような顔をする。ここ、ずっと監督(副委員長)に注意されてたからな。見ていて、最初の頃よりも遙かに良くなっていると思う。


『貴方は私を苦しめたと言いました。でも、私はそうして本心を語らないで逃げようとする貴方を見ている方が、余程苦しいです』


『!』


クラウディウス(正明)が驚いた顔をする。


『それとも、私は貴方が嘘をついていることに気が付かないほど、愚かだと思っているのですか?』


『そんなことは…』


『では何故逃げようとするのです?それは…卑怯です』


潤んだ目でクラウディウス(正明)を見つめる姫(花丘さん)。演技でここまでやるんだから凄いものだ。


『……』


『……』


互いに見つめ合う。正明の顔が赤くなっているのは演技でも何でもなく地だろうな。


『…アウレリア様』


『はい…』


『私は…卑怯者です。私はずっと…あなたに剣を捧げたことを、あなたの傍にいる口実にしてきた』


『……』


『あの日、近衛騎士としてあなたの傍に仕えるようになった日から…わかっていました。私は、あなたに剣を捧げることで、あなたの傍にいられる…それだけのために近衛騎士になったのだと。騎士としての忠義ではなく、ただ…あなたの傍にいたいという意志に従っているのだと』


「カーット!」


監督(副委員長)の声が飛ぶ。


「え? もしかして、今の台詞間違ってた?」


正明は監督(副委員長)の方をうろたえた顔で見る。


「いえ、完璧よ。でもねえ…」


監督(副委員長)は何か考えている。


「もしかして、演技がまずかったかしら?」


花丘さんは監督に確認する。


「いえ、それも問題ないわ。でも…やっぱり弱いわね」


監督(副委員長)そう言ってまた考え込む。そして名案が浮かんだのか、手をパンと叩く。


「よし、こうしましょう」


「典子、こうするって、どうするの?」


「山名君、あの長ったらしい台詞はいいから、瑞音の『では何故逃げようとするのです?それは…卑怯です』っていう台詞の後に、瑞音を抱きしめちゃいなさい」


監督(副委員長)の案に舞台の二人は困惑の表情を浮かべる。


「え、ええ! い、いいいや、そ、そこまでしなくても…」


「典子、いくら何でもそれは…」


しかし、監督(副委員長)は二人の意見を取り入れる気は全くなく、我ながら良い案だと頷いている。


「最初は見つめ合うだけでいいと思ったんだけど、やっぱり足りないわ。うん、クライマックスなんだからこれぐらいやらないと」


この監督の決定に、他のキャスト(男子)が騒ぎ出す。


「な、何ー!」


「監督、それは絶対に認められません!」


「絶対に許せません! そんな羨まし…いや、教育上よろしくない演技は!」


「俺に主役をやらせて下さい!」


「拙者も小島先輩を…」


演技だよ?そこまで騒ぐことかね?


「やかましい!」


監督(副委員長)が野郎どもを一喝する。


「……」


途端に黙り込む野郎ども。


「いい? これはあくまで良い劇にしようという事でやるのよ。あなた方のように、邪な考えじゃないのよ」


監督(副委員長)は野郎どもに説教を始める。


「……」


「わかったなら、あなた達も文句言ってないで少しでも上手くやるよう努力しなさい」


「……」


「返事がないわね…返事は?」


監督は悪魔の笑みを浮かべながら野郎どもを見下ろす。


あーあ…あれは発火3秒前くらいかな?


「はい!」


これ以上怒らせては危険だということを自覚し、素直に従う野郎ども。


「さ…、じゃあ続きをやるわよ。いい? 二人とも?」


監督(副委員長)そう言って二人の方を見る。


「いいいや、ま、待って、やっぱりそれはまずい! まずすぎが!」


正明は大慌てで断ろうとして舌を噛んだ。


「ねえ、やっぱりやめない?」


花丘さんも乗り気ではない。


「駄目よ。もう決定。さ、時間もないから始めるわよ!」


こうなった監督(副委員長)にはもう何を言っても無駄である。もう押し切られるしかない。


「へ、へも(で、でも)…」


「典子、やっぱり…」


「はい、アクション!」


監督(副委員長)は強引に続きを始める。二人はそれに仕方なく従う。


『では何故逃げようとするのです?それは…卑怯です』


再び潤んだ目をする姫(花丘さん)。


『……』


『……』


正明は言われた通りに花丘さんを抱きしめる。


「……」


花丘さんは恥ずかしいのか、正明の胸に顔を埋めて固まっている。


そんな二人が抱き合っている様子を見ると、何かモヤモヤした、不快感のようなものを感じる。


何をそんなに苛立つ必要がある?


そうあれはただの演技だ。いちいち気にすることでもない。大体、当の二人だってそう思ってやっていることくらいわかっている。


そう頭ではわかっていても、何故か心は落ち着きを無くしていく。今すぐにでも舞台に上がって二人の間に割って入りたくなる。


やれやれ…嫉妬してどうするんだか。


頭にふっと湧いた雑念を振り払ため、ポリポリと頭を掻く。


「……」


「……」


二人はそんな事はお構いなしにまだ抱き合っている。


いつまでやってるんだよ…。


心の中でそう吐き捨てていると、監督(副委員長)の指示が飛ぶ。


「はいそこに王様が出てくる!」


指示に従い、王様(愁一)が慌てて舞台脇から出てくる。


『ここにおったか』


『お父様!』


『ヴィトーリオ様!』


二人がぱっと離れて王様(正明)の方に向き直る。


やっと終わったか。


小さく、安堵の溜息を漏らす。…って何で僕が安堵する必要があるんだ?そもそも何に怯えている?


二人が、演技じゃなくて…本当にああいうことをする関係になることか?


……


…何を馬鹿な事を考えてるんだか。正明はもう薫しか見えてないくらい入れ込んでるし。花丘さんだってただの友達だって否定してたじゃないか。


『今こうして平穏に暮らせるのもあのお二方と、トゥーリア様のおかげじゃ。感謝するのじゃぞ』


『はーい』


『では、今日の話はここまでじゃ』


『さようならー』


「はい、カット!」


気が付くと劇はもう終わっていた。


「いいわー、素晴らしいステージね。これで拍手喝采間違いなし!」


監督(副委員長)はステージを見ながら満足そうに頷いている。そこに花丘さんが顔を赤らめながら近付いていく。


「典子…やっぱりあれは恥ずかしいんだけど」


「何言ってるの? 見つめ合うだけよりずっと良かったわ。本番もこれでいくわよ」


「…わかったわ」


花丘さんは結局押し切られる形で承諾。副委員長はよしと頷くと、ステージの下にいる他のキャストの方を見る。


「はい、みんなご苦労様。明後日はいよいよ本番ね。時間はないけど、今日言われた点を修正してきてね」


「はい」


「じゃあ、教室に戻りましょう」


監督(副委員長)の号令に従い、教室へと戻った。


教室ではスタッフ連中が最後の追い込みを終え、必要なものは全て完成したようだ。


「スタッフの皆さんもご苦労様。これで準備は完了ね」


労いの言葉をかける監督(副委員長)。


「あ、監督。衣装もやっと完成したから、早速小道具と一緒に配りたいんだけど」


衣装係の長から提案がされる。


「はい。じゃあお願いね」


「わかったわ。じゃあキャストの皆さんは順番に衣装と小道具を取りに来てください」


「はーい」


「まずは花丘さん」


「はい」


キャスト一人一人に衣装と使用する小道具を渡される。花丘さんに渡された衣装は、小説の挿絵なりゲームなりで見るような「いかにも」というドレスと装飾品。それを見て花丘さんは困惑した表情を浮かべる。


「この衣装、ちょっと恥ずかしいんだけど…」


「私たちが『花丘さんに絶対似合う!』と考えて作ったものだから、絶対に似合うわよ。だから恥ずかしがる事はないわよ」


「そ、そうかな。じゃ、これでいいわ」


花丘さんは衣装係の長に太鼓判を押されて、まんざらでもなさそうに衣装と小道具を持っていった。


「次、山名君」


「あ、はい」


正明が衣装を受け取る。正明の場合は衣装そのものより、小道具の鎧が目を引く。その鎧は短期間で作ったとは思えないほど、細かい装飾が施されており、見事な出来である。


正明も受け取った鎧を見て驚きの声をあげる。


「すごいね、この鎧」


「すごいでしょ? 小道具係が相当入れこんで作ったのよ。もちろん山名君に似合うようにね」


「ありがとう、頑張るよ」


正明は嬉しそうに笑いながら、席へと戻っていった


「次、雪村君」


「はいはい」


衣装と小道具を渡される。王子役のため、結構派手な衣装も覚悟したが、意外にも装飾品も少なく、黒系統の色で


まとめられた衣装だった。


「本番が楽しみね」


意味深な発言を衣装係にされた。


「はは…楽しみにしておいて」


適当に答えて、衣装と小道具をもらってさっさと衣装係の前を去った。


「じゃあ、次、朝倉君」


……


衣装係の長によって次々とキャストが呼ばれ、衣装と小道具が手渡されていく。


「…ちょっと派手過ぎないか?」


我が友人の愁一君(王様役)は衣装に不満があるようだ。


「あなたは王様役なんだから、このくらい立派じゃないとダメでしょう? だからこれでいいの」


「…確かにそうだな。文句を言って済まない、ありがとう」


愁一は無表情のまま礼を言うと、衣装を持っていった。


「お、これが俺の衣装か! くー、悪っぽくてかっこいいじゃねえか!!」


委員長(傭兵役)は自分の衣装を見てご機嫌である。


「私の衣装本当にこれなんですか?」


仁科さん(姫の妹役)は驚いている。


「仁科さんは姫君の妹の役だから。これでいいのよ。きっと着てみたら可愛いわよー」


「…皆さん、うれしいです。私、がんばります!」


委員長(傭兵役)に負けず劣らず喜ぶ仁科さん(姫の妹役)。


その後もキャストの皆さん順番に衣装を取りに来たが、喜ぶもの、不満を漏らすもの、何も言わないものと反応は様々だった。


「はい、衣装は失くしたり汚したりしないでね」


監督(副委員長)そう言った矢先、


ビリっと衣服が裂ける音がする。


「あ、悪りぃ、力入れすぎた」


傭兵ご乱心。衣装の袖が両方共とれてしまっている。


「どうしてくれるのよ! やっとさっき全部作り終わったと思ったのにー」


「もう作り直すなんて嫌よ!」


「なんて事してくれるのよこの馬鹿!」


「これだからラグビー部は嫌いなのよ」


「あんたなんか死んじゃえー」


衣装係の皆さんの悲鳴が聞こえる。


「衣装の一つや二つ破れたくらいで騒ぐんじゃねえ!」


傭兵ますますご乱心。


「だったらあんたが直しなさいよ」


「そうよ。あんたが破いたんだからあんたが直しなさいよ!」


「絶対手貸さないから!」


「人の苦労を何だと思ってるのよ!」


事態は最悪の方向に。


「ちょっとみんな落ち着いて」


必死で仲裁に入る副委員長(監督)。


「だって笹倉さん、こいつが」


「だから謝ったじゃねえか!」


一向に沈静化の気配なし。仕方ない。


「まあ両方とも落ち着いて。僕がその衣装を直す。それでいいだろ?」


「お? ほんとか? 助かるぜ」


「え? ほんと」


「いいの、雪村君?」


「さすが、雪村君。誰かさんとは大違いね」


争いの原因を取り除いたため、両方とも落ち着いたようだ。


「いいの? 雪村君?」


「もちろんです。これもチーフの務めですから」


「じゃあ、お願いするわ。では皆さんは明日、明後日に備えて家に帰って休んでください。解散」


副委員長の号令により、皆一斉に帰り支度を始めた。そして教室には僕一人が残った。


あーあ、見事に袖とれたな。ちょっと時間はかかるけど、やるしかないか。


家庭科室から借りてきたミシンに糸を通し準備をし、傭兵が破り捨てた衣装を早速修繕する。


………、ふう、これで袖はつながったかな?


続いて、細かい部分の修繕に入る。これがまた手間である。


ここはこうして…、ここは作り直さないとダメだな…。ここは…


細かな修正を入れていると突然教室のドアが開いた。


「!」


驚いて音のした方を見ると、花丘さんが立っていた。


「雪村くん、まだやってたの?」


「ああ、もう少しで終わるところ。 花丘さんはどうかしたの? 忘れ物とか?」


「ええ。台本忘れちゃって」


そう言って自分の席へと向かい、机の中から台本を取り出して鞄に入れている。


「もう台詞なんて全部覚えているから、いらないんじゃないの?」


「そうもいかないわよ。色々動き方とか書いてあるから、練習しようと思ったら台本がいるわよ」


「あれだけできてるのにまだ練習するの?」


「ええ、私プレッシャーに弱いから」


花丘さんは自嘲気味に笑う。


「へえ…」


「だから、できるだけ練習してないと不安になるのよ。それに今回は主役だしね」


花丘さんの表情は先程と打って変わって暗くなる。


周りからは完璧だと思われている分、それを重荷に感じているのかもしれない。以前、正明もそんなことを言っていた気がする。


プレッシャーなんかには無縁かと思ったら、意外と繊細なんだな。仕方ない…


大したことは言えないような気がするが、一応励ましてみることにする。


「そんなに不安になる事もないと思うよ」


「ありがとう。でもやっぱり駄目なのよ。考えないようにしてもね…」


花丘さんはそう言ってうつむく。


「なるほどね。プレッシャーに弱い人はそうだろうね」


「雪村くんは、緊張しないの?」


花丘さんは暗い顔のままで聞いてくる。


「するよ」


「じゃあ、何でそんなに落ち着いているの?」


花丘さんはさらに質問してくる。


「それはね、恐怖を受け容れてしまうからさ」


「え?」


花丘さんは不思議そうな顔をする。


「緊張するのは、失敗して打ちのめされるのが怖いからだろ?」


「え、ええ」


花丘さんは頷く。


「どんなに凄い人間でも、大事な場面になればなるほど失敗を恐れて緊張する」


「……」


「でも、成功する人はその恐怖を受け容れてしまう。そうして、過度の緊張を防げるのさ」


「じゃあ、雪村君もそれができるの?」


花丘さんは羨ましそうにこちらを見る。


「いやあ、そんなご大層な事はできないよ。せいぜいちょっとだけ脇によけてもらう程度かな?」


「そうなの…」


「だから、花丘さんもそんなに不安になる事はないって。その不安はさ、上手くやりたいっていう強い意志の現れなんだからさ」


「そうか…、そうなのね。ありがとう、雪村くん。少し楽になったわ」


花丘さんは元の明るい表情に戻っている。


やれやれ…、少しはいつも通りに戻ったかな?


「そうそう、その調子」


「雪村くん、明後日は頑張りましょうね」


花丘さんはやる気に満ちている。


「はいはい、頑張って抱き合ってね」


「……」


花丘さんはジト目でこちらを見る。


「な、何?」


「あれだけ睨んでおいて、よくそんなことが言えますねえ」


睨んでいた? 僕が? 何を言っているんだ? そんなわけがないだろう。まあ…確かにいい気分はしなかったけど。


「…別に睨んでいたつもりはないんだけど」


とりあえずかわしておく。ところが、花丘さんはこちらの言うことはまったく信用していないようだ。そして、


「へえ、そうですかー。じゃあ」


何故かこちらに詰め寄ってくきた。2人の距離がどんどんと縮まる。


「な、何でしょう?」


「練習相手になってもらおうかなー?」


さらに迫る。もう互いの息がかかるくらい近くに彼女の顔がある。間近で彼女の…いや女性の顔を見る機会など今まで無かったため、途端に激しい動悸がする。


「な、何の?」


それでも、必死で平静を装う。


「言わなくてもわかるでしょ?」


そう言って花丘さんは腕を背中に回そうとする。もうどうしていいのかわからなくなってきた。


「ちょ、ちょっと待って!」


慌てて花丘さんを引き離そうとすると


「冗談よ」


花丘さんはパッと離れる。彼女の行動に内心ホッとはしているが、どこか残念な気もする。


「からかわないでくれない?」


「逃げようとした罰よ」


花丘さんは悪びれずに言う。


「はいはい、私が悪うございました」


「そうそう。素直がいちば…くしゅん!」


花丘さんは突然くしゃみをする。


「冷えてきたし帰りますか」


「ええ、そうしましょうか」


花丘さんは台本をしまい、上着を着る。


予想外の来客により、二人で帰る事となった。




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