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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
29/49

学園祭だよ全員○○その2

キャスト及びスタッフが決定し1週間が経過した。


この1週間キャストは台詞を覚えるのに必死になり、スタッフは衣装や小道具、大道具の準備と、照明と音楽、効果音をどうするか話し合いが続いていた。


現在はキャスト連中は台詞合わせに突入し、スタッフは大道具や衣装の完成に着々と近付いている。


「じゃあ、キャストのみんなは台詞合わせもう一度やるわよ」


副委員長(監督)の声が教室に響く。


「はーい」


監督のところに集結するキャスト。当然ながら僕もそこに含まれている。


「最初から通すわよ。台本は見ないでね」


「はーい」


台詞合わせが始まる。


………


合わせはじめて今日で3日、台本を見ないでやるのは今回が初めてのため、台詞そのものを忘れたり、順番を忘れたりと所々でミスが出る。しかし、ミスは気にせずに最後まで突き進む。


『…わかりました。この国と、姫は私が一生お守りいたします』


『うむ。大臣!』


『はっ』


『1週間後、我が娘アウレリアの婚約の儀を内々で執り行う。すぐに準備を』


『はは』


『それと平行し、結婚式の準備も急ぎ進めてくれ』


『は、では早速準備に入らせていただきます』


『うむ、下がってよいぞ』


『は』


アウレリア、クラウディウスに近寄る。


『これからも、よろしくお願いします、クラウディウス』


『…はい』


……


『こうして、姫アウレリアはクラウディウスと結婚し、二人によって支えられた王国はさらなる繁栄の時を迎え、今に至るのじゃ』


『トゥーリア様はどうなったのー?』


『トゥーリア様はその2年後、スルコリーナのフローレス家の長男と結婚したのじゃよ。そしてシェネアーデとの橋渡しをしたそうじゃ』


『アウレリア様とクラウディウス様って、あの広場にある像?』


『そうじゃ。あれは、二人がご結婚なされたときに広場に建てられたのじゃよ』


『じゃあずっとむかしからあるんだー』


『そうじゃな。このわしが生まれる前からあったものじゃからな』


『すごーい』


『今こうして平穏に暮らせるのもあのお二方と、トゥーリア様のおかげじゃ。感謝するのじゃぞ』


『はーい』


『では、今日の話はここまでじゃ』


『さようならー』


……


「はいみんなご苦労様。山名君と花丘さんは完璧ね」


監督(副委員長)からお褒めの言葉をいただく主役の二人。二人とも一番台詞が多い方なのに一つも台詞を忘れず、タイミングも心得ていた。褒められるのも当然である。


「まあ、まだ台詞呼んでるだけだから…」


「そんなことないわ。まだ上手く感情がこもってないし」


あくまでも謙虚なヒーローとヒロイン。


「それはこれからでいいわよ。まずは台詞を完璧に覚える事が大事」


「そうね」


「他の人も早く完璧に覚えてね。日にちがないから」


「はーい」


「じゃあキャストの皆さんは今日はここまで」


キャスト連中は解散し、今度はスタッフを手伝う。監督(副委員長)が一つ一つのディティールに拘っているため、仕事量が多く人手が不足しているのである。そのため、キャストも暇があれば手伝うことになっている。


「慧、台詞合わせはもう終わったのなら、衣装作るの手伝ってくれないかしら?」


「ああ、いい…」


「雪村君、ちょっとこれやってくれない」


大道具係の女子に呼ばれた。どうやらハリボテ作りに手こずっているらしい。


「あ、はいはい。えーと、これはこうしてと。はいできた」


「ありがとう」


手伝いを済ませ、薫の所へ戻る。


「ごめん薫。で、なにすればいいの?」


「この飾りをこの服に縫い付けて…」


「おーい雪村。ちょっと手を貸してくれ」


今度は小道具係の男子からだ。


「はーい。ああ、これはこうすればほら、見た目もきっちり決まるだろ?」


「おお、やっぱ器用なやつは違うなー。ありがとな」


「どういたしまして」


再び手伝いを済ませて薫の所へ。


「本当にごめん。で、この飾りをこの服に縫い付ければいいんだね?」


「ええ、あとそれから…」


「雪村くん。ちょっと台詞の練習に付き合って欲しいんだけど」


今度は花丘さんからの依頼が。


「わかったよ。今行くから待ってね。じゃ、ごめん薫」


花丘さんと練習しに行こうとすると


「いいかげんにしてよ!」


薫の怒鳴り声が飛び、教室内は騒然となる。


「まったくあんたは何でいつもそうなのよ! あんたは私だけ見てればいいのよ!」


シーン。教室騒然、僕は呆然。


「あ」


薫はやっと自分がとんでもない事を大声で口走った事に気がついたらしい。みるみるうちに真っ赤になる。そして


教室のドアを乱暴に開けると教室から出て行ってしまった。


「やっぱり龍崎さんって雪村くんのこと好きだったんだー」


「ねえ、私の言ったとおりでしょ」


「雪村もやるねえ」


「でも雪村くん彼女持ちよね。略奪? 萌えるわ―」


「幼馴染はやっぱり偉大かー」


「ちくしょー。龍崎さん狙ってたのにー」


様々な声が聞こえてくる。違うんだ、と言っても収まりそうもないので、ただ呆然。


「慧、浮気はダメよ―。まさか薫にまで手を出すなんてね」


夕希が笑顔で迫ってくる。


「夕希、違う…」


「わかってるわかってる。人として許されないけど、衝動に負けたのよね?」


「別に負けてないけど…」


「おお、堂々と二股宣言?」


夕希は目を丸くしている。


「だから違うって…」


必死の抵抗もむなしく敗北。さらに


「…」


彼女(偽)は何故か頬を膨らませている。


「ど、どうしたの?」


「雪村くん、ご・め・ん・な・さ・い・ね。二人のジャ・マをしたみたいね」


花丘さんはぷりぷり怒ったまま行ってしまった。


あれ? 何で怒るんだ? だって偽物でしょ。僕達の関係。それなら彼女がいても文句無いよね?


花丘さんの謎の怒りに触れさらに


「雪村さん、最低です」


仁科さんには白い目で睨まれた。


え? なんなの? 僕が悪いの?


周囲の意外な反応に困惑している中、もう一人困惑する人物がいた。


「龍崎さん、やっぱり…」


我が友人、正明である。


「待て正明、落ち着け。あれは薫が怒りに任せて言った戯言だよ」


「ああ、やっぱり龍崎さんはそうか…」


人の話をまったく聞いていない我が友人。


まあ真面目なのがいいところだからな。無理はないか。


そうこうしているうちに再び仕事の依頼が舞い込み始めた。


「雪村ー、城壁ってこんな感じでいいのかー?」


「どれどれ。もうちょっと歴史のある感じにしよう。例えば、こんな風に塗れば感じが出るだろ?」


「そうか。わかった」


「じゃ、頑張って」


「雪村君。この装飾品はこんな感じでいいのー?」


こんどは小道具係がお呼びだ。


「えーと、これは王様役がつけるものだから、もうちょっと高級感のある感じにしようか。例えばここをこうすれば…、ほら、だいぶ違うでしょ?」


「本当だ。これなら元が玩具って感じがしないわね。ありがとう」


「どういたしまして」


「おーい、雪村。ちょっと手を貸してくれ」


またお呼びがかかる。まったく、忙しいくてかなわない。「裏方チーフ」なんて役職を与えられたおかげであちこち回らなくてはならない。


「はいはーい。これはこうしてっと…。はい出来上がり」


「おお、さすが器用な奴は違うな。ありがとよ」


「どういたしまして」


「雪村くーん。ハリボテが上手く出来ないんだけどー」


またまたご指名だ。


「ああ、これじゃあ上手く出来ないよ。ほら、こんな風にしないと」


「ありがとう。助かったわ」


「じゃ、頑張ってね」


「裏方チーフ」なんてただの便利屋な気がしてきた


そうしてしばらく経った後。


「雪村君。大変よ!」


今度は非常事態の発生のようだ。


「どうしたの?」


「高平さんが…」


「夕希がどうしたの?」


「手が血だらけなの!」


手が血だらけ? どういうことだ?


夕希の様子を見に行く。


「……、痛い! …、痛っ!」


本人は真面目にやっているのだろうが、見ている方には手に針を刺しているのか衣装を縫っているのかわからない。


「夕希」


「あ、慧。もうすぐ出来るから待って」


夕希はまだやる気だ。


「いい加減にしてくれ」


夕希から衣装を取り上げる。


「あ、何するんだよ。もう少しなのに」


「誰か、この衣装の血洗い落としといて」


「え、ええ」


衣装を他の衣装係に任せて、鞄から絆創膏と消毒液を持ってくる。


「夕希。手、見せて」


「こんなのほっとけば治るよ」


夕希は衣装を取り上げられた事が不満なようだ。


「そんな手で衣装に触られたら衣装が血だらけになるだろ? 意地張ってないで見せなよ」


「…わかったよ」


夕希は右手を差し出す。まずは血を拭き、消毒する。


「まったく、何でお前が衣装係なんだ?」


「キャストにはなりたくなかったし、大道具係や小道具係は面倒そうだったから」


「それで裁縫が出来ないのに衣装係かい?はい、お終い」


夕希の左手の指先は絆創膏だらけになった。


「……ごめん」


うつむく夕希。


「謝らなくてもいいよ。夕希、頼むからもう裁縫はしないでくれ」


「何で?」


「衣装全部血だらけにする気かい?」


「それもそうだね。じゃあ、あたしは何したらいい?」


「寸法測ったり、布の裁断なら出来るだろ?」


「わかった、そうするよ。慧、ありがとう」


「はいはい、どういたしまして」


夕希は作業へと戻っていった。


さて、薫が放り出していった衣装作りをやるか。


……


それにしても、薫の奴はどこに行ったんだ?


衣装を縫いながら考えを巡らせる。


結局、準備時間の間、薫は戻ってこなかった。


全くどこで何をしているやら。


仕事を放り出したことも含めて、少し話をしないといけないかな。


教室を出て薫が行きそうな場所を探す。


窓から中庭を見るが姿はなく、図書室も覗いてみてもいない。


あとは…屋上かな


階段を登り屋上へと向かう。


屋上への扉を開けると、薫が何かブツブツと言いながらフェンス前に佇んでいた。


「発見」


「な、何でまだいるのよ?」


薫はこちらを見て驚いた顔をしている。


「誰かさんが自分の仕事を放り出していくからだろ?」


「誰がやっておけなんて頼んだのよ?」


「別に頼まれてなんていないよ。でもやらないと間に合わないだろう?」


薫はグッと歯噛みする。そして


「…ごめんなさい」


珍しく素直に謝った。


「よろしい。明日からまた頼むよー」


「待ちなさいよ」


「ん?」


「そ、その…あ、あれはタダの言葉の綾だから! 忘れなさい! ていうか忘れろ!」


「ああ、そのことはもういいよ。気にしてないし」


「…」


「あれ? どうかした」


薫はわなわなと震え、そして


ゴキィ


「ぷべら」


強烈なアッパーを繰り出した。


「…鈍感」


小さな声で何かを呟いて薫は走って行ってしまった。


な、何故殴られなきゃいけないんだ?


理不尽さを感じながら、屋上を後にした。


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