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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
27/49

修学旅行3~自由行動

修学旅行も3日目。今日は自由行動である。


約束の時間の10分前にロビーに行くと花丘さんはもう来ていた。


「さすがに早いわね」


「そっちこそ」


「じゃあ行きましょうか」


「はい」


ホテルを出て京都の町へと繰り出した。


とりあえず、清水寺へ向かうバスに乗る


バスが目的地に着くなり花丘さんは坂道をかけて行く


「雪村くん。行こう」


「そんなに急がなくても」


「色々回りたいもの」


坂を登り、清水寺の境内へと入る。


「これが清水の舞台ね。へえー、高いのね」


花丘さんは下を覗いてはしゃいでる。


「そうだね」


こっちは下には絶対目をやらない。


「そう言って、全然下見ていないじゃない?」


花丘さんはこちらの顔をのぞき込む


「見なくても…ね」


「あ!そうか。そういう事か…」


花丘さんはどうやら感づいたようだ。そして何かを企んでいるような笑みを浮かべている。


その笑顔を見ていると、何か嫌な予感がする…。


「雪村くん」


花丘さんが近寄ってくる


「…何するつもり?」


「こうするつもり」


突然人の後頭部を押さえて、無理矢理顔を下へ向けさせる。


「……」


ああ、高い…。目の前が真っ暗になる。頭から血の気が一気に引いていくのがハッキリとわかる。きっと顔も真っ青だろうな…。


「ちょ、ちょっと大丈夫?」


花丘さんはこちらの異変に気がついて、慌てて手を離す。


「……大丈夫」


「ご、ごめんなさい。そんなに苦手だとは思わなかったから…」


花丘さんは申し訳なさそうに謝る。


「…別に気にしなくてもいいよ。じゃあ行こうか」


多少フラつきながら、境内の奥へと行くとそこに神社があるのを見つけた


「何々、縁結びの神社だって」


「ね、ねえ雪村くん」


花丘さんは神社の方を見やる


「え? もしかして興味あり?」


「う、うん。行ってみない?」


「行きたいなら構わないけど」


「じゃ、行きましょう」


花丘さんはそう言って神社の境内に入っていく。


…誰との縁結びを願うつもりなんだろう?


不思議に思いながら花丘さんの後を追った。


本殿でお賽銭を入れ手を合わせる。


「…」


何やら花丘さんは真剣に願っている素振りだ。


うーん…。とりあえず花丘さんの願いが叶いますように。


適当に願っておいた。


本殿での祈りを終えると花丘さんは社務所に向かう


「ね、お守り買わない?」


「いいけど」


花丘さんと恋愛成就のお守りを1つずつ買った。


神社の境内を出て、清水寺の本殿の方へ戻ろうとすると、


「清水の舞台って有名だよね?行ってみようか。」


「そうね」


正明と薫と思しき話し声が聞こえてきた。


ま、マズイ。ここで会ったら嘘がバレる。


「花丘さん…」


「何?」


「行こう」


「え、ちょ、ちょっと」


撤退しようとする。が、


「あ…」


「慧…に花丘さん?」


遅かった。空気が張りつめる。


「やあお二人さん。二人とも仲がよろしい事で」


「あなた達ほどじゃないわよ」


「お前やっぱり花丘さんと二人か。いいなあ、仲良くて」


一人は睨んでいるが、一人は笑っている。


「ま、まあね」


「お前もやる事はやってるんだな」


こいつはこの空気を読んでないのか?


「それはもう」


「やっぱり油断も隙もないな、お前」


「ええ、まったくね」


薫は花丘さんをまじまじと見ている。その眼は、明らかに敵意むき出しだ。


「何か…引っかかる言い方ですね」


「そうかしら?それにしても意外ね、高い所が苦手なあなたがこんな所に来るなんて」


薫は皮肉たっぷりに言う。


「下さえ見なければ平気ですから」


「そう言って、顔色が悪いのは何故かしらね?」


「まったくだな」


今日は妙に息が合ってる二人。


「雪村くん、行こうか」


花丘さんが腕を取る。


「……」


薫の敵意がもの凄く伝わってくる。


「…そうだね。じゃあ二人とも、後ほど」


「あ、ああ?じゃあな」


「……」


二人と別れ、清水寺を後にした。


「……」


花丘さんは黙ったままで、前を歩く。


「どうしたの? さっきから黙って」


「…龍崎さんって、あなたの事何でも知ってるのね」


「それは、あれでも一応幼馴染みだし」


もっとも高い所が苦手だとバレたのは去年の話だが。


「私、何も知らないのね…」


花丘さんは余計に暗くなる。


「はあ…、何言ってるの。教えてないんだからしょうがないでしょ?」


「……」


まったく…。そんなに落ち込まなくても。


「だから、聞けば教えてあげるって」


「本当?」


花丘さんの耳がピクリと動く。


「そうそう、何でもとは言わないけど、答えられるものについては教えてあげるよ」


「ふふふ…」


不気味な笑いを浮かべている。


「ど、どうしたの?」


「いい事を聞いたわ。じゃあ早速色々と教えてもらおうかしら」


花丘さんはケロッとした表情でこちらを振り返る。


「……もしかして、騙した?」


「ええ。さあ何から聞こうかしらねえ」


花丘さんはもうウキウキだ。


「あ、そろそろ戻らないと」


逃げようとするが、


「そうはいかないわよ」


腕を捕まれた。


「……頼むから、許してください」


「いーえ、許しません。さあーて、まずは…」


結局、その後の道中は質問攻めにされた。


見る予定だった名所を一通り巡ったあと、土産物を買いに行く。


土産物屋を巡っていると、花丘さんが立ち止まり、何かを見ている。


花丘さんの視線の先を見ると、そこには扇子が並んでいた。


「気に入ったのでもあった?」


「え? ええ、ちょっといいかなと思って」


花丘さんが見ていたのは7000円台の扇子。結構なお値段だ。


「買ってあげようか?」


「え? だ、ダメよ。高いし」


「まあまあ、いいじゃないの。すみませーん」


店員に声をかけ、早速購入する。


「ありがとうございましたー」


店員から渡された扇子の入った箱を花丘さんに渡す。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


花丘さんは嬉しそうに受け取る。そして早速箱から出して広げて見ながらニコニコしている。


「よほど気に入ったみたいだね」


「当たり前じゃない。だって…」


「だって?」


「な、何でもない。あ、ほ、ほら、家の人とかへのおみやげ買わないと」


花丘さんは扇子を閉じると慌てて他の土産物屋に入っていく


「おーい、待って」


慌てて花丘さんを追いかけた。


家族への土産を購入も終えてホテルの部屋に戻ると満面の笑みを浮かべた正明に迎えられた。


「やあ慧君」


「愁一は?」


「ああ…彼か。彼は何か疲れたような顔をして部屋を出ていってしまったよ」


正明は満面の笑みを崩さずに言う。一体何がこいつをここまで変えたのだ?


「…とうとう頭がおかしくなってしまったか」


「何とでも言いたまえ。で、慧君。楽しかったかね?」


口調まで変わってるし…。本当におかしくなったんじゃないか?


「まあね。お前は…聞かなくてもわかるか」


「ああ、僕のことなどどうでも良い。とにかく、今は君の話を聞こうじゃないか」


正明に促されて椅子に座る。


「…で、どこに行ってきたんだ?」


「清水寺に、平安神宮に…金閣寺とか」


「ほうほう。で、何をしたんだね?」


「何をって、見たり写真撮ったり、土産買ったり」


正明はこちらの答えにどこぞの外国人のように手を広げる。


「そうかそうか。君はどうやら花丘さんとの旅を満喫してきたようだね」


「ああ…で、お前は?」


「僕の事はどうでもいいじゃないか? で、どうだった二人で歩いてみて」


「結構面白かったよ」


「だぁー違う違う。そんなことではない」


「じゃあどんなこと?」


「人を散々からかっている君なら、よーくわかっているだろう?」


「…何が?」


「いい雰囲気になれたかい?」


「ああ…、まあそれなりには」


「そうかそうか。それは健全だ。何も恥じることはない、恥じること無いのだ!」


正明はそう言って笑いながらテーブルをバンバン叩いている。


何か変だな…。薫と一緒に自由行動できて舞い上がっているというだけでは説明できないくらいテンションが高い。


ん?


ふと、部屋の隅に転がっている空き缶を見つけた。ラベルにはビール、と書いてある。


「正明」


「どうしたんだね?」


正明は偉そうにふんぞり返っている。


「お前、一体今日の自由行動で何があったんだ?」


「……」


その一言に正明は先程までの明るい表情から一変、目に涙を溜めだした。その様子を見て、何があったのかは大体想像できる。


「…大変だったんだな」


「そ、そうなんだよ。う…うわぁぁ! 慧ぃ!」


正明は立ち上がってこちらに抱きついてきた。


「一体何があったんだ?」


「俺は頑張ったさ! 龍崎さんと自由行動が出来るということで、前日ほとんど寝ないで計画を練った! そして今日も計画通りに実行に移した! なのに…なのに…。とうの龍崎さんは上の空で…しかも何か怒ってるみたいなんだよ」


正明は涙声になりながら今日の出来事を話す。


あまりにも不憫になってきたので、頭を撫でてやる。


「おお、よしよし。それは大変だったねえ」


「ああ…それでも俺は耐えたさ! そして俺は金閣寺を見ていた時に、彼女に聞いたんだ『ずっと上の空みたいだったけどどうしたの?』って!』」


「で、薫の答えは?」


「『別に何でもないわ。ただ、度し難い馬鹿者をどうしようか考えているだけよ』だって!で、俺は『それは誰?』って聞いたんだよ!」


度し難いって、多分僕のことだろうな…。やっぱり断ったのはマズかったか…。…金閣寺で鉢合わせなくて良かった。


それにしてもコイツとんでもないこと聞くもんだな。


「ほうほう。で?」


「そうしたら『別に誰でもいいでしょう?』って言ってそれっきり答えてくれなかった! 俺もさすがに突っ込むのは良くないと思ってその話をやめたんだよ! で、言ったのさ彼女に『俺は、龍崎さんをそんなに怒らせられる奴が羨ましいって』!」


聞いてて思わず吹き出しそうになった。正明がどのような状況で今の一言を言ったのかが手に取るようにわかる。…普通なら絶対に言えないような雰囲気だ…。すごいよ…正明、君は。


「…随分と勇気を出したんだね」


「そうしたら彼女は『はぁ?』って呆れたような顔をしている。それで俺はさらに『いや…その…そこまで龍崎さんに気にかけてもらえるのって、羨ましいなって』って言ったんだよ!」


こいつ、一度リミッターが切れると、果てしなく暴走するタイプか?


「で、薫の返答は?」


「龍崎さんそうしたら更に困惑して、『な、何言ってるの?』って。そこで俺はここしかないと思って更に一押し!」


「ま、まさか…告白したのか?」


「……」


「正明?」


「う、う…うわぁぁぁ!」


正明はまた泣き出す。


「ど、どうした?」


「あと一押し! …しようとしたんだけど、『あ…ごめん、忘れて』って誤魔化した挙げ句『金閣寺、綺麗だね』って言って話し逸らしちゃったんだよー!」


やはり暴走しても正明は正明らしい。最後のところでは理性…いや、負の感情が勝ってしまったか。


「…そうかそうか」


「慧ぃ! 俺を笑ってくれ! こんな情けない俺を!」


それでヤケ酒…か。大分荒れてるし、放っておくと何をするかわからないから、ここは慰めてやった方がいいだろう。


「正明、お前は良くやったよ。恥じることはない」


「いーや、俺は恐怖に負けた! 最後の最後で臆病風に吹かれたんだ!」


「そんなことはないよ。誰だってそういう時は尻込みする。お前は実行しようとしただけでも価値があると思うよ」


「…そ、そうか?」


「そうだよ。大体、薫の方も別に拒絶したわけじゃないんだろう?」


「あ、ああ。でも…」


「だったらまだチャンスはある。諦めるには早いと思うよ」


「…そうだな。ありがとう、慧」


正明は涙と鼻水でグシャグシャになった顔をこちらに向ける。


「気持ち悪い」


「ぐが!」


「あ、やっちゃった…」


つい正明にボディーブローを打ち込んでしまった。正明はぐったりと伸びきっている。


…とりあえずベッドに寝かせとこう。


正明を引きずってベッドに寝かせ、空のビール缶を火影のバッグの中に隠した。




最終日。今日は移動のみだ。


帰りの飛行機では幸いな事に貧血にならずに快適なフライトだった。


「ありがとうございました」


バスの運転手にお礼を言ってバスから降りる。眼前に広がる見慣れた風景を見ると、帰ってきたという実感が湧く。4泊5日の旅を終え、飛行機とバスに揺られて合計5時間…。やっと風海に帰ってきた。時間はすでに10時を回っている。


良い思い出になったな。


そんな事を考えながら家路を急いだ。


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