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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
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23/49

花火大会にて

いつも通りに練習を終えて帰ってくるなり、自室の椅子に腰掛けてぐったりとする。


今日は毎年恒例の花火大会の日だ。石積川で行われる花火大会は結構有名らしく、この日は隣町から県内から多くの人が集まってくる。そのため、河川敷を中心にあちこちに人混みができ、特に駅前の歩道などは会場に移動しようとする人でごった返す。その人の流れをかき分けてようやく帰ってきたのである。


花火や祭りは別に嫌いじゃないし、見に行ってもいいとは思う。しかし、あの人だかりの中を移動するのはどうにも我慢ならない。


しかし…去年は花火大会に行った、いや行かねばならない状況に追い込まれた。そして…地獄を見た。


来るか…。


携帯に電話が来る様子はない。


だが、ほぼ確実にあと10分以内に鳴るはずだ。そして、去年と同様に花火大会に行くことになるだろう。死刑執行を待つ人間はこんな気分で毎日を過ごすのだろうか?


まだか?まだなのか?


鳴って欲しくないという願望と、そんなことは無いだろうと諦める心がせめぎ合う。


そこにピピピと電話が鳴る。


来た! って、あれ? 薫からじゃない。ディスプレイには知らない番号が表示されている。


とりあえず出てみることにする


「もしもし」


「あの…雪村さんですか?」


受話器越しに聞こえてきたのは女性の声。どこかで聞いたことがあるような…。


「はい、そうですけど、どちら様ですか?」


「花丘ですけど…」


「ああ、花丘さん。…何で番号知ってるの?」


「さっき、山名君に聞いたの」


「ああ、そういうこと。で、何の用かな?」


「一緒に花火見に行かない?」


「え?」


「あ、もしかして何か用事がある?」


「いや…」


予想外の展開だ。まさか花丘さんから誘いが来るとは…。


どうするかしばし考える。…断れば、十中八九薫と行かなければならない。しかし、花丘さんと行くことにすれば…逃げられる!


答えは決まった。


「お供します。いえ、させて下さい」


「え、ええ…。じゃあ、商店街で待ってるから。そこで会いましょう」


「了解。じゃあ後でね」


電話を切る。


さて、これで逃げら…


チャーチャーチャーチャララー♪~


また電話が鳴った。そして奏でる曲は某帝国のマーチ。薫からだ…。


恐る恐る電話にでる。


「はい…もしもし」


「慧。花火大会に行くわよ。すぐに来なさい」


ツーツーツー。要件だけ言って電話は切れた。薫からの電話は基本的に薫が一方的に用件を言って切る。こちらに反論、もしくは拒否することは許されない。


しかし、今回は先約がある以上断りの電話を入れなくてはならない。大丈夫、先約があると言えば薫もわかってくれる…だろうか?


迷っている暇はない。電話帳に登録してある薫の番号を表示して、通話ボタンを押す。


「電話をかけている暇があったらさっさと準備して来なさい」


いきなり薫は不機嫌だ。


「あのですね…実は…その…先約」


「…何ですって?」


まずい、余計不機嫌になってる。


「ですから、その…先約がございまして」


「誰と行くつもり?」


「え?」


「誰と行くつもりか、聞いてるのよ。さっさと答えなさい」


「先程、花丘さんに誘われまして…」


「花丘さんに?」


「ええ」


「……」


「あのー? もしもし、聞いてます?」


「……そう。誘って悪かったわね」


ツーツーツー。


あれ? 何も言われなかった。絶対何か言われると思ってたのに。


…何はともあれ、これで逃げられた。さて、準備して行こう。


着替えを終えて部屋を出ると奈津姉がいた


「あらぁ。慧くんおでかけ?」


「うん。花火大会見に行こうと思って」


「あらそうなの。私も他の子たち誘っていこうかしら」


「はは…。それもいいかもね。じゃあ」


「あ、慧くん」


奈津姉に呼び止められる。


「何?」


「しっかりね」


何故かよくわからないエールを送られた。


施設を出て商店街へ向かった。


商店街も祭りということで人通りが多い。そんな中、花丘さんを見つけて近づいてく。


「あ、雪村くん」


「ごめん、待った?」


「全然。ちょっと着付けに時間がかかったから」


そう言って花丘さんは浴衣を見せる。普段と違う格好だけに、新鮮に見える。


「よく似合ってるよ」


「ありがとう。じゃあ、行きましょうか」


「はい」


花火大会の会場へ出発した。


会場へ向かうのに通る駅前通りは人で溢れかえっている。ほとんどの人は河川敷の方へ向かって歩いているので、その流れに乗って歩く。


「やっぱり人が多いわね」


「そうだね」


「雪村くんは、花火大会に毎年行くの?」


「毎年ってわけじゃないけど…たまには」


「そう、もしかして線香花火の方が好きとか?」


「いや、そんなことないよ。ただ…人混みはあんまり好きじゃなくて」


「じゃあ、もしかして迷惑だった?」


花丘さんの表情がわずかに曇る。


「全然。むしろ誘ってくれて嬉しいよ」


そう言うと、花丘さんの顔がぱっと明るくなる。


「本当?」


「うん」


「良かった…」


花丘さんは嬉しそうに笑う。そんな喜ばれることを言っただろうか? 誘いを受けておいて、嬉しくないと言う奴はいないと思う。まあ、薫から逃げることができたのだから嬉しいというのは本音だけど。


もうすぐ河川敷だ。段々と人の数も増えてきた気がする。はぐれないように、互いが近くにいることを確認しながら歩く。


「そういえば花丘さん、何で僕を誘ったの?」


「え?」


「いや…仁科さんとか、笹倉さんを誘うんじゃないかなーと思って」


「二人とも今年は都合が悪くて行けないって。それで、一人だと行く気がしないから、雪村くんを誘ったの」


要するに、誰でも良かったわけだ。まあそれで偽物彼氏にお鉢が回ったと


「そう」


「でもこういう時に二人でいると、本当のカップルみたいね」


周囲を見ると、親子連れや友人同士で歩いている人も結構いるが、やはりカップルらしき二人組が多い。おそらく自分達も周囲からはそう見られているだろう。


「ああ…確かに」


「まあ、私達は形式上は恋人同士だから別に構わないわよね?」


「そうだね」


「さあ、もうすぐ河川敷よ。急ぎましょう」


「はいはい」


人通りの激しい中をかいくぐるようにして河川敷を目指した。


普段は静かな河川敷も、今日ばかりは多くの屋台が並び、花火を見に来た人々の活気に溢れている。屋台を見て回ってはしゃいでいる人、花火がよく見えそうな位置に陣取って食べ物を広げている人、早くも空を見上げている人、友人なり恋人なりと楽しそうに話している人、皆思い思いの方法で花火が始まるのを待っている。


「今年も盛り上がっているわね」


「そうだね」


「ねえ、雪村くん、まだ花火が始まるまで時間があるから、屋台見て回らない?」


「いいけど」


「じゃあ、行きましょう」


花丘さんと屋台を見て回る。見ると結構な数の屋台がでている。


「雪村くんは何か欲しい物はある?」


「そうだな…」


周囲の屋台を見る。金魚すくい、ヨーヨーすくい、綿菓子、お好み焼き、たい焼きにお焼き、かき氷、イカ焼き、焼き鳥、射的、輪投げ…ドネルケバブにスパッゲッティの麺を揚げたやつに亀すくい?


…変わったのも混じっているが、大体は祭りの定番とも言える屋台だ。せっかくだからその珍しい屋台に行こう。


「じゃあ、あれとあれにしよう」


ドネルケバブの屋台とスパゲッティの麺を揚げたやつ(イタリアンスパボーって言うらしい)を指さす。


「え?あれ?」


花丘さんは意外そうな顔をする。


「そうそう。行こうか」


「ええ…わかったわ」


シナモン味とカレー味のイタリアンスパボーと、甘口と辛口のドネルケバブを買った。


花丘さんは物珍しげに買ってきたものを見る。


「こっちのドネルケバブサンドは、肉を挟んだサンドイッチみたいなものよね?でもこのイタリアンスパボーって初めて見るわ」


「確かに珍しいよね」


「美味しいのかしら?」


「それはまあお楽しみということで。花丘さんは何かお目当ての屋台はないの?」


「ええ、たこ焼き屋なんだけど…」


「たこ焼き屋ならさっきあったよ」


「あそこじゃないのよ…あ、あった」


花丘さんは周囲を見回してお目当てのたこ焼き屋を見つけると、一直線に駆けていく。それを慌てて追いかける。


「おじさん、2パック下さい」


そこは、いつもは臨海公園にあるたこ焼き屋の屋台だった。


「お、いらっしゃい。姉ちゃん、今日は祭りだから浴衣姿か。お前さんみたいなべっぴんさんは何着てもよく似合うな」


たこ焼き屋の親父さんはそう言いながら、次々と鉄板に生地を流し込み、材料を入れていく。


「そんなことありませんよ」


花丘さんはそう言いながらまんざらでもなさそうだ。


「兄ちゃん、あんた幸せだなあ。こんなべっぴんさんが彼女でよお」


「はは…別に僕は彼氏じゃないですよ」


偽物ですから。とは言わない。


「でも有力候補です」


「へ?」


花丘さんの突然の発言に思わず素っ頓狂な声をあげる。


「なんだそうなのか? だったら頑張んなきゃなんねえな」


親父さんは話しながらもまったく手は止まってない。次々とたこ焼きをひっくり返していく。


心臓の鼓動が速まるのを抑えながら、平静を装う。


「まあ、そうですね…」


「ほい、2パックお待ち。600円だよ」


花丘さんの前に出来たてのたこ焼きが差し出され、花丘さんがお金を渡そうとする。


ここは払っておくべきだろう。そう思い用意しておいた600円を花丘さんより先に親父さんに渡す。


「はい600円ちょうどね」


「え?」


「はい毎度」


「じゃあ行こうか」


「駄目よ。私も払うわ」


そう言って花丘さんは300円を差し出す。それを差し返す。


「たまには良いでしょ?」


「でも…今までの全部奢りだし…」


「いいのいいの。さあ早く花火がよく見える所を探さないと」


「…そうね。ありがとう、雪村くん」


花丘さんを強引に説得して、座って花火を見られる場所を探した。


しかし、座れる場所を探したものの、良い場所はみんな占領された後だった。


「なかなかないね」


「ええ」


二人して、キョロキョロしながら良さそうな場所を探す。が、中々場所が見つからない。


それに人の流れが激しいので、ちょっと油断するとはぐれてしまいそうだ。


「ねえ、雪村くん…」


花丘さんは何故かもじもじしながら、恥ずかしそうにしている。


「…何?」


「はぐれたら…困ると思わない?」


「え?大丈夫だと思うよ。今までもはぐれなかったし」


「…もう、何でこうなのよ」


花丘さんは小声で何かを呟く。


「ん? 何か言った?」


「…何でもないわ。でも、どうしましょうか?」


「そうだなあ…」


どうしようか考える。まあ食べ物は後で食べれば良いのだが、それでは買った意味がない。


どこかないかなあ…って、待てよ。去年正明に聞いたあそこなら…。


「花丘さん、花火が始まるまであとどのくらい?」


花丘さんは時計を確認する。


「あと、20分くらいよ」


「…じゃあ行けるかな。花丘さん、いい場所があるからついてきて」


「え?どこに行くの?」


「いいから、時間がないから急ごう」


「ちょ、ちょっと…」


人混みをかき分けて進み、ある場所へ向かった。


やって来たのは神社。人気があるはずもなく、河川敷と違い閑散としている。


腕時計で時間を確認するとあと花火の開始時間まで5分ある。どうやら間に合ったようだ。


「雪村くん、良い場所ってここの事?」


「ここじゃなくてね…そこの林を抜けた先」


神社の脇にある林を指す。


「…この先?でも真っ暗なのにどうやって歩くの?」


「大丈夫。これがあるから」


鍵束になっているキーホルダーを取り出し、鍵と一緒についている小型のLEDライトに明かりを点ける。LEDライトから出る青みがかった白色光が林を照らす。


花丘さんはLEDライトを見て感心した顔をしている。


「そんな物まで持ち歩いているの?」


「暗い所で何か探したりするのに結構役に立つんだよ、これ」


「確かに、小さいのにこれだけ明るいと便利よね」


「じゃあ、行こうか。ついて来て」


「ええ」


LEDライトで足下を照らしながら。林へとはいる。


林を抜けると開けた崖がある。そこから丁度石積川の方が見える。少し遠いが、花火を見るには絶好の場所だ。


林の中を道なりに歩いて、その崖へと出る。


「ここなら、座って食べながら見られるでしょ?」


「え、ええ。でも…こんな所があるなんて知らなかったわ」


「まあ、とっておきの場所かな。さ、座って」


「ええ」


二人で草の上に腰掛けて、食べ物を広げる。


花丘さんの前に、イタリアンスパボーのシナモン味とカレー味、甘口と辛口のドネルケバブを差し出す。


「どっちがいい?」


「じゃあ、シナモン味と甘口」


「はい」


シナモン味のイタリアンスパボーと甘口のドネルケバブを渡す。


「ありがとう。はい、これ」


花丘さんからたこ焼きを受け取る。


ドオンと一つ大きな音が響く。


どうやら花火が始まったらしい。大きな音と共に、空に火花が浮かび上がる。


花丘さんは早くもたこ焼きを頬張りながら、花火を見て感激している。


「綺麗…」


「そうだね」


よく考えれば、去年は薫の顔色ばかりうかがっていたから、花火はほとんど見ていなかった気がする。


まあ、去年のことは考えないでおこう。


「雪村くん、食べないの?」


気がつくと、ドネルケバブ(辛口)を口元に持ってきたまま、花火を見上げていた。


「え? ああ…食べるよ」


言われてからドネルケバブにかぶりつく。香辛料の染みた肉の味とタマネギの辛さ、トマトの酸味が混じり合い、そこに辛いチリソースの味が絡む。…美味しいことは美味しいんだけど、結構辛い。


花丘さんもどんな味か気になるらしい。こちらの様子をうかがっている。


「どう? 美味しい?」


「美味しいけど…結構辛い」


「私の甘口はそんなに辛くないわよ」


そう言って花丘さんは自分のドネルケバブにかぶりついている。いつの間にたこ焼きを食べたのだろうか?


「両方甘口にしておけば良かったかなあ」


「じゃあ交換しない?」


「え?」


「それだったら両方食べられるでしょ?」


「まあ…それはそうだけど。嫌じゃないの?」


花丘さんはキョトンとして首を傾げている。


「何が?」


「ほら…食べかけだし…その…ね」


「別に気にしないわよ。じゃあこれは私がもらうから、雪村くんはこっちね」


花丘さんは僕の手からドネルケバブ(辛口)を取り上げて、自分の食べかけのドネルケバブ(甘口)を差し出す。


間接キスになるんだけどなあ…。まあ本人が気にしないと言っている以上、こちらが気にし過ぎるのも変だろう。


「じゃあ、もらうね」


「どうぞ」


花丘さんからドネルケバブ(甘口)を受け取り、かぶりつく。こちらは甘口といっても辛口とはまったく違うソースのようだ。辛口のようなとんがった辛さもなく、マイルドな感じだ。


「あ…こっちの方がいいかな」


「うわぁ…これ辛い」


花丘さんはドネルケバブ(辛口)を一口食べて、ヒイヒイと口を開けている。


「きついなら、僕が食べるけど?」


「大丈夫よ。辛いのは嫌いじゃないから」


そう言ってまたかぶりつく。食べる毎に顔が赤くなっているのは気のせいだろうか?


あまり心配しても怒られそうなので、大人しくもらったドネルケバブ(甘口)を頬張った。


二人ともドネルケバブを食べ終わり、最後に残ったイタリアンスパボーに手を出す。


花丘さんに2つあるうちの片方を渡す。


「はい」


「ありがとう」


ポリポリ…


花火を見ながら二人してイタリアンスパボーを食べる。僕はカレー味、花丘さんはシナモン味だ。


「結構美味しいわね」


「そうだね」


何となく、スティックのお菓子を食べているような感じだ。しかしスパゲッティを揚げたものなので一本一本が長い。それで結構な本数が入っているため、飽きてきそうだ。塩味にしておけば良かったかも。


「ふう、美味しかった。少しもらってもいい?」


「もう食べたんですか?」


イタリアンスパボーを食べ終わる頃には花火も終わりを迎えた。空のパックや紙袋を片づけて、立ち上がる。


花丘さんは満足げな笑顔を浮かべながら伸びをする。


「んー、綺麗だったわね。人もいないからゆっくり見られたし」


「でしょう?」


「でも雪村くんも強引よね。突然こんな所に連れてくるんだから」


「ああ、時間がなかったから…ごめん」


「…別に謝らなくてもいいわ。ただ…その」


花丘さんは少し俯いて、顔を赤くしている。


「ん?どうかした?」


「その…こんな所で二人きりでいると…何か…本当の恋人同士みたいよね?」


言われてみれば、こんな人気のない所で男女二人で花火を見る。どう考えてもこれは…恋人同士もしくはそうなろうとしている二人でやることだ。でも、僕たちは違う。


「え? いや別にそんなこともないんじゃない? 偽だし」


「え?」


花丘さんはキョトンとする。


「もう遅いから送るね。さ、行こうか」


ポケットから再びLEDライトを取り出してスイッチを入れる。


「……」


結局、花丘さんはこの後何も言わずについてくるだけだった。

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