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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
15/49

まだ入れるの?

今日は晴天に恵まれて気持ちがいい。


部活もないので当てもなくふらふらと町を散歩する。天候も良く日曜日とあって商店街は人で賑わっている。


そういえば、最近CDのチェックしてないな。行ってみるか


目的地が決まり、移動を開始すると


「あ、雪村さん」


「雪村くんも買い物?」


保護者とその子供に遭遇した。


「やあ、仁科さんに花丘さん。『雪村くんも』ということは、二人は買い物かい?」


「ええそうです。これからデパートに行くんです」


「今日は衣料品のセールだから、二人で行こうって前々から話してたのよ」


二人とも楽しそうに話す。どうやら二人ともこの日が来る事を楽しみにしていたらしい。


「二人とも仲がよろしい事で」


「雪村さんは山名さんと買い物行かないんですか?」


「まあ、たまには行くけど、男同士で行ってもねえ」


正明と買い物に行くときは、大抵部活の備品の調達や、サッカー関連の道具を買いに行くときだけだ。


「あら、雪村くんって意外に軟派なのね」


花丘さんは意外そうな顔をする。


「誰かさんみたいに堅物だと肩が凝るでしょ」


「ふふ、確かにそうね」


花丘さんはクスクスと笑っている。


「じゃあ今日はお一人で買い物ですか?」


「いや、ただ天気が良いし、暇なので散歩しているだけ」


「じゃあ、荷物持ちしてくれませんか?」


いきなり直球を投げてくる仁科さん。


「さつき! 駄目よ、突然人にそんな事頼んじゃ」


たしなめる保護者。この二人、意外と良いコンビかもしれないな。


「別にいいけど」


「え?」


驚く保護者。


「じゃあ、よろしくお願いしますね」


当然といった感じの子。


「本当にいいの?」


申し訳なさそうに問い直す保護者。


「別にかまわないよ。じゃ、行き…」


その瞬間。ゾクリと背中に悪寒が走る。


誰かが見ている?


キョロキョロと辺りを見回す。


「雪村くん、どうかしたの?」


「いや、なんでもないよ。行こうか」


「はい」


「ありがとう、雪村くん」


暇な日曜日の午後は荷物持ちという役目を頂き、暇じゃなくなった。


デパートの婦人服売り場では、二人であれもいい、これもいいと服を選んでいる。僕はただの荷物持ちなので、黙ってその光景を見つめている。


仁科さんの家って確か金持ちだから、別にセールで買わなくてもいいと思うんだけどね。まあ、ああやって二人で選ぶのが楽しいんだろうな。


僕には理解のできない楽しさだと思う。


ん?何か視線を感じる。


また誰かに見られている気がして周囲を見渡す。


気のせいかな?


「雪村くん、これどうかな?」


「雪村さん、この服私に似合いますか?」


二人はこちらにも似合うかどうか聞いてくる。


「…二人で決めた方がいいと思うよ」


「どうしてですか?」


「どうして?」


二人とも不思議そうな顔をしている。


「…服を選ぶのは苦手なもので」


「そうなの? そんな事ないように見えるんだけど」


「そうなんですか? 意外ですねえ」


二人に意外そうな顔をされてしまった。


「…まあ、そういうことだから、二人で楽しく選んで」


「でも、雪村くんそれじゃ退屈じゃない?」


「そうですよ。参加した方が楽しいですよ」


二人はどうもこちらに気を遣っているようだ。


「僕はただの荷物持ちだから気を遣わなくていいよ」


「そうですか。じゃ、お言葉に甘えさせてもらいますね」


「私もそうさせてもらうわ。じゃ、さつき、今度は向こうを見に行こうか?」


「はい、行きましょう」


二人はまだ見ていない場所へと歩いていった。


二人とも、この格好見ても、僕のセンスが最悪な事に気がつかないのかな?


それから1時間ばかり二人はあーでもないこーでもないと言いながら服を選んでいた。


服を選び終わり、荷物持ちのお礼ということで近くの喫茶店、シエロに行くことになった。


道中。ずっと誰かに尾けられている感じがしたが、気にしないでおいた。


カランカラン


「いらっしゃいませ。お?瑞音ちゃんにさつきちゃん、今日は買い物帰りかい?」


どうやらこの二人をマスターは知っているらしい。常連といったところか。


「こんにちはマスター。今日もケーキご馳走になりに来ました」


「チョコレートケーキまだ残ってますか?」


「はは、まだ沢山あるから大丈夫だよ。さつきちゃん」


マスターは笑顔で応対する。


「ではお客様、こちらへどうぞ」


ウェイトレスに案内され、窓際のテーブルに座った。


「今日はありがとう。雪村くん」


「お礼におごりますから、遠慮なく注文してくださいね」


「ご注文をどうぞ」


テーブルの脇ではウェイトレスさんが注文を待っている。


「じゃあ紅茶で」


「別に食べ物も注文しても構わないのに。あ、私はコーヒーとチーズケーキね」


「じゃあ私は紅茶とチョコレートケーキお願いします」


「紅茶がお二つ、コーヒーとチョコレートケーキとショートケーキがお一つずつですね、かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」


ウェイトレスは注文を確認してカウンターのマスターへと注文書を持っていく。


「それにしても、随分買ったね」


二人は僕の両手に余る程の服を買っていた。


「ごめんなさい。いいのが沢山あったものだからつい…」


「これだけ買えたのは荷物持ちさんがいてくれたおかげです。ありがとうございます」


二人とも、満足のようだ。


「お役に立てて何よりです」


そのとき、外からこちらを覗き見る人影を発見した。


あの人か、ずっとつけ回してたのは。


出るときに二人に心当たりが無いか聞いてみよう。


「お待たせしました。ご注文の紅茶とコーヒーと、チーズケーキ、チョコレートケーキです」


注文の品が運ばれてきた。


二人は早速ケーキを食べ始める。


「やっぱりここのケーキは1番ね」


「そうですね」


二人は美味しそうにケーキを食べている。


「二人とも、ここにはよく来るみたいだね」


「ええ。さつきと良く来てるのよ」


「ここのケーキを食べるのは、小さな楽しみなんです」


「へえ、じゃあ常連さんなんだ」


僕も目の前に置かれた紅茶を飲み始める。


「そうよ。だからもうマスターとも仲がいいの。でも雪村くん、本当に紅茶だけでよかったの?」


「甘いモノはあまり得意ではないので」


「あらそうなの。残念ね、このケーキの美味しさがわからないなんて、人生の半分損してるわよ」


「そうですね。確かにこの美味しさがわからないのは悲しい事ですね」


二人とも随分と大げさな事を言う。しかも真顔で。


「そうかな?」


「そうよ。ああ、美味しかった」


花丘さんはケーキを食べ終えてコーヒーに砂糖とミルクを入れている。


「そうですよ。甘いものがあるから生きていけるんです」


仁科さんはまだケーキを食べている。


「はは、仁科さん甘党なんだね」


また紅茶を一飲み。


「雪村くん、紅茶に砂糖入れないの?」


どうやら紅茶に砂糖を入れないのが不思議に見えたらしい。


「さっきも言ったけど甘いものはあまり得意じゃないから、コーヒーも紅茶も砂糖は入れません」


「ふーん。コーヒーはともかく紅茶も入れない人ってめずらしいわね」


「そうですね。私にとっては砂糖を入れないなんて考えられませんけど」


そう言ってもう3杯も紅茶に砂糖を入れている仁科さん。


「まあ確かに珍しいかもね」


「人の好みだから、別にいいと思うわよ。でも、雪村くんが服選ぶのが苦手だったのは意外だったわ」


「そうですね」


まだ砂糖を入れている仁科さん。


「そうかな?」


「そうよ。雪村くんって何でも出来るじゃない?」


「そうですね。雪村さんは何でも上手にできますから、不得手なものがあるなんて意外ですね」


まだまだ砂糖を入れる仁科さん。


「僕だって完璧じゃないから、出来ないものの一つや二つ同然あるよ」


「確かにそうね」


笑顔でコーヒーを飲む花丘さん。


「確かに本当に何でも出来る人がいたら、それはちょっと怖いですよね」


笑顔で砂糖を入れ続ける仁科さん。


まだ入れてるよ。いい加減止めるか。


「仁科さん、もう砂糖入れなくてもいいんじゃない?」


「え? あ! すいません。話に夢中になってて」


仁科さんは砂糖を入れるのをやめ、ようやく紅茶を飲み始めた。


「うーん…」


紅茶という名の砂糖を飲んで考え込む仁科さん。


「ど、どうしたの?甘すぎた?」


「ちょっと足りなかったようですからもう少し入れますね」


そう言って仁科さんはまた砂糖を追加し始めた。


ま、まだ入れるのか…


「驚いた? さつきったらいつもこうなのよ」


花丘さんは見慣れているらしく、全く驚いていない。


「は、はあ」


「甘党もここまで来れば脅威よね?」


「確かに凄いね…」


「でも、それ以上に脅威なのはね、この娘これだけやっても全然太らないのよ」


「それはもっと凄いね…」


「私は太り易いから、うらやましいわ…」


そう言って花丘さんは紅茶に砂糖を入れ続ける仁科さんを見ている。


「うん、ちょうどいい」


やっと納得のいく味になったのか、仁科さんは美味しそうに紅茶という名の砂糖を飲み始めた。


世の中には色んな人がいるんだな…


ひとしきり話をして店を出るなり周囲と確認する。


まだ、いるみたいだ。


「ねえ、二人共。ちょっと待っててくれる」


「何?」


「どうしたんですか?」


柱の影にいる謎の男の前にダッシュで詰め寄る。


「どういうつもりですか?ずっと尾けて来るなんて」


謎の男に問う。


「!」


謎の男は慌てて逃げようとする。


「逃がしませんよ」


謎の男の腕を取り、背中に回して肩関節をきめる。


「痛たたた…。何をする!」


反抗する謎の男。


「はいはい、おとなくしましょうね」


そのまま二人の前に連行した。


「花丘さん、仁科さん、僕達をずっと尾けていたこの男に見覚えある?」


謎の男のサングラスとマスク、を剥ぎ取って、顔を見せる。


「お父様!」


驚きの声を上げる仁科さん。


「え? お、お父様?」


「き、君。いい加減離したまえ」


「あ、すいません」


謎の男改め仁科さんのお父様を解放した。


「あ痛たた…。さつき、何故こんな乱暴な男と一緒にいるんだ?」


自分の事を棚に上げて怒るお父様。


「お父様こそ、ずっと私達の事を尾けてたんですか?」


「む…。そ、それはだな…。お前の事が心配になってな」


いきなり勢いが無くなるお父様。


「だいたい、お仕事はどうしたんですか?」


攻勢に出る娘。


「仕事なら大丈夫だ、今頃母さんが…」


「大丈夫ではありません!」


「「「「!」」」」


声がしたほうに振り返ると、そこにはいかにもキャリアウーマンといった感じの中年女性が立っていた。


「お、お母様…」


「れ、玲子…」


また驚く仁科さん。とお父様。


「お、お母様…ですか?」


「社長。先方がお待ちです。社に戻りますわよ」


お母様はお父様を睨みつける。


「は、はい」


素直に従うお父様。


「ごめんなさいね、さつき。邪魔をしてしまって」


「お母様、お父様を逃がさないように注意してください」


「ええ…。気をつけるわ」


お母様は仁科さんと話をつけると、僕と花丘さんの方を向き


「夫がご迷惑をかけて申し訳ありません。雪村さん、花丘さん」


頭を下げるお母様。


「僕の事を知っているんですか?」


「ええ、さつきから聞いていますわ。何でも…」


「お母様! 仕事に戻られるんじゃないんですか?」


慌てて話を遮る仁科さん。


「そうだったわね。さつき、また後でね。では社長、参りますわよ」


お母様はお父様を引きずって去って行った。


「……」


呆然。


「ご、ごめんなさい、瑞音ちゃんに雪村さん。お父様私に対してはもの凄く心配性で…」


謝る仁科さん。


「……ああ、わかってるよ。悪気がなかったって事は…」


「そうですか。あ、そろそろ帰りましょう?」


「そうしようか」


「ええ」


世の中にはいろんな人がいる。それを実感した一日だった。

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