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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
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音色は奇麗。声色は?

中間テストが終わって一週間ほど過ぎたある日。


昼休みにたまたま音楽室の前を通り過ぎるとピアノの音が聞こえてきた。


結構難しそうな曲を弾いているように思える。


誰が弾いているんだろう?先生かな?


ちょっと興味があったので、音楽室へと行く事にした。


音楽室に入ると


「あ、雪村さん」


ピアノを弾いていたのは仁科さんだった。


「仁科さん、ピアノ弾けるんだね」


「はい。小さいころ習いました。素人に毛が生えた程度の腕ですけどね」


そう言って笑う仁科さん。


「その割には難しそうな曲弾いてたみたいだけど」


「いえ、これはそんなに難しい曲じゃないです。私、手が大きくないからそんなに難しい曲は弾けないんです」


「手が小さい?」


「はい、ピアノは鍵盤抑えるのに大きな手のほうが良いんです。昔の有名なピアニストも手が大きかったらしいです」


「へえ、そうなんだ。でもとっても上手だと思うけど。ためしにもう一回弾いてみてくれないかな?」


「は、はい喜んで」


仁科さんは嬉しそうにピアノを弾き始めた。


彼女の奏でる音色は、人を暖かく包み込むような感じがする。


いい音色だな。落ち着く…


「……」


ピアノを弾いている仁科さんはこころなしか、表情が生き生きしている。


本当に楽しそうに弾いているな。よほど好きなんだな…


ピアノの旋律に聞き惚れていると


「……☆▽▼■ΝΩΧ♀♂∞ʼn※」


「!」


仁科さんは気分が乗ってきたのか、歌い出した。


「†♭♯¥$¢∂…」


ま、まずい。耳が死ぬ…。


仁科さんに気付かれないように耳を塞ぐ


おかげでピアノの音色は聞こえにくくなったが、幾分仁科さんの口から放たれる超音波も防げた。



そんな時間が5分ほど経ち、ようやく彼女の演奏が終わった。


「…どうでしたか?」


「良かったよ」


歌さえなければ、とは絶対に言えない。


「本当ですか? 良かったあ…」


仁科さんは嬉しそうな笑みを浮かべる。


「ずいぶん楽しそうに弾いてたね」


「今は好きですけど、最初はそうでもなかったんです」


伏し目がちになる仁科さん。


「何故?」


「私小さい頃病気がちで、家の中にいる事が多かったんです」


「……」


「私は兄弟もいませんし、両親も仕事がありましたから、遊びは一人で本を読むかピアノを弾くことぐらいしかなかったんです」


「でも、今は家にこもりっきりじゃなくてもよくなったから、好きで弾いていると」


「は、はい」


「ついでに言うと、眼が悪いのも子供の頃本をたくさん読んでいた影響かな?」


「……」


驚いた顔をしてこちらを見る仁科さん。


「どうしたの?」


「雪村さん、すごいです。私の言いたいこと全部言っちゃいました」


仁科さんは目を丸くしている。


「あら、当たってた?適当に言ったんだけどね」


「そうなんですか?」


「そう」


「はあ、驚いて損しました。当てずっぽうだったんですね」


仁科さんは呆れてしまった。


「読心術の心得でもあると思ったかい?」


「はい。私の心を読んでるみたいでしたから」


冗談のつもりが、肯定されてしまった。


「はは、期待させちゃってごめん」


「別にいいですよ。私が勝手にそう思っただけですから。それで、雪村さん」


「何?」


「雪村さんはどんな子供だったんですか?」


仁科さんは目を輝かせて、興味津々であることをアピールしている。


「僕は…えーとわかんない」


「え? わからないってどういうことですか?」


仁科さんが首を傾げる


「んー。10歳以前の記憶が無くて」


「え…」


仁科さんの表情が強張る。


「何故かはしらないけど、10歳位の時に病院のベッドにいて、そこからの記憶しかない」


「ご、ごめんなさい。私聞いちゃいけないこと聞いちゃったみたいで…」


仁科さんはおろおろしだす。


「ああ、気にしなくていいよ。別に隠しているわけじゃないから」


「そうですか…。すみません」


「覚えてはいないけど、近所にトンデモな幼なじみがいたみたい」


「…もしかして、その幼馴染みって龍崎さんのことですか?」


「そう。で、高校に入って再会したわけ」


「そうですか?雪村さんと龍崎さんとっても仲が良さそうに見えますけど」


仁科さんはとんでもないことを言う。


薫と僕が仲良し?悪い冗談だな。


「……ど、どこをどう見たらあれが仲が良いと見えるの?」


「何か、お互いの事をもの凄くよくわかり合っているじゃないですか」


「………そ、そう見えるの?ホントに」


「はい」


仁科さんは力強く肯定する。仁科さんの言う通りならば、何故あいつは人を殴り続けるんだ?


「僕はそんなことないと思うんだけど」


「そんなことありますよ。私、いつも二人が羨ましいと思って見てましたから」


「…どこがどうなってアレが羨ましいの?」


「とっても羨ましいですよ。はあ、私じゃやっぱり龍崎さんにも勝てないんでしょうか…」


大きな溜息をつきながら何かを呟く仁科さん。


「…なんか言った?」


「い、いえなんでもないです。なんでも! あ、ほら昼休み終わるから行きましょう」


「あ、本当だ。教室戻ろうか」


最後に何を言ったのかは気になったが、仁科さんと教室へ戻った。

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