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ニセモノ?ホンモノ?  作者: 名無幸
12/49

憂さ晴らしはカラオケで

そして試験結果の発表の日


順位が掲示板に張り出され、生徒達が集まって自分の名前を探している。


今回はどうだろうか? 人だかりの中、試験結果の掲示に目をやる。


多分大丈夫だよな?


……


20位 龍崎 薫


……


23位 雪村 慧


今回も成功。これで身の安全は保証された。


教室に戻ると、


「慧ー」


夕希がこちらにやって来た。


「どうしたの?」


「今回も助かったよー」


夕希は安堵の表情を浮かべている。


「それは良かった」


「ああー、やっと解放された。じゃね」


夕希は教室に戻っていった。


「慧ぃ」


「……そうか、失敗か正明」


「まだ何もいってないだろ!大丈夫だよ!」


怒る正明。


「良かったな。じゃああの件はよろしく」


「ああ、約束だからな。じゃ、先に戻ってるぞ」


正明も教室へと戻っていった。


「……」


正明が戻ると同時に、いつの間にか目の前に愁一が現れた。


「愁一君は優秀なことで」


順位表を指さす。彼は9位と1年の頃からの定位置をキープしている。


「お前も相変わらずの成績だな」


愁一は無表情のまま答える。


「まあね」


「…いつになったら本気を出す気だ?」


愁一は無表情のまま、鋭い視線を向けてくる。


「何を仰いますやら。あれが私の限界でございます」


「…そうか。先に戻ってるぞ」


愁一はそう言うと教室へ戻っていった。


「あ、雪村くん」


今度は花丘さんがやって来た。


「どうだった…って聞くまでもないね」


彼女の成績は学年1位。しかも満点で。


「私も驚いたわ。まさか満点なんてね。で、雪村君はどうだったの?」


「いつもの通り20番台を彷徨ってます」


「そう。でも雪村君も凄いわよ。全部80点なんてなかなかできないじゃない」


花丘さんはこちらが落ち込んでいると思っているのが、必死に慰める。


「…狙ってやったとしたら?」


「そんなことできるの!」


花丘さんは驚いている。


「何てね。冗談だよ。ただの偶然さ」


「偶然でもある意味すごいけど、やっぱりそうよね? でもちょっと意外ね」


花丘さんは妙な事を言う。


「意外? 何が?」


「雪村くんってもっと成績良さそうな気がしたから…」


花丘さんはそう言って口に手を当てている。


「買い被りすぎだね」


「そうかなあ?」


花丘さんは首を傾げている。


「瑞音ちゃん、どこー?」


仁科さんの声がする。


「あ、さつきが呼んでるから、もう行くね」


花丘さんは仁科さんの所へと向かった。


妙な所で鋭い気がするね。彼女は。


そんなことを考えながら教室に戻る。


「カラオケに行くぞー!」


教室に着くなり、夕希にそう言われた。


「唐突だね。で面子は?」


「あたしは薫に声かけてくる。あんたは花丘さんとかいつもの二人に声かけてみて」


「了解」


二手に分かれて声をかける


ちょうど花丘さんと仁科さんが教室に戻ってくるのが目に入る。


「ねえ二人共。今日の帰りにカラオケに行かない?」


「行く行く。さつきは?」


花丘さんは笑顔でOK


「はい、私も行きたいです」


二人からは色好い返事を貰えた。あとは男どもだ


まず愁一に声をかけるとあっさりOKした。最後は正明だ。


正明に声をかけると


「ああ、いい…い、いや!ちょっと待って」


何故か考え込んでしまった。ブツブツと何かを呟いている。


聞き耳を立てると


「…これはあくまで友人と遊びに行くだけだ。し、しかし相手が女子では誤解を招くかもしれない。…もし龍崎さんに見られたら…ああ、しかし自分で暇だと言っておいて断るのも…」


どうやら彼の内面では深い葛藤があるらしい。


面白いほどに内面がガラス張りだが。


「正明、もう悩む必要はないよ」


「どういうことだ?」


正明は顔を上げてこちらを見る。


「薫が来るかもしれない」


「な、何?りゅ、龍崎さんが!」


正明は驚きのあまり声が裏返っている。


「現在交渉中でまだ確定ではないけどね。あ、戻ってきた」


薫との交渉を終えた夕希がこちらに戻ってきた。


「結果は?」


「OK」


夕希は笑顔で答える。


「だ、そうだ」


正明の方を見る。


「あ、ああ」


嬉しさを隠せない正明。見事なまでに顔が緩んでいる。その顔を見ていると何故か無性に意地悪がしたくなった。


「ああ夕希。正明はやっぱり都合が悪いって」


「そうなの? 残念ー。せっかく薫も来るのに―」


こちらの意図を組んで夕希はわざとらしく溜息をつく。


「おい! 勝手に人の都合を決めるな!」


正明はすかさず反応する。


「ああ悪い悪い。なんか悩んでたみたいだったから都合が悪いのかなあって」


「誰がそんなことを言った!」


正明は激怒している。


「まあまあ落ち着けって。あまりにも鼻の下が伸びていたから、少し意地悪してみただけだって」


「…な」


正明の顔が怒りではなく恥ずかしさで見る見る赤くなる。


「あらあら正明君、これじゃ先が思いやられるねえ」


夕希は楽しそうに小さくなっている正明を眺めている。


「正明君かわいい」


「こ、この悪魔どもめ…」


正明が恨み言を吐く。


休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、皆席に戻っていく。


窓の外を見ながらのほほんとしていると、教室の空気が違うことに気づいた。


周囲に耳を傾けると


「ちくしょぉぉぉ!! あいつらぁぁ!!! おいしい思いしやがってぇ!!!!」


「雪村の奴、うちのクラスの綺麗どころ独り占めか?」


「あの野郎、とぼけたふりしてやりやがる」


「花丘さんと一緒に行くだと?ちきしょう、今度あいつの靴に画鋲いれてやる」


「雪村、許すまじ」


「雪村の野郎、両手に花どころか両手両足に花じゃねえか」


「確かに羨ましいでござるが、小島先輩さえいれば…」


野獣どもの遠吠えが聞こえてきた。


……何で、僕だけが恨みを買っているんだ?


考えるだけ無駄な気がしたので日向ぼっこを続けることにした。




放課後、参加者一同集合して駅前のカラオケボックスへと向かう。


途中仁科さんが数回消えたが無事に到着した。


「みんなー、張り切っていくよー!」


部屋に入るなり夕希はもうノリノリだ。マイクを離さない。


「高平さんすごいわねえ。もう5曲連続よ」


花丘さんは感心している。


「そう言う花丘さんもさっきまで4曲連続で歌ってたじゃないの」


「そうですよ。ノリノリじゃないですか」


仁科さんと二人で突っ込む。


「ま、まあそうね。でも、楽しいからいいじゃない」


笑って誤魔化す花丘さん。


「まあ確かにね」


「そうですね。こうやってみんなでワイワイやるのも楽しいですからね」


三人で会話に花を咲かせていると


「あれー?これ入れたの誰?」


夕希はこちらを見回す。


「あ、私だ。高平さん、一緒に歌わない?」


「もちろんいいよ!行こうかー」


「おー」


本当にこの二人はノリノリだ。


「二人とも本当に上手ですねえ」


仁科さんは二人の歌に聴き惚れている。


「確かに上手だね。夕希はともかく、ホント花丘さんって何でもできるね」


「そうですね。本当、羨ましいです。私もあのくらい何でもできればなあ…」


仁科さんは羨望の眼差しを花丘さんに向けている。


「確かにね。あそこまで凄いとそう思うのは無理はないね」


「そうですね」


「でも仁科さんが卑下することもないんじゃない」


「雪村君は、羨ましいと思わないんですか?」


仁科さんは目をパチパチさせながらこちらを見る。


「そりゃあ、羨ましがったところで僕はどうやっても彼女にはなれない。そして彼女もどうやっても僕にはなれない。だから羨ましがる必要はないかなって」


「え?えーと…、どういうことですか?」


仁科さんは僕の言いたいことがつかめずに首を傾げている。


「確かに花丘さんのような人には憧れないこともない。しかし彼女にも出来ないことはある。しかしそれが僕には出来るかもしれない」


「……」


仁科さんは黙って聞いている。


「それは仁科さんも同じだよ。確かに人の良いところから学ぶことも必要だけど、だからといって自分を卑下する必要はないと思うけどね、僕は」


「…雪村さん、ありがとうございます」


仁科さんはぺこりと頭を下げる。


「…ちょっとカッコつけすぎかな?」


「えっと…励ましてくれたんですよね?」


仁科さんは少し恥ずかしそうに言う。


「…まあそんなとこかな?」


「とにかく、ありがとうございます。私、少し自信が湧いてきました」


また頭を下げる仁科さん。


「礼には及ばないよ」


そんなやりとりをしている向こう側の席では


「りゅ、龍崎さん、歌上手だね」


緊張しながら薫に話しかける正明。もう少し自然に話しかけられないのか。


「そう? ありがとう」


薫は素っ気なく答える。


「ね、ねえ。この曲知ってる?」


正明は曲目リストを薫の目の前に広げて指さしている。魂胆が見え見えだ。


「ごめんなさい。知らないわ」


「あ、そ、そう」


正明は当てが外れてがっくりと項垂れている。その様子を見て溜息をついた。


春は遠いかなあ。


二人のやりとりを見てそう思った。


「あれ? 次は誰?」


どうやら二人の歌が終わったようだ。次の人を探している。


「…俺だ」


愁一が立ち上がり花丘さんからマイクをもらう。


「いよー、待ってました」


夕希がマイクを持ったままからかい半分で声をかける。どうやらマイクは絶対に離さないらしい。


「期待してるわよー」


「しびれさせてくださーい」


花丘さんと仁科さんもやんややんやと声をかける。


「ヘマするなよー」


「耳栓はあるから心配するなよー」


二人で野次る。


「まあ、せいぜい頑張ることね」


薫だけはよくわからない声援を送る。


「……」


愁一はそんな声援に何の反応も示さず、歌い始める。


「♪~」


愁一の歌は、元々の声質がいいのか驚くほどに上手である。


「正明、驚いたな」


正明の隣に移動し、肘で突く。


「ああ。あいつがここまで歌が得意だったとはな」


正明も信じられないという表情で愁一の歌を聴いている。


「人には意外な長所があるということかな」


二人でそんな事を話しながら歌を聴いていると


「慧、あなたは歌わないのかしら?」


薫がいつの間にか隣にやってきた。


「いやー、花丘さんとか夕希とか上手だし、マイク離さないから…」


「二人は上手、ね…」


明らかに不満そうな薫。


「いえもちろん薫もお上手ですよ」


慌てて訂正。


「本当にそう思っているのかしらねえ…」


納得しない薫。


「もちろんです…」


「ふうん、誰かさん達と話しに夢中になって聴いていなかったんじゃないかしらねえ」


懐疑的な目を向けながら詰め寄る薫。


「もちろん聴いて…」


「へえー…」


さらに詰め寄り、片腕で首を絞める薫。


「あ、あのー苦しいんですけど…」


薫は本気で締め上げてくる。


「本当に聴いていたのかしらねえ」


薫の腕の力はどんどん強くなる。


「ま、まさあ…き、た…」


隣にいる友に助けを求める。が


「ああ…やっぱり龍崎さん…」


その様子を見て寂しそうにしている。


友よ。そんな目をしてないで助けてくれ…


「それとも、聞き苦しかったかしらねえ」


首の肉を千切られそうだ。


「しゅ…いち」


もう1人の友に目で合図を送る。


「……」


首を振っている。お手上げらしい。


…友情って、なんだろうな


薄れつつある意識の中、そんなことを考えていると


「あら? この曲入れたのさつきじゃない? さつきー。出番よ。」


二人の歌が終わり、マイクで呼ぶ花丘さん。


「あ、ごめん瑞音ちゃん」


花丘さんからマイクを受け取り、深呼吸をする仁科さん。


「皆さん、一生懸命歌いますので聞いてください」


「さつきー」


「もちろん聞くよー」


こちらが死にそうになっているのにまったく気がつかないで声援を送る二人。しかし


「私の歌は聴けないのかしらねえ?」


薫の手は緩まない。


「……」


意識はもう半分飛びかけている。


そこに


「〇▲×◇☆αΓσβ…」


声援を受けた仁科さんが歌いだした。


「……こ、これは超音…」


バタッ


「……さ、さつき…何故…」


ガクッ


「……な、何なのよ!これ…」


カクッ


「……きゅー…」


ドテッ


彼女の放つ音波の威力は凄まじく、仲間は次々とやられてしまった。しかし、そのおかげで薫の魔手から逃れることができた。


た、助かった……ってまずい僕も意識が…。た、確か、リュックにみ、耳栓が


薄れ行く意識の中、リュックから耳栓を取り出し、耳にはめる。


「………」


これで音波の影響は受けなくなった。


しかし、音痴もここまで来ると殺人的だな。あれ?


よく見ると


「……」


愁一だけは表情一つ変えずに歌を聴いている。


愁一の奴、何故大丈夫なんだ?あ、歌終わったみたい。


歌が終わったようなので耳栓を緩める。


「あれ?皆さんこんな所で寝てどうしたんですか?」


彼女は自分のせいである事に全く気づいてないらしい。


「み、みんな疲れてるんじゃないかな? なあ愁一」


「…ああ」


「そうですか。でも人が歌っている途中で寝るなんてみんな失礼です」


仁科さんは憮然としている。


「ま、まあ僕達が聞いているからどんどん歌ってよ」


「はい。まだまだいきますよ!」


そう言って2曲目を歌いだした。


「…………」


結局この後彼女は10曲以上歌い続けた。ちなみに愁一はじっと耐え続けた。


「はあ、すっきりしました」


すっかりご満悦のようだ。


「仁科さん、カラオケ好きなの?」


「はい、大好きです。歌うのは楽しいですから」


「そ、そう」


やれやれ、一番タチの悪いタイプだな…


「あ、そろそろ時間ですね。雪村さん、景浦さん、みんなを起こして帰りましょう。」


「あ、ああ」


「………」


もはや愁一には話す気力すら残されいないらしい。明らかに顔色が悪い。それでもふらふらと立ち上がる。


「景浦さん、ふらついてますけど大丈夫ですか?」


仁科さんが心配そうに声をかける。


「…大丈…夫だ。みんな……起こして…かえ…ろ…う」


「そうですね。帰りましょう」


愁一…よく頑張った


友の戦いぶりに敬意を表したい気分だ。


三人で手分けして撃沈した連中を起こし、帰路についた。この時仁科さん以外の全員が同じことを考えていただろう。


『絶対に、仁科さんとはカラオケに行くべきではない』と

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