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白い雪の向こう側

掲載日:2026/06/04

 冬の匂いが、街を包み込んでいた。吐く息は白くて、まるで言葉にできなかった想いが形になっているみたいだった。


 君と並んで歩く帰り道。特別なことなんて何もない。ただ、同じ歩幅で歩いているだけ。それなのに、どうしてこんなにも苦しくて、こんなにも愛おしいんだろう。


 「寒いね」


 君はそう言って、少しだけ肩をすくめた。その仕草が、なぜか胸に刺さる。


「うん、寒いね⋯⋯」


 それしか返せない自分が、少しだけ嫌になる。


 本当は伝えたいことなんて、いくらでもあるのに。


 —―—好きだよ、とか。

 ―——離れたくない、とか。


 でも、そのどれもが言葉にした瞬間、壊れてしまいそうで。


 君とのこの距離が、ちょうどいいなんて嘘だ。もっと近づきたい。もっと触れたい。知りたい。だけど同時に、怖かった。


 もし、この関係がおかしくなってしまったら。もし、君がいなくなったら。


 そう考えるだけで、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 信号待ちで、ふと君の横顔を見る。白い息の向こうで、君はどこか遠くを見ていた。その目が、少しだけ寂しそうに見えたのは、気のせいだったのかな。


 「ねえ」


 思わず声をかけると、君はこっちを向いた。


 「なに?」


 その一言で、全部が止まる。


 言いたかった言葉は、喉の奥で凍りついたまま動かない。


 結局、僕は笑ってごまかす。


 「なんでもない」


 君も、少しだけ笑った。その笑顔が、綺麗で。でも、どこか遠くて。


 まるで、触れたら消えてしまう雪みたいだった。


 青に変わった信号を、二人で渡る。


 足音だけが、静かに響く。


 この時間が、ずっと続けばいいのに。


 そう思うほどに、終わりが近づいている気がして。


 白い息の中に溶けていく想いは、結局、君には届かないまま。


 それでも僕は、今日も隣を歩く。


 言えなかった「好き」を抱えたまま。

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