白い雪の向こう側
冬の匂いが、街を包み込んでいた。吐く息は白くて、まるで言葉にできなかった想いが形になっているみたいだった。
君と並んで歩く帰り道。特別なことなんて何もない。ただ、同じ歩幅で歩いているだけ。それなのに、どうしてこんなにも苦しくて、こんなにも愛おしいんだろう。
「寒いね」
君はそう言って、少しだけ肩をすくめた。その仕草が、なぜか胸に刺さる。
「うん、寒いね⋯⋯」
それしか返せない自分が、少しだけ嫌になる。
本当は伝えたいことなんて、いくらでもあるのに。
—―—好きだよ、とか。
―——離れたくない、とか。
でも、そのどれもが言葉にした瞬間、壊れてしまいそうで。
君とのこの距離が、ちょうどいいなんて嘘だ。もっと近づきたい。もっと触れたい。知りたい。だけど同時に、怖かった。
もし、この関係がおかしくなってしまったら。もし、君がいなくなったら。
そう考えるだけで、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
信号待ちで、ふと君の横顔を見る。白い息の向こうで、君はどこか遠くを見ていた。その目が、少しだけ寂しそうに見えたのは、気のせいだったのかな。
「ねえ」
思わず声をかけると、君はこっちを向いた。
「なに?」
その一言で、全部が止まる。
言いたかった言葉は、喉の奥で凍りついたまま動かない。
結局、僕は笑ってごまかす。
「なんでもない」
君も、少しだけ笑った。その笑顔が、綺麗で。でも、どこか遠くて。
まるで、触れたら消えてしまう雪みたいだった。
青に変わった信号を、二人で渡る。
足音だけが、静かに響く。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思うほどに、終わりが近づいている気がして。
白い息の中に溶けていく想いは、結局、君には届かないまま。
それでも僕は、今日も隣を歩く。
言えなかった「好き」を抱えたまま。




