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神国プロトコル  作者: キロヒカ.オツマ―


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何も言われない、という命令

呼び戻しは、唐突だった。


「少し、顔を出せ」


それだけの文面。

差出人は直属の上司ではない。

さらに上だ。


三浦は、

自席で数秒だけ動かなかった。


――早い。


それが、最初の感想だった。


会議室ではない。

応接室でもない。

庁舎の奥、

使われなくなった小会議室。


ここが指定された時点で、

話の性質は決まっていた。


ドアをノックすると、

中から「どうぞ」と声がする。


部屋には二人いた。


一人は、

三浦が十年以上仕えてきた上司。

もう一人は、

名刺を見なくても分かる。


政治任用組。


「座れ」


政治任用の男が言った。

丁寧語ではない。

だが、威圧もない。


それが、

一番厄介だった。


三浦は座る。


「最近、

 外と連絡を取ったか」


唐突だった。


「業務上、

 取材対応はあります」


政治任用の男は、

小さく笑った。


「“業務上”ね」


上司が、

口を挟む。


「三浦。

 正直に答えろ」


三浦は、

一瞬だけ考えた。


嘘はつかない。

だが、

言い切らない。


「個人的な連絡を、

 一件」


政治任用の男が、

ゆっくり頷く。


「記者か」


「……はい」


「名前は」


三浦は、

答えなかった。


沈黙が落ちる。


時計の秒針の音が、

やけに大きい。


政治任用の男は、

その沈黙を

破らなかった。


代わりに、

別の話を始める。


「君は、

 優秀だそうだな」


評価。

だが、

褒めてはいない。


「だからこそ、

 残念だ」


残念、という言葉に、

具体的な中身はない。


それが、

中身だった。


「今、

 この国は

 非常に繊細な状態にある」


三浦は、

その言葉を

何度も聞いてきた。


便利な言葉。

何にでも使える。


「不確かな情報が、

 外に出ることで、

 誰が得をすると思う?」


政治任用の男は、

問いかける。


三浦は、

答えない。


「少なくとも、

 君ではない」


それは、

脅しではなかった。


予測だった。


上司が、

少し身を乗り出す。


「三浦。

 これは命令じゃない」


その前置きに、

三浦の胃が重くなる。


「だが、

 君は賢い」


政治任用の男が続ける。


「賢い人間は、

 言わなくていいことを

 理解する」


三浦は、

拳を握った。


「……もし、

 言わなかった結果、

 何かが起きたら?」


政治任用の男は、

即答しなかった。


その代わり、

上司を見る。


上司は、

目を伏せた。


それが、

答えだった。


――責任は、

 発生しない。


「君が黙れば、

 何も起きなかったことになる」


政治任用の男は、

穏やかに言う。


「それが、

 この組織の

 強さだ」


三浦は、

理解した。


これは、

圧力ではない。


免責の提示だ。


黙れば守られる。

話せば切られる。


だが、

その“守られる”には、

条件がある。


――自分が、

 見たものを

 見なかったことにする。


「……分かりました」


三浦は、

そう答えた。


政治任用の男は、

満足そうに頷く。


「話が早くて助かる」


上司も、

安堵した表情を浮かべた。


「今日は、

 それだけだ」


立ち上がるよう促され、

三浦は部屋を出た。


廊下に出た瞬間、

足がわずかに震えた。


だが、

頭は冴えている。


――彼らは、

 何も知らない。


――知ろうとも

 していない。


それは、

安心でもあり、

恐怖でもあった。


自席に戻り、

三浦は引き出しを開ける。


中には、

個人用のノート。


そこに、

短く書く。


組織は、止めない

止める役は、最初から想定されていない


ペンを置き、

彼は椅子にもたれた。


――これで、

 完全に戻れなくなった。


だが、

不思議と後悔はなかった。


なぜなら、

今なら分かる。


鷹宮が、

 なぜ

 ここまで来たのか。


止める者が、

最初から

いない世界。


三浦は、

静かに立ち上がった。


そして、

再び携帯を取り出す。


今度は、

迷わなかった。


――沈黙は、

 選択だ。


――だが、

 拒否もまた、

 選択だ。


彼は、

組織の外へ

一歩踏み出した。

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