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神国プロトコル  作者: キロヒカ.オツマ―


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決断は、文書化されない

決断は、文書化されない


午前二時を過ぎたころ、三浦の携帯が震えた。


庁舎の外。

仮眠室に向かう途中だった。

この時間に鳴る連絡は、例外なく「予定外」だ。


表示された名前を見て、

彼は一瞬だけ立ち止まった。


――内部監査室。


「……三浦です」


声を抑える必要はなかった。

この時間、このフロアに人はいない。


『急で悪いが、

 今から来られるか』


質問ではなかった。


会議室に入ると、

すでに三人が揃っていた。

全員、役職も専門も違う。

だが共通点が一つある。


“責任を分散する立場”にいる人間だ。


机の中央に、

新しい資料が置かれている。


「これは?」


三浦が尋ねると、

最年長の男が答えた。


「追加情報だ。

 国外から回ってきた」


どの国かは言わない。

言う必要がない。


三浦は、資料に目を落とした。

内容は断片的だ。

推測、仮定、照合不能。


だが、

量が揃い始めている。


――偶然では説明できない段階。


「これ……」


言葉を選びかけて、

やめた。


「介入の判断材料には、

 まだ足りない」


自分でも驚くほど、

冷静な声だった。


「そうだな」


別の男が頷く。


「だが、

 “見過ごした”とは言えなくなってきた」


三浦は、その言い回しに引っかかった。


見過ごした。

つまり――

今は、まだ見過ごしていないことになっている。


最年長の男が、

指を組んだ。


「三浦。

 君は、彼を知っているな」


否定しようと思えばできた。

だが、それは無意味だった。


「大学院の同期です」


「なら聞く。

 彼は、

 引き返せる人間か?」


その問いは、

想像以上に重かった。


鷹宮の顔が浮かぶ。

理路整然とした口調。

感情を排した目。

自分を“例外”だと思っていない態度。


「……彼は」


三浦は、息を吸う。


「自分が正しいと

 疑う訓練を、

 受けていません」


沈黙。


それは、

研究者としての評価であり、

人間としての警告だった。


「つまり?」


「止まる理由を、

 外部に求めるタイプではない」


最年長の男は、

静かに頷いた。


「分かった」


そう言って、

資料を閉じる。


「では、

 君に選択肢を与えよう」


選択肢。

その言葉に、

三浦は嫌な予感を覚えた。


「正式な手続きを進めるか、

 あるいは――」


言葉が、

一拍だけ置かれる。


「“個人的な判断”として、

 君が動くか」


それは、

救いのようであり、

罠でもあった。


正式手続きなら、

時間がかかる。

その間に何も起きなければ、

問題は自然消滅する。


個人的判断なら、

迅速だ。

だが、

すべての責任が、

 一人に集約される。


「君なら分かるだろう」


最年長の男は言った。


「どちらが、

 この組織にとって

 “合理的”か」


三浦は、

その言葉の主語を聞き逃さなかった。


――この組織にとって。


国家でも、

国民でもない。


「……考える時間をください」


「もちろんだ」


男は、

即答した。


「だが、

 長くは待てない」


会議は、それで終わった。


廊下に出ると、

三浦は壁にもたれた。

冷たい感触が、

現実に引き戻す。


――俺が動けば、

 彼は止まるかもしれない。


――だが、

 俺は終わる。


キャリア。

信用。

場合によっては、

法的責任。


それでも、

一つだけ確かなことがある。


今、動かなければ、

 後で“動けなかった理由”を

 一生考えることになる。


三浦は、

携帯を取り出した。


登録された連絡先の中に、

一つだけ、

個人的な番号がある。


――鷹宮。


指が止まる。


直接連絡することは、

最悪の選択だ。

情が入る。

記録も残る。


三浦は、

画面を消した。


代わりに、

別の番号を選ぶ。


女性記者の名刺に書かれていた、

直通の連絡先。


――ここから先は、

 組織の外だ。


呼び出し音が鳴る。


三浦は、

深く息を吸い、

そして吐いた。


「……三浦です。

 少し、

 話を聞いてもらえますか」


通話が繋がった瞬間、

彼は理解した。


――これは、

 正義の選択ではない。


――逃げ道を、

 自分で塞ぐ選択だ。


だが、

それでも。


彼は、

初めて自分の判断で、

一線を越えた。

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