表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神国プロトコル  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/18

立場は、先に決まっている


その男を見た瞬間、鷹宮は足を止めた。


霞が関の合同庁舎。

午後三時を回ったばかりで、ロビーには人の流れが途切れない。

スーツの色も歩調も似通った群れの中で、

彼だけが、わずかに“過去”の輪郭を帯びていた。


三浦みうら 恒一こういち

大学院時代、同じ研究室にいた同期だ。


――まだ、ここにいるのか。


鷹宮がそう思ったのと、

三浦がこちらに気づいたのは、ほぼ同時だった。


「……鷹宮?」


声に、驚きと警戒が同居している。

だが、逃げる様子はない。


「久しぶりだな」


鷹宮はそれだけ言った。

親しさを込める必要はない。

だが、敵意も不要だ。


三浦は少し迷ってから、軽く会釈した。

ネクタイの結び目は完璧で、

胸元には官庁の職員証が覗いている。


「こっちに来てたのか」


「仕事でな」


嘘ではない。

だが、説明する気もなかった。


二人はロビーの端にある簡素な休憩スペースへ移動した。

立ち話の距離感。

座るほどの関係ではない。


「研究室を辞めたって聞いてた」


三浦の口調は、

“残念”と“安心”の中間だった。


「君は残ったんだな」


「残ったというか……流れだよ」


三浦はそう言って笑った。

その笑顔は、大学院時代と同じようで、

同時に、決定的に違っていた。


「あの頃さ」


三浦が切り出す。


「君、よく言ってただろ。

 国家は設計できるって」


鷹宮は、即答しなかった。

言葉を選んでいるのではない。

答えが、今も変わっていないことを確認していた。


「言ったな」


「正直、怖かったよ」


三浦は視線を逸らし、

ロビーを行き交う人間たちを見た。


「理屈は分かる。

 でも、現実には……」


「現実は、理屈の結果だ」


鷹宮は静かに遮った。


「君は、現実を“与えられるもの”だと思っている。

 だから、怖くなる」


三浦は一瞬、言葉を失った。

それから、ゆっくりと息を吐く。


「……君、変わってないな」


「変わる必要がなかっただけだ」


沈黙。

空調の音だけが、二人の間を埋める。


「俺はさ」


三浦が口を開いた。


「今は、

 “起きないようにする側”なんだ」


その言葉に、

鷹宮は初めて、三浦の立場を正確に理解した。


防ぐ側。

管理する側。

例外を“例外のままに留める”側。


「大変そうだな」


皮肉ではなかった。


「大変だよ」


三浦は苦笑する。


「でもな、

 止めることも、

 設計の一部だと思ってる」


鷹宮は、その言葉を反芻した。

止めること。

抑制。

現状維持。


「それは設計じゃない」


鷹宮は言った。


「保守だ」


三浦は、反論しなかった。

その代わり、

ゆっくりと、しかし明確に言った。


「鷹宮。

 君が“問題”を見つけるたびに、

 誰かが“被害”になる」


その瞬間、

二人の間にあった大学院時代の時間が、

完全に断ち切られた。


「被害は、

 選択の副作用だ」


鷹宮は即座に返す。


「君も、同じだ」


三浦は唇を噛み、

それ以上は言わなかった。


別れ際、

彼は一度だけ振り返った。


「もし……」


言いかけて、やめる。


「いや、いい」


そう言って、

三浦は人の流れに紛れていった。


鷹宮は、その背中を見送りながら思う。


――彼は、

 止める側に回ったのではない。


――最初から、

 止める役として必要とされる人間だった。


立場は、

選ぶものではない。


ただ、

いつの間にか、

そこに立たされているだけだ。


そして国家は、

その配置を

決して間違えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ