名前は違う。だが、配置は同じだ
それは、
事件と呼ばれたものから
七年後のことだった。
誰も、
鷹宮の名を
口にしなくなって
久しい。
記録は
整理され、
検索性は
意図的に落とされた。
彼の思想は、
極端で、
異常で、
過去のもの。
――そういう
扱いになった。
東京の湾岸部。
再開発された
ガラス張りの会議室で、
非公開の勉強会が
開かれていた。
議題は、
危機管理。
国家安全。
技術流出。
どれも、
合法だ。
発表者は、
三十代後半。
肩書きは、
民間研究機関
安全保障アドバイザー
穏やかな口調。
論理的。
極端な言葉は
一切使わない。
彼は、
こう言った。
「重要なのは、
誰が決断するか、ではありません」
「決断が
“自然に”
行われる配置を
どう作るかです」
誰も、
異を唱えない。
会議後、
一人の企業幹部が
彼に声をかける。
「君の考え方は、
現実的だ」
「思想がないのが、
いい」
彼は、
軽く笑う。
「思想は、
誤解を生みますから」
それは、
本心だった。
別の場所。
地方紙の
片隅で、
小さな連載が
始まっていた。
タイトルは地味だ。
「判断は、
誰が行ったのか」
記者名は、
ペンネーム。
記事は、
炎上しない。
拡散も、
されない。
だが、
消されもしない。
それが、
彼女の選んだ
戦い方だった。
さらに別の場所。
官庁の
人事データベースに、
一つの項目が
更新される。
想定外要素
対応指針:
早期分散
名前はない。
ただ、
過去の事例として
リンクが貼られている。
クリックすると、
旧事件の
整理された概要が
表示される。
主犯:単独
動機:過激思想
影響:限定的
そこに、
構造という言葉は
ない。
夜。
かつて
誰かが
「使命」だと
呼んだものは、
今は
どこにも
存在しない。
だが――
決断しない会議
利用される確信
責任を持たない支援
そして、
一人に集約される
“覚悟”
それらは、
すべて
揃っている。
最後に、
視点は
戻る。
名もない
研究者が、
深夜の研究室で
一人、
モニターを見ている。
彼は、
まだ
何も
決めていない。
ただ、
資料の端に
こう書き込む。
最終判断は、
個人が
引き受ける必要がある
その一文は、
誰にも
読まれない。
だが、
誰も
消さない。
世界は、
静かだ。
勝者はいない。
敗者もいない。
構造だけが、
次の名前を
待っている。




