敵は、顔を持っていなかった
三人は、
同じ事実に
別々の場所で辿り着いた。
それが、
最も残酷だった。
鷹宮
彼は、
自分のノートを
読み返していた。
そこには、
敵の名前が
いくつも書かれている。
国家。
左派。
外国。
裏切り者。
だが、
今はどれも
現実感を失っていた。
――違う。
彼は、
ペンを取る。
敵は、
判断を
“誰もしない”
という状態そのもの
その一文を書いた瞬間、
胸の奥で
何かがほどけた。
自分は、
国家と戦っていたのではない。
自分を利用した
企業と戦っていたのでもない。
誰も「決めない」ことで
すべてを進める仕組み。
それが、
彼の正体だった。
三浦
彼は、
内部資料の
最後のページを見ていた。
そこには、
意思決定者の
名前がない。
あるのは、
合意形成
総合的判断
想定内リスク
という言葉だけ。
三浦は、
理解した。
――敵は、
意図を
持っていない。
だから、
責任も
持たない。
止めようとした瞬間、
「誰が止めるのか」という問いが
宙に浮く。
それが、
この仕組みの
最強の防御だった。
相沢
彼女は、
書けない原稿を
削除した。
代わりに、
一文だけ
メモ帳に残す。
問題は、
誰かが悪いことではない
誰も
良いと
言っていないことだ
それが、
彼女に書ける
限界だった。
だが、
同時に
核心でもあった。
鷹宮は、敵ではない
三浦も、敵ではない
支援企業ですら、
単独では敵にならない
敵は、
“合理的であること”を
免罪符にした
連鎖。
誰もが
「自分が決めたわけではない」と
言える構造。
その中で、
最も危険なのは、
強い思想ではない。
思想を
最後まで
引き受ける人間が
存在すること。
だから、
鷹宮が選ばれた。
だから、
三浦は切られた。
だから、
相沢は書けない。
止めるべきなのは、
計画ではない
“責任を引き受ける人間が
現れる構造”そのものだ
この瞬間から、
「誰も責任を取らない世界で、
どうやって
一人に責任を集中させないか」
その戦いになる。




