翼のない天使
本を持って、ただ、廊下を歩く。
笑い声が聞こえる。ヒソヒソ声が聞こえる。僕のことを見ている。
あぁ、みんなの笑う顔が見えなくなるように眼球を取り去ってしまいたい。声が聞こえなくなるように鼓膜を破ってしまいたい。痛みが無くなるように痛覚を無くしてしまいたい。何も感じないように心を捨て去ってしまいたい。
なんで、神は居るのにヒーローは居ないんだろう。誰にも優しい物語の主人公は居ないんだろう。
僕は、天使なのに、なんでみんなのような翼がないんだろう。
ただ、翼が無かった。それだけだった。
「うっわぁ、天使モドキだ!逃げろ!」
最初はただ、避けられるだけだった。
「天使モドキ!てめぇ、何俺らと同じ立場に居んだよ!這いつくばってろっ!」
頭を踏みつけられた。ただ、それだけ。それだけだった。
「こいつが!こいつがやったんだ!天使モドキが!」
盗みを擦り付けられて、鞭で打たれた。それだけ、それだけ?
「お前は、クズでゴミなんだからゴミ捨て場がお似合いだ!」
ゴミに頭を突っ込まれて、南京錠でゴミ捨て場に閉じ込められた。もう、いいかな?
「はははっ!狩りだ!天使モドキを狩るぞ!」
裸で野原に投げられて、魔法やら槍やらで追いかけ回された。もう、いいよね。
僕は飛んだ。産まれて始めて。風が心地良かった。死ななかった。一応、僕は天使みたいだ。
苦しみを消したかった。だから、僕は本を読んだ。心を隠すために。
僕は魔法を使えなかった。授業に出られなかったから。出ても、いじめられるだけ。
やっと、やっと、心を隠せる魔法ができた。使えるようになった。無駄じゃなかった。
何重にも、何重にも、心に鎖をまいて、鍵をつけた。隠して、隠して、隠して。
僕の心は隠された。




