第5話 交易都市オルフェンへの道
陽介とアイリスはFランクからDランクに昇格し、少しずつ冒険者として認められはじめていた。
だが、彼らの前に立ちはだかるのはさらなる挑戦。次なる舞台は交易都市オルフェン――。
商隊護衛という危険な依頼に臨む二人の前に、懐かしい人物との再会や新たな仲間との出会いが待っていた。
ツンデレ全開のアイリスと、まだ不安を抱える陽介の掛け合いに注目してください。
FランクからDランクへ昇格した陽介とアイリス。
だが二人は浮かれることなく、これまで通り薬草採取の依頼を淡々とこなしていた。
「えっと、この草がそうだっけ……」陽介はしゃがみ込み、似たような草を指差す。
「……はぁ。ほんっとにアンタってポンコツね」アイリスは腰に手を当て、猫耳をぴんと立てる。
「そっちは毒草。採ったら依頼失敗。いいかげんに覚えなさいよ」
「まじか……全然違いがわからん」
「ギザギザの形をちゃんと見なさいって言ってるでしょ。……まったく、私がいなかったら一瞬で死んでるわ」
ツンと顔をそむけるが、尻尾は左右に揺れ、楽しそうにも見える。
「さすがアイリスだ。ほんと助かる」陽介が笑って礼を言うと、アイリスの頬が一気に染まった。
「~~っ! べ、別にアンタが死ぬと私が不便だから言ってるだけなんだから!」
そんなやり取りの最中、茂みから黒い影が飛び出した。狼型の魔物が牙を剥いて飛びかかる。
「やばっ……!」陽介が後ずさる。
「後ろ足の付け根! そこが弱点!」アイリスが叫ぶ。
陽介は震える手でナイフを握り直し、渾身の力で突き立てた。魔物は悲鳴を上げ、動かなくなる。
「……倒せた……」肩で息をしながら陽介。「相変わらず慣れないな」
「ふん。私がいなかったら食べられてたわね」
「ほんと、ありがとう。アイリスが一緒で良かったよ」
「っっっ……! そ、そんなこと言われても嬉しくなんかないんだから!」耳も尻尾も暴れ、顔は真っ赤だ。
街へ戻り、依頼を報告した二人は掲示板を眺めた。
そこには「交易都市オルフェンまでの商隊護衛依頼」と書かれた紙。報酬は破格、Dランク以上限定。
「オルフェンか……4日かかるんだよな」陽介が呟く。
「危険度は高い。でも成長するチャンスよ」アイリスの瞳が真剣に光る。
「……俺たちでも務まるかな」
「当たり前でしょ! 私がついてるんだから!」胸を張るアイリス。その強がりに、陽介は思わず微笑む。
翌日、商隊の集結地点には数組の冒険者パーティが集まっていた。重装の戦士、弓使い、魔法使い……。その中に見慣れた顔――フィオラがいた。
「あら、あんたたちも来たのね」
「フィオラさん!」陽介が笑顔で駆け寄る。
「へぇ……ほんとにDランクになったのね。やるじゃない」
「もちろん。全部私のおかげ!」アイリスが胸を張る。
「はいはい、可愛いけど調子に乗らないの」フィオラが肩をすくめる。
「な、なっ……!」耳を真っ赤にしてツンと顔を背けるアイリス。周囲の冒険者が笑い声を上げた。
その夜、市場の外れの食堂で、食事をする陽介とアイリス。
出されたスープを食べ、煙と香草の匂いが漂う。陽介は小声で呟いた。
「なあ……ちょっと怖いんだ。Cランクの魔物であんなにギリギリだったのに、オルフェンの道でそれ以上が出たらと思うと……」
アイリスは彼を見つめ、真剣な眼差しで言った。
「……大丈夫よ。私が全部調べて、全部教えてあげる。だから、信じなさい」
「アイリス……」
「……な、なによ」
「ありがとう。君がいてくれてホント良かったよ」
「っ! ば、馬鹿! そ、そんなの当たり前でしょ!」耳がぴんと立ち、尻尾がばたばたと動く。
他の冒険者が「お前ら新婚か?」と茶化すと、陽介は慌てて手を振った。
「ち、違います!」
「ちょっと! 誰がコイツの嫁よ!」
周囲はどっと笑い、酒場の夜は和やかに過ぎていった。
月が高く昇り、夜風が吹く。陽介とアイリスは寝床に並んで横になった。
「なあ……」陽介がつぶやく。
「……ん?」アイリスが目を細める。
「俺、ここでちゃんとやっていけるかな」
「大丈夫よ。私がそばにいるんだから」
アイリスはそっと背を向けたが、尻尾は小さく揺れていた。
こうして二人は、交易都市オルフェンを目指して歩みを進める。
アルデンを旅立つ最後の夜は、不安を抱えながらも、確かな絆を強めていった。
今回は「交易都市オルフェン」への出発を前にした準備と心情の回でした。
アイリスのツンデレぶりもますます加速し、周囲の冒険者たちとの距離も少しずつ縮まってきましたね。
次回はいよいよ商隊と共に街道を進むことに――。
襲い来る魔物や盗賊、そして新たな試練が二人を待っています。どうぞお楽しみに!