第49話 夜、そして休息
街の一日は、静かに終わっていく。
討伐の翌日。特別な予定はなく、急ぐ理由もない。
食事をして、装備を整え、明日に備えて眠る。
冒険者にとって、それは何度も繰り返してきた、ごく普通の夜だった。
日が落ちると、街の喧騒はゆっくりと静まっていった。
市場の呼び声は消え、通りを歩く人の姿もまばらになる。
宿の一階では、夕食の支度が整っていた。
木のテーブルに並ぶ料理から、湯気が立ち上る。
「今日はここまでだな」
ガルドが席につきながら言う。
「明日からは通常に戻れますね」
フィオラが応じる。
「しばらくは近場の依頼でしょうし」
「無理はしない」
ガルドは短く言って、杯を手に取った。
陽介とアイリスも席につく。
料理は素朴だが、落ち着く味だった。
「明日はどうする?」
陽介が何気なく聞く。
「ギルドに顔出すくらいじゃない?」
アイリスが答える。
「依頼、いくつか溜まってるでしょ」
「ですね」
「変なのは受けない。それだけ」
それ以上、話は広がらなかった。
予定を詰めるほどのこともない夜だった。
◆
食事を終え、各自が部屋へ戻る。
廊下は静かで、足音だけが小さく響いていた。
「今日はもう休もう」
ガルドが言う。
「明日は朝から動けるようにな」
「了解」
フィオラが頷く。
陽介が立ち止まり、振り返る。
「おやすみなさい」
「はいはい」
アイリスが軽く手を振る。
そして、いつもの調子で言った。
「……ちゃんと、明日も起きなさいよ」
「大丈夫ですよ」
陽介は気にも留めず、そう返した。
それぞれの扉が閉まり、宿はさらに静かになる。
◆
部屋に入った陽介は、装備を外し、弓を壁に立てかけた。
弦を緩め、矢筒の中身を軽く確認する。
「明日でいいか」
小さく呟き、椅子に腰を下ろす。
体に残る疲れは、心地よい程度だった。
窓の外から、街の夜の音が聞こえる。
遠くで誰かが笑い、どこかで扉が閉まる。
どれも、聞き慣れた音だった。
◆
布団に横になると、自然と呼吸が整っていく。
考え事をするほどのこともない。
索敵の声が聞こえない夜。
指示も、戦闘もない。
「……静かだな」
そう思いながら、目を閉じる。
明日も、いつも通りの朝が来る。
そう思いながら、眠りについた。
◆
隣の部屋の灯りが消える。
宿全体が、夜に包まれていく。
何にも変わることもなく。
いつもの朝を迎えるだけの夜だった。
第49話は、何も起きない夜を描きました。
食事をして、少し話をして、休む。
それだけの一日です。
そして翌朝を迎えます。




