第48話 街の午後
合同討伐を終えた翌日。
街はいつも通り動いていた。
特別な依頼もなく、急ぐ用事もない。
装備の手入れ、買い物、食事。
冒険者にとって、こうした何も起きない時間もまた大切な日常だった。
陽介とアイリスは、久しぶりに街を歩くことにする。
昼前の街は、人通りが多かった。
市場からは威勢のいい呼び声が響き、焼き物や香辛料の匂いが風に乗って流れてくる。
「人、多いですね」
陽介が周囲を見回しながら言った。
「討伐が終わった翌日なんて、こんなものよ」
アイリスは腕を組み、平然と答える。
「商人も冒険者も、動き出すのが早いんだから」
二人は市場の一角で立ち止まった。
露店には食料や道具、装飾品まで並んでいる。
「矢、そろそろ補充しないと」
陽介が言う。
「そうね」
アイリスは矢束を手に取り、軽く確認する。
「……質は悪くない。これでいいんじゃない?」
「助かります」
「当たり前でしょ。使うのはアンタなんだから」
やり取りは自然で、迷いもない。
以前なら、こんな会話すらぎこちなかったことを、陽介はふと思い出した。
◆
買い物を終えたあと、二人は通り沿いの食堂に入った。
昼時で混み合っていたが、運よく空いている席があった。
「今日は何にする?」
アイリスがメニューを覗き込む。
「肉……かな」
「昨日も肉だったでしょ」
「討伐の後だからいいんです」
「まったく……」
そう言いながら、アイリスも同じものを頼んだ。
料理が運ばれてくるまでの間、二人は何気ない話を続ける。
「弓、だいぶ慣れてきたわね」
アイリスが言う。
「連射の間隔、前より安定してる」
「そうですか?」
「ええ。索敵してて、無駄な動きが減ったのがわかる」
「それなら、よかった」
陽介は素直に頷いた。
料理が届くと、会話は自然と止まり、食事に集中する。
熱々の皿と、賑やかな店内。
それだけで、十分だった。
◆
食後、二人は街をもう少し歩いた。
雑貨屋を覗き、鍛冶屋の前で足を止める。
「次、何か依頼受ける?」
陽介が何気なく聞く。
「どうせ近場でしょ」
アイリスは即答する。
「遠出はしばらくいいわ」
「ですよね」
「討伐続きだったし、休みも必要」
言葉に含みはない。
ただ、予定の話をしているだけだった。
◆
午後も遅くなり、日差しが少し柔らいだ頃。
二人は宿の前まで戻ってきた。
「今日はこのまま休みだな」
陽介が言う。
「そうね」
アイリスは軽く伸びをする。
「矢の手入れ、後でやっときなさいよ」
「はいはい」
「はいは一回でいい」
いつものやり取り。
変わらない距離感。
街の音が、ゆっくりと夕方へ向かっていく。
今日も、ただの一日だった。
第48話は、討伐後の何も起きない一日を描きました。
買い物と食事、そして何気ない会話。
次回は、また新しい一日が始まります。




