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第43話 確かな背中

山を越え、森を抜け、目的の薬草を確保した一行は、帰路につく。

長い行程の終盤。

疲労はあるが、不安はない。


理由は明確だった。

索敵があり、前線があり、そして――弓がある。


これまで積み重ねてきたものが、形として現れる一日。

それはただ「できるようになった」という、当たり前の確認の時間だった。

帰路の朝は、静かだった。

 霧が低く流れ、木々の隙間から差し込む光が、地面にまだらな影を落としている。


「今日中には街に戻れるな」

 ガルドが前を見たまま言う。


「ええ。問題なければ夕方前には門が見えるはずです」

 フィオラが地図を畳んだ。


 アイリスはすでに周囲を探っている。

「……反応なし。気持ち悪いくらい静かね」


「平和ってやつだろ」

 陽介は弓を背負い直しながら応じた。


 この数日、矢筒の軽さが変わった。

 減る速度が早い。それは無駄撃ちが増えたからではない。

 必要な場面で、必要な数を使えるようになった証だった。



 街道に合流するまでの森は、油断できない場所だ。

 だが、今回は違った。


「右奥、距離三十。小型」

 アイリスの声が淡々と落ちる。


 陽介は即座に立ち止まり、弓を構えた。

 呼吸を整え、引き絞る。


 矢は音もなく放たれ、茂みの向こうで短い音を立てた。


「処理完了」

 アイリスが言う。


「……早いな」

 ガルドが感心したように鼻を鳴らす。

「前なら、ここで隊形を組み直してた」


「今は必要ありません」

 フィオラが頷く。

「索敵と後衛が機能している」


「頑張りますよ」

 陽介が軽く返す。


「……誰のおかげだと思ってるのよ」

 アイリスが即座に噛みつく。


「はいはい。アイリス様のおかげですよ」

「わかればよろしい」


 四人の間に、軽い笑いが落ちた。

 歩みは止まらない。



 昼前、もう一度だけ小さな群れと遭遇した。

 三体。街道を横切るように現れた魔物だ。


「左から来る」

 アイリスの声。


 言葉が終わる前に、陽介はすでに二射目を放っていた。

 一体が倒れ、残りが散開する。


「フィオラ」

「ええ」


 前線が一歩前に出る。

 だが、それは“時間稼ぎ”ではなかった。


 三射目。

 四射目。


 魔物は前線に触れる前にすべて倒れ伏した。


「……もう、壁いらないんじゃないか?」

 ガルドが冗談めかして言う。


「さすがにそれは困ります」

 フィオラが即答する。

「前に立つ人間がいなくなったら、後ろは不安になりますから」


「聞いたか、陽介」

「はい。調子に乗らないようにします」


 会話は軽く、歩調も変わらない。

 ただ一つ、確実に変わったものがあった。


 矢を放つ背中に、迷いがなかった。



 午後、街が見え始めた。

 石造りの外壁と、行き交う人影。


「帰ったら報告だな」

「報酬、楽しみですね」

「先に風呂」

「それ重要」


 いつものやり取り。

 何も変わらない。


 その中で、アイリスは一度だけ足を止めた。


 そして――

 何も言わなかった。

 代わりに、ほんの一瞬だけ、陽介の横顔を見た。


 風が斜面を抜け、木々を揺らす。

 次の瞬間、彼女はまた歩き出していた。



 街道を抜け、門が近づく。

 冒険は終わり、日常に戻る。


「いい仕事だったな」

 ガルドが言う。


「ええ」

 フィオラが頷く。


 陽介は弓に触れ、静かに息を吐いた。


 自分の足で立ち、

 自分の手で守り、

 自分の判断で進む。


 それが、できるようになった。

第43話は、薬草遠征の帰路を描きました。

森を抜け、街道へ戻り、いくつかの小さな遭遇を処理しながら街へ帰還します。


次回は、ギルドへの報告と報酬受け取り、そして次の依頼へ向けた準備に入ります。

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