表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/49

第40話 積み重なる判断

遠征は、派手な戦いだけで成り立つものではない。

むしろ大半は、歩き、考え、選び続ける時間だ。


どの道を通るか。

どこで休むか。

進むか、引くか。


小さな判断の積み重ねが、

結果を大きく左右する。


この日、四人はそのことを改めて実感することになる。

夜明けとともに、四人は簡単な朝食を済ませた。


 乾いたパンと干し肉。

 火を使わず、手早く終わらせる。


「今日は山道が多くなる」

 ガルドが地図を見ながら言う。

「足場が悪い場所も出てくる。無理はするな」


「了解」

 陽介は短く答え、弓の弦を確かめた。


 眠気は残っていない。

 遠征に入ってから、朝の動きが自然になっていた。



 街道は次第に細くなり、緩やかな上り坂へと変わる。

 左右には低木が増え、見通しは少しずつ悪くなっていった。


 アイリスが先頭で耳を動かす。

「……今のところ、魔物の反応はなし。でも――」


「でも?」

 フィオラが尋ねる。


「気配が“薄い”。完全にいないって感じじゃない」


 ガルドは足を止めた。

「潜んでる可能性は?」


「ある。でも、距離はあるわ」

 アイリスは少し考え、

「今すぐ危険ってほどじゃない」


 陽介は周囲を見渡し、口を開いた。

「進路を少し左に寄せましょう。岩場が多い。近づいてきたら、射線が取りやすい」


 一瞬、空気が静まる。


 フィオラが先に頷いた。

「いい判断ね」


 ガルドも異を唱えない。

「そうしよう」


 そのまま隊列が修正される。

 誰も説明を求めない。

 誰も疑わない。



 しばらく進んだところで、低い唸り声が聞こえた。


「来る」

 アイリスが即座に告げる。

「左前方。三体」


 陽介はすでに弓を構えていた。

「距離は?」


「中距離。まだ気づいてない」


「了解」


 矢をつがえ、深く息を吸う。

 一体目が姿を現す前に、矢が放たれた。


 続けて二射。

 三体目は物陰に隠れたが、フィオラが牽制に入り、動きを止める。


 そこへ、陽介の矢が追いついた。


「……終わりね」

 アイリスが確認する。


「静かだったな」

 ガルドが周囲を見渡す。


 陽介は弓を下ろしながら言った。

「さっき進路を変えたのが正解でした。視界が開けてた」


「そうね」

 フィオラが微笑む。

「判断が早かった」


 その言葉に、陽介は小さく息を吐いた。

 褒められたというより、

 “当然”として受け取られた感覚。



 昼過ぎ、最初の山を越える頃には、全員に疲労が見え始めていた。


「この先で休憩しよう」

 陽介が言う。

「風向きが安定してる。見通しもいい」


 アイリスが頷く。

「問題なし。周囲も静か」


 ガルドは少しだけ眉を上げたが、何も言わなかった。


 休憩中、フィオラが陽介の弓を見る。

「随分、無駄がなくなったわね」


「そうですか?」

「ええ。引くのも放つのも、迷いがない」


 アイリスがすぐに口を挟む。

「当たり前でしょ。私がちゃんと情報出してるんだから」


「はいはい」

 陽介は笑う。

「助かってます」


 そのやり取りを見て、ガルドは何も言わずに水を飲んだ。



 午後も移動は続く。

 二つ目の山影が、少しずつ近づいてきた。


 疲れはある。

 だが、不安はない。


 判断が積み重なり、

 行動が噛み合い、

 結果として進めている。


 陽介は、ふと気づいた。


 ――誰も、守ってくれている感覚がない。


 代わりにあるのは、

 “一緒に進んでいる”という実感だった。

第40話は、戦闘そのものよりも

「判断が積み重なっていく感覚」を重視した回です。


弓が主戦力として機能し、

陽介の判断が自然に受け入れられる。


誰かが指示を出すわけでもなく、

誰かが背中を押すわけでもない。


それでも前に進めている――

その事実が、この遠征の核心です。


次回は、山越えが本格化します。

環境の厳しさと、判断の重みが、さらに増していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ