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第38話 報告、そして一区切り

護衛任務は、帰還して初めて完了となる。

無事に街へ戻り、依頼主が報告を済ませ、

冒険者ギルドがそれを受理する。


それは華やかでも、劇的でもない。

だが、冒険者にとっては確かな区切りだ。


今回の仕事も、そうして終わりを迎える。

静かに、問題なく――

そして、確かな評価を残して。

街門を抜け、隊列が完全に解かれた頃には、

空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。


「じゃあ、ここで解散だな」

 ガルドが言う。


 商人たちは深く頭を下げた。

「本当に助かりました。安心して商売ができます」


「無事に着いたなら、それで十分です」

 フィオラが応じる。


 特別な言葉は交わされない。

 護衛任務としては、それが何よりの成功だった。



 冒険者ギルドは、夕方でも人が多かった。

 報告待ちの冒険者、酒を飲む者、依頼を探す者。


 カウンターに立つ受付嬢が、ガルドを見て頷いた。

「商隊護衛の件ですね。報告をどうぞ」


「問題なし。往復とも異常なし」

 ガルドは簡潔に告げる。


「被害ゼロ。予定通りですか」

「そうだ」


 受付嬢は手早く書類を処理し、顔を上げた。

「評価は良好です。特に――」


 一瞬、視線が陽介に向いた。


「後衛の弓が安定していた、と報告がありますね」


 陽介は少しだけ驚いた。

「……俺ですか?」


「はい。前衛からも側面からも、

 “安心して動けた”というコメントが入っています」


 その言葉に、周囲の冒険者がちらりとこちらを見る。


「へぇ」

「弓、ちゃんと機能してたんだな」


 アイリスが小さく鼻を鳴らした。

「当然でしょ。私が索敵してるんだから」


「はいはい」

 陽介は苦笑する。



 報酬が支払われ、手続きはすべて完了した。


「これで一区切りだな」

 ガルドが言う。


「ええ」

 フィオラも頷く。

「いい仕事だったわ」


 その“いい”という一言に、

 以前のような含みや慰めはなかった。


 ただの事実として、そこにあった。



 ギルドを出ると、夜風が心地よかった。


「思ったより、あっさり終わったな」

 陽介が言う。


「護衛なんてそんなものよ」

 フィオラが笑う。

「何も起きないのが、一番」


「でも……」

 陽介は弓を背負い直す。

「ちゃんと役に立てた気がします」


 アイリスが一瞬、言葉に詰まる。


「……そりゃそうでしょ」

 少しだけそっぽを向きながら言った。

「当たってたし。判断も遅くなかったし」


「珍しく素直だな」

「なっ……今のは事実を言っただけ!」


 しっぽが揺れる。



 ガルドは二人を見て、軽く笑った。

「弓は、もう“補助”じゃねぇな」


 その言葉に、陽介は目を瞬かせた。


「主戦力だ」

 ガルドは続ける。

「少なくとも、この編成ではな」


 陽介は、ゆっくりと頷いた。

「……はい」


 胸の奥で、何かが落ち着いた感覚があった。


 焦りでも、興奮でもない。

 ただ、“ここに立っていい”という実感。



 街の灯りが、足元を照らす。


「次はどうする?」

 フィオラが尋ねる。


「しばらくは、通常依頼だ」

 ガルドが答える。

「だが――」


 一瞬、言葉を切る。


「大きな仕事が来る可能性はある。

 最近、各地で動きがあるらしい」


 陽介は、その言葉を深く考えなかった。

 今はまだ、必要ない。


「その時は、その時ですね」

 そう答えると、ガルドは満足そうに笑った。


「そうだな」


 四人は、それぞれの帰路につく。


 今日という一日は、

 何事もなく終わった。


 それが、何よりだった。

第38話で、商隊護衛編は一区切りです。

事件はなく、戦闘もなく、

ただ「仕事として成功した」回になっています。


この“何も起きなかった成功”が、

次の展開への強固な土台になります。


次回からは新しい流れへ。

少しずつ、世界の方から動いてきます。

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