第38話 報告、そして一区切り
護衛任務は、帰還して初めて完了となる。
無事に街へ戻り、依頼主が報告を済ませ、
冒険者ギルドがそれを受理する。
それは華やかでも、劇的でもない。
だが、冒険者にとっては確かな区切りだ。
今回の仕事も、そうして終わりを迎える。
静かに、問題なく――
そして、確かな評価を残して。
街門を抜け、隊列が完全に解かれた頃には、
空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
「じゃあ、ここで解散だな」
ガルドが言う。
商人たちは深く頭を下げた。
「本当に助かりました。安心して商売ができます」
「無事に着いたなら、それで十分です」
フィオラが応じる。
特別な言葉は交わされない。
護衛任務としては、それが何よりの成功だった。
◆
冒険者ギルドは、夕方でも人が多かった。
報告待ちの冒険者、酒を飲む者、依頼を探す者。
カウンターに立つ受付嬢が、ガルドを見て頷いた。
「商隊護衛の件ですね。報告をどうぞ」
「問題なし。往復とも異常なし」
ガルドは簡潔に告げる。
「被害ゼロ。予定通りですか」
「そうだ」
受付嬢は手早く書類を処理し、顔を上げた。
「評価は良好です。特に――」
一瞬、視線が陽介に向いた。
「後衛の弓が安定していた、と報告がありますね」
陽介は少しだけ驚いた。
「……俺ですか?」
「はい。前衛からも側面からも、
“安心して動けた”というコメントが入っています」
その言葉に、周囲の冒険者がちらりとこちらを見る。
「へぇ」
「弓、ちゃんと機能してたんだな」
アイリスが小さく鼻を鳴らした。
「当然でしょ。私が索敵してるんだから」
「はいはい」
陽介は苦笑する。
◆
報酬が支払われ、手続きはすべて完了した。
「これで一区切りだな」
ガルドが言う。
「ええ」
フィオラも頷く。
「いい仕事だったわ」
その“いい”という一言に、
以前のような含みや慰めはなかった。
ただの事実として、そこにあった。
◆
ギルドを出ると、夜風が心地よかった。
「思ったより、あっさり終わったな」
陽介が言う。
「護衛なんてそんなものよ」
フィオラが笑う。
「何も起きないのが、一番」
「でも……」
陽介は弓を背負い直す。
「ちゃんと役に立てた気がします」
アイリスが一瞬、言葉に詰まる。
「……そりゃそうでしょ」
少しだけそっぽを向きながら言った。
「当たってたし。判断も遅くなかったし」
「珍しく素直だな」
「なっ……今のは事実を言っただけ!」
しっぽが揺れる。
◆
ガルドは二人を見て、軽く笑った。
「弓は、もう“補助”じゃねぇな」
その言葉に、陽介は目を瞬かせた。
「主戦力だ」
ガルドは続ける。
「少なくとも、この編成ではな」
陽介は、ゆっくりと頷いた。
「……はい」
胸の奥で、何かが落ち着いた感覚があった。
焦りでも、興奮でもない。
ただ、“ここに立っていい”という実感。
◆
街の灯りが、足元を照らす。
「次はどうする?」
フィオラが尋ねる。
「しばらくは、通常依頼だ」
ガルドが答える。
「だが――」
一瞬、言葉を切る。
「大きな仕事が来る可能性はある。
最近、各地で動きがあるらしい」
陽介は、その言葉を深く考えなかった。
今はまだ、必要ない。
「その時は、その時ですね」
そう答えると、ガルドは満足そうに笑った。
「そうだな」
四人は、それぞれの帰路につく。
今日という一日は、
何事もなく終わった。
それが、何よりだった。
第38話で、商隊護衛編は一区切りです。
事件はなく、戦闘もなく、
ただ「仕事として成功した」回になっています。
この“何も起きなかった成功”が、
次の展開への強固な土台になります。
次回からは新しい流れへ。
少しずつ、世界の方から動いてきます。




