第36話 無事到着、そして評価
街道の護衛は、特別な事件もなく進んでいく。
小さな小競り合いはあったものの、大きな被害はなく、隊列は崩れない。
そして、目的地はすぐそこだ。
依頼の成否が決まるのは、戦いの最中だけではない。
無事に到着し、荷を届ける――それこそが護衛の仕事の本質だった。
この日、四人は改めてそれを実感することになる。
夕方が近づく頃、前方に街の外壁が見えてきた。
石造りの門と、行き交う人々の姿が、長い街道の終わりを告げている。
「見えてきましたね」
商隊の責任者が、ほっとした声を漏らした。
「予定より早い」
ガルドが頷く。
「この分なら、問題なく入れるな」
隊列に、目に見えて安堵が広がる。
馬車の進みも、わずかに軽くなったように感じられた。
◆
街門の前で、護衛隊は一度足を止めた。
入城の手続きと、簡単な確認。
「合同護衛です」
前衛パーティのリーダーが門兵に告げる。
「問題ありません」
門兵は頷き、視線を隊列に巡らせた。
「……ずいぶん整った編成ですね」
「いつもこうだと助かるんだがな」
ガルドが小さく笑う。
門をくぐると、街の喧騒が一気に戻ってきた。
商人の呼び声、荷を運ぶ音、夕食の匂い。
「やっぱり街はいいな」
誰かが呟く。
◆
商隊は指定された倉庫へと向かい、荷下ろしを始めた。
護衛隊は周囲を固め、最後まで気を抜かない。
「問題なし」
アイリスが小さく言う。
「追尾の気配もないわ」
「了解」
陽介は弓を下ろし、肩の力を抜いた。
荷下ろしが終わると、商隊の責任者が深く頭を下げた。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
「仕事ですから」
フィオラが穏やかに応じる。
「それにしても……」
責任者は、ちらりと陽介を見る。
「後ろの弓手さん、ずいぶん安定してましたね」
「そうだな」
前衛の冒険者も頷く。
「距離を保ったまま処理できた。正直、かなり楽だった」
陽介は少し照れたように頭を掻いた。
「護衛向きの動きができただけです」
「それができるのが、価値だ」
ガルドが短く言った。
◆
しばらくして、他のパーティの冒険者たちも集まってきた。
「今回の護衛、スムーズだったな」
「無駄な消耗がなかった」
「後衛がよく見てた」
「弓の判断が早かったな」
口々にそんな言葉が交わされる。
陽介は、自分が話題の中心になることに、まだ慣れていなかった。
「……ありがとうございます」
「気にするな」
フィオラが小さく笑う。
「評価されるのは、悪いことじゃない」
アイリスは腕を組み、得意げに言った。
「当然よ。私がちゃんと索敵してたんだから」
「はいはい」
陽介は苦笑する。
だが、ふと気づく。
評価の言葉の多くが、弓に向けられていることに。
(……前は、索敵ありきだったのに)
その考えは、すぐに打ち消した。
今は、順調に仕事が終わった。それでいい。
◆
夜。
護衛隊はそれぞれ宿を取ることになった。
「明日は帰路だな」
ガルドが言う。
「帰りも合同で動くんですか?」
陽介が尋ねる。
「ああ」
ガルドは頷く。
「このままの編成で戻る」
「問題なさそうですね」
フィオラが言う。
「ええ」
アイリスも短く答える。
「この道なら、心配はいらない」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
宿の窓から見える街の灯りは、穏やかだった。
今日もまた、無事に一日が終わる。
それは、冒険者にとって何よりの成果だった。
第36話では、合同護衛隊が無事に目的地へ到着し、仕事を終える様子を描きました。
大きな事件は起きていませんが、外からの評価が少しずつ変わり始めています。
まだ主戦力ではありません。
けれど、弓という役割が確かに認識されつつあります。
次回は帰路。
行きよりも自然に噛み合った連携が描かれていきます。




