第35話 街道の小競り合い
合同護衛隊は、順調に街道を進んでいた。
大人数での移動は安心感があり、商人たちの表情にも余裕が見える。
だが、護衛という仕事に「完全な安全」はない。
ほんの小さな異変、ほんの一瞬の判断。
それが、冒険者の価値を浮き彫りにすることもある。
この日の出来事は、ささやかな小競り合いに過ぎない。
けれど確かに、役割の輪郭をはっきりと描き出していった
合同護衛隊は、昼を少し過ぎた頃、緩やかな丘陵地帯に差し掛かっていた。
街道は見通しがよく、両脇には低い草原が広がっている。
「この辺りは、盗賊が出るって話もあったな」
側面を担当するパーティの一人が、周囲を見回しながら言った。
「最近は大人しいはずだ」
ガルドが応じる。
「だが、警戒は怠るな」
隊列は自然と速度を落とし、各所が周囲に注意を向ける。
陽介は後方のやや高い位置から、弓を構えずに視線だけを巡らせていた。
(見通しは悪くない……でも、油断は禁物だ)
その時だった。
「……動き、あり」
アイリスが低い声で告げる。
「左前方、丘の向こう。人影……数は二、たぶん三」
すぐに情報が共有される。
「前衛、構えろ」
「側面、距離を保て」
緊張が走るが、混乱はない。
合同護衛隊としての動きが、すでに形になっていた。
◆
丘の影から姿を現したのは、粗末な装備の盗賊たちだった。
武器も揃っておらず、数も多くない。
「商隊だ!」
「脅かしてやれば十分だ!」
声を上げて走り出すが、その動きはどこか軽い。
「……距離、まだある」
陽介は小さく呟き、弓を引いた。
「撃つか?」
ガルドが短く問う。
「はい」
返事と同時に、矢が放たれる。
風を切る音。
盗賊の足元に矢が突き刺さり、土が跳ねた。
「なっ……!?」
「弓だ!」
次の一射は、先頭を走っていた盗賊の肩をかすめる。
致命傷ではない。だが、十分すぎる警告だった。
「くそっ、後衛がいるぞ!」
「距離を取れ!」
動きが止まる。
◆
その隙を逃さず、前衛のパーティが一気に距離を詰めた。
「これ以上は無理だな」
「引け!」
盗賊たちは互いに叫び合い、散るように逃げていく。
追撃はしない。
それが、今回の護衛の方針だった。
「終わりだな」
フィオラが剣を収める。
「早かったな……」
前衛の冒険者が振り返り、陽介を見る。
「弓の判断が的確だった」
「距離を保てたのが大きい」
別の冒険者も頷く。
「無駄な消耗がなかった」
陽介は弓を下ろし、軽く頭を下げた。
「必要以上に近づかせないようにしただけです」
「それができるのが強みだ」
ガルドが言う。
「後衛がしっかりしてると、全体が楽になる」
その言葉に、周囲の冒険者たちが納得したように息をついた。
◆
商人の一人が、ほっとした表情で言う。
「いやぁ……一瞬で終わりましたね」
「これが合同護衛の強みだ」
フィオラが応じる。
「役割を守れば、無理な戦いをしなくて済む」
アイリスは周囲を確認しながら言った。
「もう追ってこない。完全に散ったわ」
「助かった」
側面の冒険者が礼を言う。
「索敵と弓が噛み合ってた」
「当然でしょ」
アイリスは腕を組む。
「私の情報があるから、あの距離で撃てたんだから」
「はいはい」
陽介は小さく笑った。
◆
隊列は再び動き出す。
誰かが言った。
「後ろに、ああいう弓がいると安心だな」
その言葉は、特別な称賛ではない。
だが、確かに役割として認識された証だった。
陽介は前を見据え、静かに歩き続けた。
弓は背中にあり、必要な時にだけ使われる。
(……これでいい)
戦わずに終わる。
危険を未然に潰す。
護衛の仕事として、これ以上はない形だった。
第35話では、街道での小さな小競り合いを描きました。
大きな戦闘ではありませんが、合同護衛隊としての連携と、弓の有効性がはっきりと示されています。
ここではまだ「主戦力」ではありません。
けれど、後衛として信頼される存在になり始めています。
次回は目的地への到着。
評価と安堵が、静かに積み重なっていきます。




