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第35話 街道の小競り合い

合同護衛隊は、順調に街道を進んでいた。

大人数での移動は安心感があり、商人たちの表情にも余裕が見える。


だが、護衛という仕事に「完全な安全」はない。

ほんの小さな異変、ほんの一瞬の判断。

それが、冒険者の価値を浮き彫りにすることもある。


この日の出来事は、ささやかな小競り合いに過ぎない。

けれど確かに、役割の輪郭をはっきりと描き出していった

合同護衛隊は、昼を少し過ぎた頃、緩やかな丘陵地帯に差し掛かっていた。

街道は見通しがよく、両脇には低い草原が広がっている。


「この辺りは、盗賊が出るって話もあったな」

 側面を担当するパーティの一人が、周囲を見回しながら言った。


「最近は大人しいはずだ」

 ガルドが応じる。

「だが、警戒は怠るな」


 隊列は自然と速度を落とし、各所が周囲に注意を向ける。

 陽介は後方のやや高い位置から、弓を構えずに視線だけを巡らせていた。


(見通しは悪くない……でも、油断は禁物だ)


 その時だった。


「……動き、あり」

 アイリスが低い声で告げる。

「左前方、丘の向こう。人影……数は二、たぶん三」


 すぐに情報が共有される。

「前衛、構えろ」

「側面、距離を保て」


 緊張が走るが、混乱はない。

 合同護衛隊としての動きが、すでに形になっていた。



 丘の影から姿を現したのは、粗末な装備の盗賊たちだった。

 武器も揃っておらず、数も多くない。


「商隊だ!」

「脅かしてやれば十分だ!」


 声を上げて走り出すが、その動きはどこか軽い。


「……距離、まだある」

 陽介は小さく呟き、弓を引いた。


「撃つか?」

 ガルドが短く問う。


「はい」

 返事と同時に、矢が放たれる。


 風を切る音。

 盗賊の足元に矢が突き刺さり、土が跳ねた。


「なっ……!?」

「弓だ!」


 次の一射は、先頭を走っていた盗賊の肩をかすめる。

 致命傷ではない。だが、十分すぎる警告だった。


「くそっ、後衛がいるぞ!」

「距離を取れ!」


 動きが止まる。



 その隙を逃さず、前衛のパーティが一気に距離を詰めた。

「これ以上は無理だな」

「引け!」


 盗賊たちは互いに叫び合い、散るように逃げていく。


 追撃はしない。

 それが、今回の護衛の方針だった。


「終わりだな」

 フィオラが剣を収める。


「早かったな……」

 前衛の冒険者が振り返り、陽介を見る。

「弓の判断が的確だった」


「距離を保てたのが大きい」

 別の冒険者も頷く。

「無駄な消耗がなかった」


 陽介は弓を下ろし、軽く頭を下げた。

「必要以上に近づかせないようにしただけです」


「それができるのが強みだ」

 ガルドが言う。

「後衛がしっかりしてると、全体が楽になる」


 その言葉に、周囲の冒険者たちが納得したように息をついた。



 商人の一人が、ほっとした表情で言う。

「いやぁ……一瞬で終わりましたね」


「これが合同護衛の強みだ」

 フィオラが応じる。

「役割を守れば、無理な戦いをしなくて済む」


 アイリスは周囲を確認しながら言った。

「もう追ってこない。完全に散ったわ」


「助かった」

 側面の冒険者が礼を言う。

「索敵と弓が噛み合ってた」


「当然でしょ」

 アイリスは腕を組む。

「私の情報があるから、あの距離で撃てたんだから」


「はいはい」

 陽介は小さく笑った。



 隊列は再び動き出す。

 誰かが言った。


「後ろに、ああいう弓がいると安心だな」


 その言葉は、特別な称賛ではない。

 だが、確かに役割として認識された証だった。


 陽介は前を見据え、静かに歩き続けた。

 弓は背中にあり、必要な時にだけ使われる。


(……これでいい)


 戦わずに終わる。

 危険を未然に潰す。


 護衛の仕事として、これ以上はない形だった。

第35話では、街道での小さな小競り合いを描きました。

大きな戦闘ではありませんが、合同護衛隊としての連携と、弓の有効性がはっきりと示されています。


ここではまだ「主戦力」ではありません。

けれど、後衛として信頼される存在になり始めています。


次回は目的地への到着。

評価と安堵が、静かに積み重なっていきます。

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