第34話 合同護衛隊、結成
今回の依頼は、少し規模が大きい。
遠方の街まで向かう商隊の護衛――それも一組ではなく、複数パーティによる合同任務だった。
特別な危険が予想されているわけではない。
だが荷の量が多く、距離も長い。
万全を期すための編成だ。
冒険者たちは集い、それぞれの役割を確認し、静かに旅立つ。
この時点では、誰もが思っていた。
――いつも通りの仕事になるだろう、と。
冒険者ギルドの広間は、朝からいつもより賑わっていた。
掲示板の前に人だかりができ、受付の声が飛び交っている。
「合同護衛依頼……?」
陽介は張り出された依頼書を見上げた。
「商隊の規模が大きい」
ガルドが腕を組み、内容を確認する。
「街道も長い。安全策としては妥当だな」
「三組編成、ですか」
フィオラが目を細める。
「前衛、側面、後衛をきっちり分ける形ね」
その横で、アイリスはすでに周囲を見回していた。
「ふーん……人、多いわね。索敵する側としては楽だけど」
「楽って言うな」
陽介が苦笑する。
「責任が分散する分、気は抜けないだろ」
「はいはい。わかってるわよ」
◆
集合時間になると、護衛に参加する冒険者たちが揃った。
三組、合計十数名。
前衛担当のパーティは、重装備の剣士と盾役が中心。
側面を固めるのは、機動力のある軽装の冒険者たち。
そして後衛――そこに、ガルドたちのパーティが配置された。
「後ろは任せた」
前衛のリーダー格の男が、ガルドに声をかける。
「ああ。問題ない」
ガルドは短く答えた。
自然と、陽介は後方の少し高い位置を歩くことになった。
視界が広く、弓を構えるのに都合がいい。
「配置、いい感じね」
フィオラが言う。
「全体がよく見える」
「だな」
ガルドが頷く。
「陽介、無理はするな。基本は警戒だ」
「はい」
アイリスは一歩前に出て、軽く息を整える。
「索敵、開始。今のところ異常なし」
その言葉に、隊列全体の緊張がほんの少し和らいだ。
◆
商隊が動き出す。
馬車の車輪が軋み、石畳を進んでいく。
道中は穏やかだった。
街道は整備され、見通しも悪くない。
「人数が多いと、安心感が違うな」
商人の一人が言う。
「その分、連携が大事だ」
ガルドが応じる。
「油断しなければ、問題は起きん」
陽介は周囲に目を配りながら、弓の位置を確認していた。
引き金に指をかけることはない。
だが、いつでも放てる。
(……こういう仕事が増えてきたな)
ふと、そんなことを思う。
単独ではなく、組織として動く仕事。
「陽介」
アイリスが小声で言った。
「前方、問題なし。側面も静か」
「了解」
それだけのやり取りで十分だった。
◆
昼前、小さな森を抜ける地点で、前方が一瞬ざわついた。
「――止まれ!」
前衛の合図で、隊列が止まる。
次の瞬間、低い唸り声が聞こえた。
茂みの奥、小型の魔物が数体。
「数は少ない」
アイリスが即座に言う。
「三……いや、四体」
「迎撃するほどじゃないな」
ガルドが判断する。
その時、陽介は弓を引いていた。
合図を待つまでもない距離。
矢が放たれ、魔物の一体が倒れる。
続けてもう一本。
「早いな」
前衛の冒険者が目を見開く。
残りは前衛が処理し、戦闘は一瞬で終わった。
「……助かった」
「弓、効いてるな」
小さな声が聞こえる。
陽介は弓を下ろし、深く息を吐いた。
「問題ありません」
「いい仕事だ」
ガルドが短く言った。
アイリスは腕を組み、得意げに鼻を鳴らす。
「でしょ? 私の索敵とセットなんだから」
「はいはい」
陽介は笑った。
◆
隊列は再び動き出す。
何事もなかったかのように。
合同護衛隊は、そのまま街道を進んでいった。
誰もが思っていた。
――この仕事は、順調に終わるだろう、と。
第34話では、合同護衛隊の結成と出発を描きました。
三組編成という体制の中で、役割が自然に分担されていきます。
まだ大きな事件は起きていません。
けれど、配置と連携の中で、少しずつ変化は始まっています。
次回は道中での護衛任務。
弓が活きる場面が、少しずつ増えていきます。
引き続き、お楽しみください。




