第32話 勝利の美酒
魔物の群れは止められ、村は守られた。
あとは帰るだけ――それだけのはずなのに、足取りは自然と軽くなる。
大きな依頼をやり遂げた後に待つのは、報告と休息。
そして、ささやかながら確かなご褒美。
勝利の余韻に身を委ねる夜が、やってきた。
村へ戻った討伐隊は、思った以上の歓迎を受けた。
避難していた住人たちが次々と戻り、冒険者たちに頭を下げる。
「本当に……ありがとうございました」
「皆さんが来てくれなかったら、どうなっていたか……」
村長は深々と礼をし、ガルドの手を強く握った。
「命の恩人です。どうか、今夜は村で休んでいってください」
「ありがたく受け取ろう」
ガルドは穏やかに答えた。
用意された料理は素朴だったが、温かかった。
焼き肉、煮込み、素焼きのパン。
そして、樽ごと運ばれてきた酒。
「おお……」
どこからともなく感嘆の声が上がる。
「遠慮はいりません!」
村長が声を張る。
「今日は祝いの日です!」
酒が注がれ、杯が掲げられる。
「村の無事と、討伐隊に!」
「乾杯!」
一斉に杯が打ち鳴らされ、賑やかな声が広がった。
◆
陽介は杯を手にしながら、少し照れたように笑っていた。
「……なんだか、すごいですね」
「当然でしょ」
アイリスが隣で腕を組む。
「これだけのことをやったんだから」
「陽介の弓も、だいぶ目立ってたぞ」
フィオラが言う。
「後衛が安定してると、前線は本当に助かる」
「ありがとうございます」
陽介は頭を掻いた。
「まだまだですけど……手応えはありました」
ガルドは酒を一口飲み、満足そうに頷く。
「いい経験になったな。こういう大規模戦を無事に終えられたのは、大きい」
「数が多くても、対応できるってわかったしね」
別の冒険者が言う。
「人数を集めて正解だったな」
誰かが続ける。
その言葉に、何人もの冒険者が同意した。
◆
陽介はふと、弓に視線を落とした。
傷もなく、弦も緩んでいない。
(……ちゃんと役に立った)
胸の奥に、静かな自信が広がる。
「何ニヤニヤしてるの?」
アイリスが覗き込んできた。
「いや……」
陽介は笑う。
「楽しいなって思って」
「……ばか」
アイリスはそっぽを向く。
「当たり前でしょ。勝ったんだから」
だが、そのしっぽは小さく揺れていた。
◆
夜が更けるにつれ、宴はますます賑やかになった。
笑い声、冗談、武勇伝。
誰もが疲れているはずなのに、不思議と眠気は来ない。
「明日には街に戻る」
ガルドが言う。
「報告を済ませたら、しばらくは落ち着けるな」
「こういう仕事が続くといいですね」
陽介が言う。
「ええ」
フィオラが微笑む。
「無事に帰って、酒が飲める。それが一番」
その言葉に、陽介は深く頷いた。
この夜は、ただ楽しくて。
不安も、緊張も、すべて酒と笑い声に溶けていく。
――勝利の美酒は、甘かった。
第32話は、完全な帰還回です。
戦いを終え、村を守り、無事に祝杯を上げる。
それだけの、穏やかで楽しい一夜。
大きな依頼を成功させたことで、
彼らの中には確かな自信が生まれました。
この余韻が、次にどうつながっていくのか――
引き続き、物語をお楽しみください。




