第30話 押し寄せる群れ
迎撃は順調に始まった。
先鋒の魔物はすでに押し返し、討伐隊の陣形も崩れていない。
だが、それはまだ序盤に過ぎない。
森の奥では、より大きな気配がうごめいていた。
本体が動き出す――その瞬間が、迫っていた。
先鋒を押し返した草地には、短い静寂が落ちた。
だがそれは、終わりを意味する沈黙ではない。
「……まだ来る」
アイリスが低く告げる。
森の縁が揺れ、枝が折れる音が重なっていく。
先ほどよりも明らかに、広い範囲で。
「数、増えてるな」
ガルドが前線を見渡す。
「後続か」
フィオラは剣を構え直した。
「……でも、想定内よね?」
「ああ」
ガルドは短く答える。
「数が多いだけだ。押し切れる」
その言葉を合図にしたかのように、魔物の群れが姿を現した。
一体、二体――数える暇はない。
森の奥から、次々と溢れ出してくる。
「来るぞ!」
「前線、押されるな!」
討伐隊が一斉に動く。
前衛が踏みとどまり、後衛が矢と魔法を放つ。
陽介は矢をつがえ、ひたすら狙い続けた。
一体倒せば、すぐ次。
狙いを切り替え、間を置かずに放つ。
ひゅん、ひゅん、と弦が鳴る。
(……当たってる)
矢は確実に命中し、魔物を倒していく。
以前よりも、無駄な動きが減っていた。
「いいぞ、後衛!」
どこかから声が飛ぶ。
フィオラは前線で剣を振るいながら叫んだ。
「数は多いけど、崩れてない!」
「このまま押し返すぞ!」
ガルドが吼える。
魔物の群れは波のようだった。
一度引いたかと思えば、また押し寄せてくる。
だが討伐隊の陣形は保たれ、前線は少しずつ前へ出ていた。
アイリスは周囲を見回しながら、淡々と状況を伝える。
「左、増えてる。……でも、大丈夫。前ほど密じゃない」
「了解!」
その声に応じて、別のパーティが動いた。
情報は共有され、戦場全体が連動している。
誰か一人の判断に頼る場面は、なかった。
(……人数が多いって、こういうことか)
陽介は弓を引きながら思う。
多少の誤差も、多少の遅れも、全体の流れに吸収されていく。
やがて、森の奥の揺れが少しずつ弱まっていった。
「……減ってきたな」
ガルドが呟く。
「ええ」
フィオラも息を整えながら頷く。
「この群れ、ここで終わりそう」
最後の数体が倒され、草地に静けさが戻る。
荒い息と、踏み荒らされた地面だけが残った。
「終わった……?」
陽介が小さく言う。
「いや」
ガルドはすぐに首を振った。
「警戒は解くな。だが――」
一拍置いて、続ける。
「大丈夫だ。押し切った」
その言葉に、討伐隊のあちこちから安堵の声が漏れた。
魔物の群れは止められた。
村の方角は、静かなままだった。
第30話では、魔物の群れ本体との交戦を描きました。
数は多く、波のように押し寄せましたが、討伐隊は崩れず、押し切っています。
判断は正しく、連携も機能している。
この時点では、誰も失敗を感じていません。
次回は、戦闘の終結と帰還。
この大きな依頼は、無事に終わる――はずです。




