第3話 初めての依頼とステータス
初めてギルドに登録した陽介とアイリス。
選んだのは「いかにも初心者らしい」依頼。
けど、ただの薬草採取のはずが、思わぬ試練が待っていた。
ギルドのカウンターで登録を終えた陽介とアイリスは、掲示板にずらりと並ぶ依頼書を見上げていた。魔物退治から護衛依頼、雑用まで、紙の山は圧倒的だ。
「うーん、いきなり討伐とかは無理だな……」陽介が独り言を漏らす。
「当たり前でしょ! アンタなんか今のままじゃ犬一匹にすら勝てないんだから」アイリスは腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らした。
「いや、そこまで言わなくても……」
「……ま、初心者なら薬草採取が一番マシよ。成功率82%。データ的にね」
「え、調べてくれたのか? ありが――」
「ち、ちがっ……ただのシミュレーションよ! アンタのためにしたんじゃないんだから!」
ぷいっと顔をそむけるが、猫耳はぴくぴく動いていた。
こうして二人の初依頼は薬草採取に決まった。
――森の中。
しゃがみ込んで草をかき分ける陽介は、額の汗を拭った。
「どれが薬草なんだ? 全部ただの雑草に見える……」
「まったく、ポンコツ。いい? 葉っぱの縁に細かいギザギザがあって、ちょっと色が薄いこれ! ほら、ちゃんと見なさいよ」
「おお、助かった!」
「……ふん、感謝していいんだからね!」アイリスは顔を赤らめ、尻尾をぱたぱた揺らす。
なんとか必要数を集めて帰ろうとしたその時、茂みから低いうなり声。
現れたのは、鋭い牙を持つ《ロックボア》。
「ま、まずい……! Fランクの俺たちじゃ太刀打ちできない……!」陽介は固まる。
「ビビってんじゃないわよ!やらなきゃ死ぬわよ。 弱点は首の後ろ! 急所を狙えば、アンタでもワンチャンあるわ!」
「ワンチャンって……いや、やるしかない!」
恐怖で震える手にナイフを握りしめ、陽介は飛び込んだ。牙が頬をかすめ、血がにじむ。必死に背後へ回り込み、教えられた通り首筋へ突き立てた。
獣が呻き声を上げ、地面に崩れ落ちる。
「……や、やった?」肩で息をする陽介。
「やったのよ! アンタ、すごいじゃない! ……って、ちょっとだけ褒めてあげるわ!」アイリスは思わず笑顔になり、すぐに真っ赤になって慌ててそっぽを向いた。
「そ、それに……おめでとう。レベルアップしたわよ!」
「レベル? ゲームみたいだな」
「ゲームじゃなく現実! ほら、見せてあげる。――ステータス表示!」アイリスが指を弾くと、光の板が空中に浮かぶ。
――――――――――――
名前:陽介
職業:冒険者
レベル:3
HP:35/35
MP:10/10
攻撃力:12
防御力:8
スキル:なし
称号:異世界の来訪者
――――――――――――
「すげえ……ほんとにゲームみたいだ」
「ふふん、私がサポートしてるから成長効率は1.8倍よ! ……すごいでしょ?」
「ありがとう、アイリス。おかげで助かったよ」
「なっ……ち、ちが……! あ、アンタが勝手に助かっただけでしょ! 私のせいじゃないんだから!」猫耳を真っ赤にしながらぶんぶん動かす。
そこへ討伐隊の一団が駆けつけてきた。先頭にはフィオラ。
「あんたたち、無事だったのね!よかった…… って、このロックボアを倒したの!?」
「えっと……アイリスが弱点を教えてくれて」陽介は正直に言う。
「ふ、ふん。そ、そうよ! 私がいなかったらアンタなんてとっくに餌よ!」アイリスは胸を張るが、耳は照れたように伏せていた。
「……Fランクでここまでやれるなんて、大したもんだ」フィオラが感心し、仲間の冒険者も頷いた。
こうして二人は街へと帰還する。
初めての依頼は波乱含みだったが、陽介にとって確かな一歩であり、アイリスにとっては――「役立てたのが嬉しい」と決して口に出せない、誇らしい瞬間だった。
無事に薬草を集め、さらには魔物も討伐できた陽介。
ゲームでありがちなステータス画面も出て、いよいよ異世界にいるんだと実感する。
ツンデレアイリスのサポートもあり、少しずつ前に進んでいく。
次回以降はギルドで新たな依頼が待ってます。