第29話 迎撃陣形
前書き
合同討伐隊は、村の手前へと急行した。
森から迫る魔物の群れ。数は不明、だが多いことだけは確か。
戦いはまだ始まっていない。
しかし、準備の良し悪しが結果を左右する。
迎え撃つための時間は、決して多くはなかった。
村の手前に広がる草地に、討伐隊は次々と集結していった。
複数のパーティが自然と隊列を作り、声が飛び交う。
「前衛は三列で展開!」
「後衛は射線を確保しろ!」
指示が重なり合いながらも、混乱はない。
経験を積んだ冒険者たちが、それぞれの役割を理解して動いていた。
ガルドは周囲を見渡しながら、短く指示を出す。
「前に出すぎるな。数が多い相手だ、包囲されるなよ」
「了解」
フィオラは剣を抜き、前線の位置を調整する。
「ここなら退路も確保できるわね」
陽介は後衛の一角で弓を構え、深く息を吸った。
これだけの人数で戦うのは初めてだが、不思議と不安はなかった。
(……大丈夫だ。ちゃんと、役割がある)
周囲には他の弓手や魔法使いもいる。
自分一人に背負わされているものは、何もない。
「緊張してる?」
横でアイリスが小声で言った。
「少し。でも……悪くない」
陽介は正直に答える。
「ふーん」
アイリスは軽く肩をすくめる。
「まあ、私もいるし。他にも索敵はいるし。余裕でしょ」
彼女は目を閉じ、意識を森へ向ける。
「……動きは続いてる。まだ森の縁だけど、広がってる感じね」
「広がってる?」
陽介が聞き返す。
「数が多いと、そうなるの」
アイリスは淡々と答えた。
「一箇所に固まってるわけじゃない」
それを聞いたガルドが頷く。
「想定通りだな。前線は押されすぎるなよ」
◆
やがて、森の奥からはっきりとした気配が伝わってきた。
枝が折れ、草が踏み荒らされる音が、連なって近づいてくる。
「来るぞ!」
誰かが叫ぶ。
最初に姿を現したのは、小型の魔物だった。
数体、十数体――すぐに数は曖昧になる。
「先鋒だ!」
「止めろ!」
前線が動き、魔物を受け止める。
陽介は矢をつがえ、狙いを定めた。
ひゅん、と音を立てて放たれた矢が、魔物の一体を貫く。
「よし……!」
「いい当たりよ」
後方からフィオラの声が飛ぶ。
続けて二射、三射。
狙いは安定していた。以前よりも、確実に当てられている。
「数は多いけど、崩れないわね」
アイリスが状況を確認する。
「この程度なら、問題ない」
ガルドは前線を見据えたまま言う。
「焦れるな。まだ本体じゃねぇ」
その言葉通り、森の奥はまだ騒がしかった。
だが討伐隊の陣形は崩れず、着実に数を減らしていく。
陽介は弓を引きながら、胸の奥で思う。
(……いける)
人数も、準備も、判断も、すべて揃っている。
この戦いは、制御できている。
森の向こうに、さらに影が揺れた。
だが、恐怖よりも先に浮かんだのは――確信だった。
(ここで止められる)
第29話は、迎撃戦の準備と先鋒との接触を描きました。
数は多いものの、討伐隊は冷静に対応し、陣形も崩れていません。
まだ、想定内。
まだ、制御できている戦いです。
次回は、群れ本体との本格的な交戦。
このまま、予定通りに進むのか――
続きをお楽しみください。




