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第26話 穏やかな護衛の一日

前書き


今回の依頼は、戦いではなく同行。

遠方の村へ向かう村長の護衛という、比較的穏やかな仕事だった。

街道は整備され、魔物の気配もほとんどない。


移動、会話、そして夕暮れ前の到着。

特別な出来事は起きないが、冒険者にとってはそれもまた大切な日常。

そんな一日を、四人は静かに過ごすことになる。

冒険者ギルドのカウンターで、陽介は依頼書を受け取った。


「遠方の村の村長の護衛……ですね」

「往復二日。今日は村まで、明日は帰りだな」

 ガルドが内容を確認する。


 カウンター越しに、白髪交じりの男性が軽く会釈した。

「わしが村長です。いやぁ、護衛がつくと聞いて安心しました」


「こちらこそ」

 フィオラが丁寧に応じる。

「街道は安全そうですが、念のためですね」


 アイリスはすでに周囲を見渡しながら言った。

「魔物の反応は……ほぼゼロ。ほんとに平和な道ね」


「たまにはこういう依頼もいい」

 ガルドが笑う。

「気を抜くな、とは言わんが、肩の力は抜いて行こう」



 街道は穏やかだった。

 石畳は続き、道の両脇には草原が広がる。遠くに森の影が見えるが、魔物の気配は感じられない。


 村長は歩きながら、懐かしそうに語り始めた。

「昔はこの道も危険でしてなぁ。今じゃ商人もよく通ります」


「整備が行き届いてますね」

 フィオラが頷く。


 陽介は弓の弦を確かめながら歩いていた。

「こういう仕事だと、弓を使う場面もほとんどないですね」


「本来はそれでいいのよ」

 フィオラが言う。

「護衛は“何も起きない”のが成功」


 アイリスは得意げに言った。

「私が索敵してるんだから、当然でしょ?」


「はいはい」

 陽介は苦笑する。

「安心感があります」


 その言葉に、アイリスは少しだけ胸を張った。



 昼を過ぎた頃、村が見えてきた。

 木造の家が点在し、畑が広がる小さな集落だった。


「おお、見えてきたな」

 村長が嬉しそうに言う。

「今日は早めに着けましたな」


 村に入ると、数人の子どもたちが興味深そうにこちらを見ていた。

「お兄ちゃん、それ弓?」

 一人が陽介に声をかける。


「そうだよ」

 陽介が答えると、子どもたちは目を輝かせた。


「すごーい!」

「冒険者だ!」


「……人気者ね」

 フィオラが小さく笑う。


 アイリスは腕を組んで言った。

「ふん、弓くらいで騒がないの。私なんて索敵専門よ?」


 誰も意味がわからず首を傾げていた。



 村長の家は、村の中央にある大きめの家だった。

「今夜はここに泊まってください。夕食も用意してますから」


「助かります」

 ガルドが頭を下げる。


 夕食は素朴だったが温かかった。

 煮込み料理と焼きたてのパン。長旅の疲れを癒すには十分だ。


「こういう夜も悪くないですね」

 陽介がぽつりと言う。


「護衛ってのは、本来こういうもんだ」

 ガルドが酒を一口飲む。

「戦わずに終わる。それが一番いい」


 フィオラも頷いた。

「毎回命がけじゃ、身が持たないもの」


 アイリスは黙々と食べながら言う。

「……静かで、変な反応もない。ほんと平和」


 その言葉に、誰も異を唱えなかった。



 夜。

 用意された客間で、陽介は布団に横になった。


「今日は……楽だったな」

 自然と、そう思えた。


 外は静かで、虫の声だけが聞こえる。

 緊張も、不安もない。


 ただ、よく眠れる夜だった。

第26話は、完全に「何も起きない回」です。

護衛は順調、道は安全、夜も穏やか。


こうした日常があるからこそ、冒険者は続けていけます。

そして、こうした夜があるからこそ――

後の出来事が、強く心に残るのです。


次回は、村から街への帰路。

引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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