第26話 穏やかな護衛の一日
前書き
今回の依頼は、戦いではなく同行。
遠方の村へ向かう村長の護衛という、比較的穏やかな仕事だった。
街道は整備され、魔物の気配もほとんどない。
移動、会話、そして夕暮れ前の到着。
特別な出来事は起きないが、冒険者にとってはそれもまた大切な日常。
そんな一日を、四人は静かに過ごすことになる。
冒険者ギルドのカウンターで、陽介は依頼書を受け取った。
「遠方の村の村長の護衛……ですね」
「往復二日。今日は村まで、明日は帰りだな」
ガルドが内容を確認する。
カウンター越しに、白髪交じりの男性が軽く会釈した。
「わしが村長です。いやぁ、護衛がつくと聞いて安心しました」
「こちらこそ」
フィオラが丁寧に応じる。
「街道は安全そうですが、念のためですね」
アイリスはすでに周囲を見渡しながら言った。
「魔物の反応は……ほぼゼロ。ほんとに平和な道ね」
「たまにはこういう依頼もいい」
ガルドが笑う。
「気を抜くな、とは言わんが、肩の力は抜いて行こう」
◆
街道は穏やかだった。
石畳は続き、道の両脇には草原が広がる。遠くに森の影が見えるが、魔物の気配は感じられない。
村長は歩きながら、懐かしそうに語り始めた。
「昔はこの道も危険でしてなぁ。今じゃ商人もよく通ります」
「整備が行き届いてますね」
フィオラが頷く。
陽介は弓の弦を確かめながら歩いていた。
「こういう仕事だと、弓を使う場面もほとんどないですね」
「本来はそれでいいのよ」
フィオラが言う。
「護衛は“何も起きない”のが成功」
アイリスは得意げに言った。
「私が索敵してるんだから、当然でしょ?」
「はいはい」
陽介は苦笑する。
「安心感があります」
その言葉に、アイリスは少しだけ胸を張った。
◆
昼を過ぎた頃、村が見えてきた。
木造の家が点在し、畑が広がる小さな集落だった。
「おお、見えてきたな」
村長が嬉しそうに言う。
「今日は早めに着けましたな」
村に入ると、数人の子どもたちが興味深そうにこちらを見ていた。
「お兄ちゃん、それ弓?」
一人が陽介に声をかける。
「そうだよ」
陽介が答えると、子どもたちは目を輝かせた。
「すごーい!」
「冒険者だ!」
「……人気者ね」
フィオラが小さく笑う。
アイリスは腕を組んで言った。
「ふん、弓くらいで騒がないの。私なんて索敵専門よ?」
誰も意味がわからず首を傾げていた。
◆
村長の家は、村の中央にある大きめの家だった。
「今夜はここに泊まってください。夕食も用意してますから」
「助かります」
ガルドが頭を下げる。
夕食は素朴だったが温かかった。
煮込み料理と焼きたてのパン。長旅の疲れを癒すには十分だ。
「こういう夜も悪くないですね」
陽介がぽつりと言う。
「護衛ってのは、本来こういうもんだ」
ガルドが酒を一口飲む。
「戦わずに終わる。それが一番いい」
フィオラも頷いた。
「毎回命がけじゃ、身が持たないもの」
アイリスは黙々と食べながら言う。
「……静かで、変な反応もない。ほんと平和」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
◆
夜。
用意された客間で、陽介は布団に横になった。
「今日は……楽だったな」
自然と、そう思えた。
外は静かで、虫の声だけが聞こえる。
緊張も、不安もない。
ただ、よく眠れる夜だった。
第26話は、完全に「何も起きない回」です。
護衛は順調、道は安全、夜も穏やか。
こうした日常があるからこそ、冒険者は続けていけます。
そして、こうした夜があるからこそ――
後の出来事が、強く心に残るのです。
次回は、村から街への帰路。
引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。




