第20話 新たな師匠
死闘の夜を越えた翌朝。
全身の痛みにうめく陽介を待っていたのは、アイリスの容赦ないツッコミと、ギルドでの仲間との再会だった。
そこで彼は決意する。このままでは仲間を守れない。生き残るには鍛えなければならない――と。
そして、新たな師弟関係が結ばれる瞬間が訪れる。
疲労の朝
陽介が目を覚ましたのは、すでに日が高く昇った頃だった。
宿の窓から差し込む光はやけに眩しく、全身のだるさを一層際立たせる。
身体を起こそうとした瞬間、全身を走る痛みに顔をしかめた。
「……いてててっ! 筋肉痛かよ……」
腕を軽く動かしても肩が重く、太ももに力を入れると鈍痛が響く。
昨日は必死で動いていたせいで気づかなかったが、いざ落ち着いてみれば、まるで全身が石になったような感覚だった。
「陽介、まさかそれくらいで悲鳴をあげてるの?」
ベッドの端に腰かけていたアイリスが、冷たい視線を送る。
「だ、だって体がまともに動かないんだよ!」
「ふん、鍛え方が足りないだけでしょ。あたしの解析によると、陽介の筋力指数は冒険者の平均以下よ。昨日の戦いで動けたのは、ただの必死の底力ってやつ」
痛いところを突かれ、陽介は苦笑した。
「……痛感してるよ。鍛えないとダメだな、これは」
「そうね」
素直に頷くアイリス。だが次の瞬間、ぷいっと顔を背けてしっぽをぶんっと振った。
「べ、別にアンタが強くなってもあたしは困らないけど……。でも、昨日みたいに無茶して倒れられたら――あ、あたしが寝不足になるでしょ!」
「それ完全に心配してるだろ」
「し、してないってば!」
顔を赤くしてわめく彼女に、陽介は思わず吹き出した。
こうして笑えること自体が、昨日までの恐怖を遠ざけてくれる気がした。
ギルドでの再会
体の重さを引きずりながら、陽介とアイリスはギルドへ向かった。
扉を開けると、朝のざわめきと共に酒と香辛料の匂いが漂ってくる。
中に入ると、包帯ぐるぐる巻きのガルドとフィオラが椅子に座っていた。
「おう、ずいぶんと遅かったじゃねぇか」
「すみません……寝坊しました」
陽介は頭を下げる。
ガルドは笑いながら片手を振った。
「気にすんな。昨日はお前たちもよくやった。特にあの挟み撃ちを凌いだのは大したもんだ」
「……無我夢中でしたよ。正直、生きてるのが不思議なくらいです」
陽介は拳を握り締め、真剣な眼差しで言った。
「改めてわかりました。この世界で生きていくには鍛えなきゃダメだって。剣も体力も、今のままじゃすぐ死ぬ」
フィオラが腕を組んでうなずく。
「その通りだな。あんた、昨日の目は死んだ魚みたいじゃなくなってた。覚悟が決まったんだろ」
「誰か、鍛えてくれる人は……」
そう言いかけた時、ガルドが身を乗り出した。
新たな師弟関係
「なら俺が教えてやろう」
「えっ……ガルドさんが?」
ガルドは片腕を吊りながらも、豪快に笑った。
「見ての通り、今の俺は戦場に出られる体じゃねぇ。だが、初心者に稽古をつけるくらいなら問題ないさ。むしろこの状態だからこそ、腰を据えて教えてやれる」
「い、いいんですか? 俺なんかに」
「お前なんかって言うな。昨日の働きで十分わかった。根性だけはある。それに、アイリスがそばにいるだろ? あの子の索敵があれば、戦場でも十分やっていけるはずだ。ならあとは技術を叩き込めばいい」
「……ありがとうございます! ぜひお願いします!」
深く頭を下げる陽介。その横でアイリスが腕を組んで呟いた。
「ふん、やっと自覚したのね。最初から鍛えなきゃって言ってたのに、聞かなかったのは誰かしら?」
「すみませんでしたー」
「べ、別にいいけど! ……でも、ちゃんとやりなさいよ。昨日みたいに私が泣きそうになるのは――もう嫌だから」
頬を赤らめ、しっぽを必死に隠すアイリスの姿に、陽介は思わず笑ってしまった。
訓練への決意
「よし、明日からギルドの訓練場に集合だ」
ガルドが力強く言い放つ。
「はい!」
陽介は全身の痛みを押して立ち上がり、拳を握った。
フィオラがにやりと笑って肩を叩く。
「アンタ、次に会うときは少しは“冒険者の顔”になってるといいね」
「やってみせます」
こうして陽介は、元Aクラス冒険者であり現護衛隊長ガルドを師として、本格的な鍛錬の日々へと踏み出すことになった。
その背中には、不安もある。だが確かに、今までとは違う確信があった。
――生き残るために。仲間を守るために。
陽介は痛みと情けなさを知り、同時に「強くなる必要」を心から理解した。
ガルドという師を得て、これからの日々は厳しくなるだろう。
だが、彼の横にはアイリスがいる。
泣きデレとツンデレを織り交ぜながら支えてくれる相棒と共に――陽介の冒険者としての成長は、ここから始まっていく。




