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第2話 街道の出会いと、はじめての服

異世界に実体化したAI少女・アイリス。

裸にパーカーという危うい姿で街道を歩く彼女と陽介は、偶然出会った冒険者フィオラに導かれ、街アルデンへと向かうことに。

初めての街、人との出会い、そして服を手に入れる大切な一歩。

猫耳ツンデレAIの“新しい日常”が始まろうとしていた。

 草原の風が吹き抜け、二人の足元に舞い上がった土埃が陽射しの中で踊った。

 陽介とアイリスは並んで街道を歩いていた。「……で、これからどうするの?」とアイリス。

「まずは街を探さないとな。食料もないし、服も……」と陽介は横目で彼女を見る。


上着をかけてあるとはいえ、足りない。猫耳美少女が草原を裸同然で歩いているのはどう考えても不自然だった。


その時――

「ねぇ、そこの二人!」

声をかけてきたのは、革の鎧を着けた一人の女性冒険者だった。腰には剣、背には弓。

日に焼けた肌と快活そうな笑顔、そして好奇心に満ちた瞳。


「……獣人の子? それにしては服も着てないなんて……あんたの奴隷?」


「ち、ちがうっ!」陽介は慌てて手を振った。

「奴隷じゃない! ただ、その……着る物がなくて」


「ふーん……怪しいわね」


その横でアイリスが小さくクスクス笑った。

「奴隷なんです、わたし」


「はぁっ!?」陽介は青ざめる。

「お前な、冗談でもそんなこと――」


「だって、あなたってば否定するとき顔真っ赤にしてるんだもん。面白いじゃない」

猫耳をぴょこんと動かしてツンと顔をそむける。


女性冒険者は吹き出した。

「私はフィオラ、冒険者。今からこの先の街アルデンに戻るところ。入城するのに保証人がいるから。」


「助かります。俺は陽介、で、こっちは――」

「奴隷です」

「おい、アイリス!」


 猫耳をぺたんと寝かせてそっぽを向くアイリス。

「べ、別に本気で言ったんじゃないわよ。ただ……ヨースケ、もっとちゃんとしっかりしてよね」


「名前、片仮名にすんな」

「ふふ、仲良しね」フィオラは肩をすくめた。「事情は街で聞くわ。ついてきな」


 街の門前。見張りの兵士が鋭く視線を走らせた。

「そこの三人、用向きは?」

「伝令任務の帰還。それと、この二人は新顔。私が保証する」フィオラがギルドカードを見せる。


「首輪は?」

「付けるわけないでしょ。この子は奴隷じゃない」

「……なら通れ。ただ、耳は隠した方がいい」


「フード、つけよっか」陽介が小声で言うと、アイリスがちらっと見上げる。

「……べ、別に隠す必要ないけど。アンタが心配するなら、つけてあげてもいい」

「ありがとう」

「か、勘違いしないでよ。合理性のためだから!」


 

 フィオラが案内したのは、小さな仕立屋だった。

「ここは腕がいい。多少高いけど長持ちするよ」


 店主が眼鏡越しにアイリスを見て、ふっと笑った。

「サイズは……子猫サイズ?」

「違うもん!」アイリスの耳がぴくぴく跳ねる。


 採寸の途中、店主がぽつりと聞いた。

「彼氏さんかい?」

「ち、ちちち違うし!」顔を真っ赤にして慌てるアイリス。

 

 巻き尺がアイリスの肩と腰を測る。陽介は視線を逸らした。店主は生地見本を広げて問う。 「外回りが多いなら、丈夫なのがいい。耳の穴も加工する? フードは?」

「フード、ください」陽介が口にすると、アイリスがちらりと見上げる。

「……べつに、隠す必要なんてないけど。アンタが心配するなら、つけてあげてもいい」

「ありがと」 「勘違いしないで。効率のためよ」  


 フィオラは隅の椅子に腰かけ、足を組んだ。 「獣人はね、珍しいわけじゃないけど、田舎だと偏見も残ってる。襲われるより、今は目立たない方がいい」 「……この世界、そういうのあるんだな」


「どの世界でもあるよ。ただ、アンタたちがそれをどう扱うかで、物語の色が変わる」

フィオラはそう言ってウィンクした。


 仕上がったのは灰青のチュニックにショートパンツ、フード付きのコート。耳を通すスリットも目立たないよう工夫されていた。


「どう?」

 着替えを終えたアイリスがカーテンをそっと開けて出てくる。猫耳がフードの内側でちょこんと動いた。金の瞳は満足げで、尻尾は控えめに揺れている。陽介は思わず声を漏らす。


「……かわいい」

「べ、別に嬉しくなんかないし! ただ防御力が上がっただけ!」

 ツンデレ全開で、猫耳がまたぴこぴこ揺れていた。


 市場の外れの食堂で、三人は食事をとった。

 焼いた白身魚にスープ、粗挽きのパン。アイリスは恐る恐る一口食べ――頬をほんのり染めた。


「お、おいしい……」

 その一言に陽介は安堵し、胸が温かくなる。

「さて」パンをちぎりながら、フィオラが切り出した。「二人の身の上を、少し聞かせてもらえる?」    陽介はアイリスと視線を交わす。嘘を重ねるのは下手だ。


「……ここに来る前の記憶が、途切れててさ。目が覚めたら森で……彼女は、俺の大事な相棒」

「ふうん。曖昧だけど、嘘ではない顔だね」  フィオラはスープをすすり、にやりと笑う。


「なら、まずはギルドに登録だ。明日、私が連れていく。初期費用――宿代や服代は、アンタの働きで返しな」

「働く、か。どんな仕事がある?」


「最初は薬草採取、討伐依頼、護衛、届け物。危険度が低いものから。……それと」  フィオラはアイリスを見た。 「その耳、可愛いけど目立つ。フードは忘れないこと」

 

 宿に戻ると、二人部屋のベッド。アイリスは窓辺でフードを外し、月明かりに猫耳を光らせた。

「ねえ陽介。今日、『匂い』と『味』を覚えた。それと……からかわれると耳が熱くなる」


「それは……可愛い発見だな」

「べ、別に……! ――好きだからじゃないんだからね」

「はいはい」


 二人の笑い声が、アルデンの夜に溶けていった。

初めて街に入り、人々の視線を受け、そして服を着たアイリス。

まだまだツンデレ全開ながらも、陽介の隣で少しずつ「女の子」としての感情を芽生えさせていく。

保証人となったフィオラとの縁も、今後の冒険を左右する重要な出会いになるだろう。

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