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第19話 オルフェンの灯と小さな安息

死闘の夜を越え、援軍と共に魔物を退けた商隊は、ようやく街オルフェンへと辿り着いた。

それは達成感と安堵が入り混じる瞬間であり、張り詰めていた心と身体がようやく緩むひとときだった。

陽介とアイリスもまた、重なる疲労に抗えず、ただ「眠る」という当たり前の行為に救われていく。

束の間の休息――それは、次なる冒険のための大切な時間だった。

 ギルドから駆けつけた冒険者たちの加勢もあり、夜道に迫ってきた魔物たちはすべて討伐された。剣戟の余韻が静まり返ると、街道には疲労と汗と血の匂いだけが残った。


 肩で息をする者、地面に膝をつき空を仰ぐ者。

 それぞれが生き残った安堵を味わいながらも、まだ緊張が抜けきらない顔をしている。


 街の灯が視界に入ったとき、一行は心からのため息を漏らした。

「見えた……オルフェンの灯りだ!」

「やっと……やっと着いたか……」


 馬車を押していた陽介は、汗に濡れた額を拭った。

 足は重く、視界は霞む。それでも、門が近づくたびに胸の奥に少しずつ温かさが広がっていった。



 街の門は刻限を過ぎていたが、すでに事情を聞きつけていた衛兵たちが待ち構えていた。松明を掲げ、列を整え、一行を迎え入れる。

「よく無事で……! さあ、中へ!」


 石畳の音が、耳に心地よかった。

 門をくぐった瞬間、張り詰めていた空気がふっと解ける。

 街の灯は暖かく、外の闇を遠いものにしてくれた。


 ガルドは担架に乗せられ、治療院へと運ばれていった。彼は薄い笑みを浮かべ、仲間たちに短く言葉を残す。

「詳しいことは……明日だ。今日は、みんな休んでくれ」


 フィオラはそれに頷き、仲間たちをそれぞれ宿へと案内する。

 陽介とアイリスもまた、紹介された宿屋の軒先に立った。



 木の看板に吊るされた灯りが、ゆらゆらと揺れている。

 戸を開けると、温かなスープの匂いと柔らかな灯火が二人を包んだ。


「……助かったな」

 陽介が小さく漏らす。


「うん……」

 アイリスも短く答えるが、その声は震えていた。安堵と疲労が一度に押し寄せ、身体中から力が抜けてしまったようだ。


 女将が気遣うように笑みを向ける。

「部屋は二階の奥だよ。熱い湯も用意できるけど、もう疲れ切ってるなら……無理せず横になりな」


「ありがとうございます……」

 陽介は軽く頭を下げ、アイリスと共に階段を上がった。



 部屋に入ると、ベッドが二つ並んでいた。

 陽介は靴を脱ぐのももどかしく、そのまま倒れ込む。


「……ふぁぁ……」

 布団の柔らかさが背中に広がり、意識が溶けていく。


 隣でアイリスもベッドに身体を沈めた。

「ねえ、陽介……」

「ん……」


「本当に……戻ってきてくれて、ありがと……」

 か細い声が夜の静けさに溶ける。


 陽介は力なく笑みを返した。

「もう泣くなよ……」


「泣いてない……もう泣いてないよ……」

 アイリスは言い訳のように呟きながら、目を閉じた。

 長いまつげが震え、安堵の涙が一粒だけ頬を伝う。


 陽介もまた、まぶたを閉じる。

 身体の奥から眠気が這い上がり、考える余裕すら奪っていく。


 ――よく頑張った。

 そんな言葉を互いに心の中で交わしながら、二人は静かに眠りへと落ちていった。


長い戦いを経て、ようやく街に辿り着いた陽介たちは、初めて心から眠ることができた。

恐怖も、痛みも、涙も、今はただ夢の中へ溶けていく。

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