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第18話 帰還と涙の抱擁

仲間を救うために、陽介は限界を超えて走り続けた。

街に救援を呼び、再び街道を戻ってくる。

だがその足は重く、視界は霞み、今にも倒れてしまいそうだった。

そんな彼を迎えたのは――涙に濡れたアイリスの抱擁だった。

泣き笑い、叱り、でも離さない。

二人の絆は、この夜に確かなものとなる。

夜の街道は、昼間とはまるで別の顔をしていた。

 風は冷たく、月は雲に隠れたり顔を出したりを繰り返し、光は途切れ途切れ。

 その不安定な闇の中を、陽介は走り続けていた。


 オルフェンまで往復。

 救援を呼び、衛兵と冒険者たちを伴って戻ってきたものの――すでに陽介の身体は限界を超えていた。


「はぁっ……はぁっ……はぁ……っ」

 呼吸は荒く、胸が焼けるように痛い。脚は鉛のように重く、一歩を踏み出すたびに崩れ落ちそうになる。

 視界は霞み、周囲の景色が揺らめいていた。


(だめだ……でも、止まれない……!)


 頭の中では何度もそう繰り返していた。

 仲間が待っている。ガルドは傷を負い、アイリスやフィオラも必死に戦っている。

 助けを呼んだからこそ、自分も戻らなければ――。


 歯を食いしばり、足を引きずるように進む。

 夜道の先に、人影が揺れた気がした。だが、目が霞んで判別できない。


 そのときだった。


「――陽介ッ!」


 胸を震わせる声が、闇を切り裂いた。


 振り返る暇もなく、影が勢いよく飛び込んできた。

 そのまま抱きすくめられ、ぐっと身体を引き寄せられる。


「え……アイリス?」


 耳元で聞こえる嗚咽。肩口に落ちる熱い滴。

 涙でぐしゃぐしゃの顔をこちらに押し付け、アイリスは陽介を強く抱きしめて離そうとしなかった。


「バカっ……! なんで一人で……こんな無茶して……っ!」


 声が震え、しっぽが激しく揺れる。

 陽介は苦笑する余裕すらなく、掠れた声で答えた。


「無茶でも……やらなきゃ……みんなを助けられなかった」


「そんなの……そんなの関係ない! 陽介がいなくなったら……私……」

 言葉は嗚咽に変わり、最後まで続かなかった。

 彼女の腕がさらに強く陽介を抱き寄せる。


 陽介は重いまぶたを持ち上げ、かすかに笑みを浮かべた。

「泣くなよ……ちゃんと、戻ってきただろ」


「……っ、泣いてない! これは……汗なの!」

 真っ赤な顔で睨み上げるアイリス。だが、目元からは次々と涙が溢れ続けていた。


「はいはい、汗だな」

 弱々しくも冗談を言うと、アイリスは拳で彼の胸を軽く叩いた。


「もうっ……本当に……っ!」

 叩きながらも、腕は決して彼を離そうとしなかった。



 そこへ後方から駆けつけてきた冒険者たちが、口々に囁き合う。

「おいおい、アイリスちゃん、泣きながら陽介を探してたんだぜ」

「必死に『陽介ー!』って叫んで、走り回ってたしな」


「や、やめてっ!」

 一斉に視線を浴びせられたアイリスの顔は、真っ赤を通り越して茹でダコのよう。

 しっぽはぶんぶんと音を立てんばかりに揺れ、恥ずかしさを隠すように陽介の胸へ顔を押しつけた。


「み、みんなの前で言わなくてもいいでしょっ!」


 陽介は苦笑しながら、その頭をそっと撫でる。

「……でも、本当に来てくれて、嬉しかった」


 小さく、誰にも聞こえないように囁いたその言葉に、アイリスの瞳が潤みを増す。

 声にならない返事の代わりに、彼女はさらに強く抱きしめてきた。



 疲労困憊の陽介は、その腕の中に身体を預ける。

 瞼が重く、意識が途切れそうになる。

 それでも不思議と恐怖はなく、胸の奥に温かなものが広がっていた。


「大丈夫。もう一人じゃないから」

 アイリスの声が、夜の冷たい風に溶けていく。


 陽介はその言葉を最後に、静かに目を閉じた。

 彼の頬に、アイリスの涙の温もりが残っていた。

陽介の無茶な決断は、仲間を救う大きな力となった。

しかし同時に、アイリスにとっては心を揺さぶる出来事でもあった。

泣きながら叱り、でも抱きしめて離さない。

二人の絆は、この夜に確かに深まったのだ。

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