第17話 夜の街道と再会の灯
谷を抜け、街へ急ぐ商隊。
だが安堵はまだ遠い。ガルドは深手を負い、夜の闇からは魔物が迫る。
焦りと不安が交錯する中、アイリスは仲間の気配を探り――そして、闇の先に陽介を見つける。
仲間を信じることと、自分の足で駆け抜ける勇気。
その両方が、夜を越える力になる。
夜の街道を、商隊の馬車は必死に駆け抜けていた。
軋む車輪、馬の荒い鼻息、冒険者たちの短い指示――それらが渾然一体となり、闇に吸い込まれていく。
空にはかすかな月。雲に覆われ、星の光も心許ない。
馬車の奥、ガルドは横たわっていた。布で圧迫した傷口からはもう血は滲んでいないが、顔色は蒼白で、握る剣にも力は入らない。
「……隊長」
フィオラが一度だけ彼を振り返ったが、すぐに前を向き直した。迷いはなかった。
「速度を落とすな! 門が閉まるまでにオルフェンへ入らなきゃ!」
仲間たちの声が次々と上がる。
「馬を叩け! まだ走れる!」
「荷を軽くしろ、食料袋を捨てろ!」
彼らの必死の声を、アイリスは耳を伏せて聞いていた。額には汗。目は閉じられ、意識は外界の気配へと向けられている。
――索敵。
それは彼女の最大の強みであり、仲間を守るための唯一の術だった。
冷たい夜気を肺に流し込む。風が頬を撫で、耳の奥へと響いてくる。
何かが迫る。草の揺れ方、地面を叩く微かな震動、獣の吐息。
「……えっ!」
アイリスは目を開いた。背筋を冷たいものが走る。
「どうしたの!?」フィオラが即座に問いかける。
「魔物……来る……数が多い……!」
その一言で、馬車を囲む冒険者たちがざわめいた。
「クソッ、こんな時に!」
「戦力が足りねえぞ!」
焦燥が空気を濁す。だがフィオラは剣を抜き、強い声で言い放った。
「行くしかない。このまま突っ切るんだ!」
その声に被さるように、アイリスが叫ぶ。
「右側から……五匹! すごい速さでこっちに!」
冒険者たちは武器を構え、馬車の前に立ちふさがった。ガルドを守り、仲間を守るために。
馬がいななき、荷車が大きく揺れる。
緊迫した空気が張り詰める。
「来るぞ――構えろ!」
フィオラが剣を抜き放った瞬間だった。
――闇の向こうから、豪快な声が響いた。
「待たせたなあああっ!」
夜を切り裂くように、街の灯りを背に影が飛び込んでくる。
冒険者たちの群れだ。武器を掲げ、怒号と共に駆け込む。
「ギルドの連中だ!」
「応援が来たぞ!」
その場にいた全員が歓声を上げる。
先頭の大柄な冒険者が笑いながら叫んだ。
「坊主が血相変えて飛び込んできてよ! ガルドがやられたってな! 黙ってられるか!」
アイリスの目が大きく揺れる。
「……陽介……」
小さく、その名を呼んだ。胸が熱くなり、同時に強く締め付けられる。
だが次の瞬間、表情は一変した。
「陽介は!? どこにいるの!?」
彼女は探知をさらに広げた。意識を闇へ投げ込み、風の流れに耳を澄ます。
鼓動のような足音、荒い息遣い。
――いた。
確かに街道の先に、あの気配がある。
「……いた!」
思わず口に出た。
アイリスは次の瞬間、馬車を飛び出していた。
「アイリス! 待て!」フィオラが叫ぶ。
だが止まらない。
足音が夜道を叩く。靴底に砂が跳ね、息が熱く喉を焼く。
目指すのは一つ。
――陽介。
胸の奥で名前が繰り返される。
怒りでも、恐怖でもない。ただひとりを確かめるために。
闇の中を駆け抜け、彼女は仲間の気配へ一直線に走り続けた。
商隊を守る戦いの最中、ギルドの援軍が到着し、仲間たちに希望が差す。
だがアイリスの心はただ一つ、陽介の安否を求めて走り出す。




