第14話 新しい力 ―投石スキルの秘密―
こんばんは!
今回はちょっと息抜き回……のようでいて、とても大事な伏線。
陽介の「現世での経験」が異世界スキルとして形になる瞬間を描いています。
初めての戦闘で自分の弱さを痛感した陽介が、新しい力を得て少しずつ自信を持ち始める流れを、会話中心でテンポよく読めるようにしました。
グラナート谷の入り口へ向かう街道を進む商隊。
戦闘の緊張感がまだ残っているものの、青空と小鳥の囀りが少しずつ心をほぐしてくれる。
荷馬車の端に腰を下ろし、陽介はふと思い出したように口を開いた。
「そういえばさ、アイリス。ステータス画面、見せてくれない? レベル……上がってたりしない?」
「ふふん、やっと気づいた?」
アイリスは得意げにしっぽを揺らし、指先をくるりと回す。空中に淡い光のスクリーンが浮かび上がった。
「おお……」
陽介が身を乗り出して覗き込むと、数字が確かに変わっていた。
「……ほんとだ。レベルが5になってる」
「でしょ? ほら、見なさい。新しいスキルも追加されてるの」
アイリスが指先でスクリーンをタップする。
「……《投石》?」
表示された名前を見て、陽介は首をかしげた。
「これ……そのまんま石投げるだけ、って意味だよな?」
「そうよ。ただの石投げ。でもね……レベルが7って出てるの。異常に高いわ」
「え、なんでそんなのがあるんだ? 俺、石投げの修行なんてしたことないけど」
陽介が本気で不思議そうに呟くと、アイリスは小さく笑った。
「陽介、中学の時、野球部にいたでしょ?」
「えぇ……外野だし、ほとんど補欠だったけど」
「でも投げる練習はしてたでしょ。その経験がスキルに反映されたんじゃない?」
「マジかよ……現世の部活経験がスキルになるのか!?」
陽介は思わず目を丸くした。
「異世界補正ってやつね。……試してみる?」
アイリスがにやりと笑う。
「お、面白そうだな。……あそこの木の実、10メートルくらい先だな」
陽介は前方の木を指差した。小さな実が枝から垂れ下がっている。
「じゃあ、それに当てられる?」
「多分大丈夫。コントロールはそれなりに自信あるから」
陽介はしゃがみ、地面から石を拾い上げた。手のひらに収まる滑らかな石。
呼吸を整え、肩を後ろに引く。
ヒュッ――。
石は鋭い音を立てて飛び、木の実を正確に撃ち抜いた。実は砕け散り、さらにその先の幹にめり込む。
「……お、おいおい」
陽介は思わず口を開けたまま固まった。
「俺、こんな威力で投げられたか……?」
「すごっ!」
近くで見ていたフィオラが思わず拍手した。
「普通の石投げで木の幹にめり込むなんて、ありえないわよ!」
アイリスも一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに胸を張った。
「ほら見なさい。レベル7っていうのは伊達じゃないのよ。遠距離でも威力があるし、敵の急所に命中させれば……相当役立つはずよ」
「なるほど……剣を振るえなくても、これなら俺にも戦える手段があるかもしれない」
陽介の声には、ほんの少し希望が混じっていた。
「ふふん。だから私がいなきゃだめなのよ」
アイリスはツンと顔を逸らす。
「はいはい、アイリス様のおかげです」
「ちょっ……軽すぎ! もっと心を込めて感謝しなさいよ!」
「ありがと、アイリス」
陽介が素直に言うと、アイリスは一瞬動きを止め、顔を真っ赤にしてしっぽをぶんぶん揺らした。
「っ、べ、別に嬉しくなんかないんだから!」
その様子を見ていた護衛仲間の一人が、にやにやしながら声を掛けてきた。
「お前ら、いいコンビだなぁ」
「な、なに言ってんのよ!」
アイリスが慌てて耳まで赤くし、陽介は苦笑しながら視線を逸らした。
だが、胸の奥には確かなものが芽生えていた。
(……俺にも、できることがあるんだ)
たとえ剣ではまだ未熟でも、遠くの敵を狙い撃てるスキルは戦場で役立つ。
そして、その力が仲間を守る一助になるのなら――。
「これからは《投石》も選択肢に入れて戦おう」
「ええ。絶対役に立つわ。私が保証する」
アイリスがにやりと笑い、陽介は思わず笑みを返した。
こうして陽介は、新しいスキルの力を手に入れた。
――この《投石》が後に、彼らの旅路を大きく変えるとは、まだ誰も知らなかった。
読んでくれてありがとう!
第14話は「投石スキル発覚回」。
ちょっとコミカルなやり取りを交えながら、陽介が「戦える手段を得た」という大事な転換点を描きました。
野球経験がスキルになるなんて、異世界ならではの面白さだよね。
次回はいよいよ「グラナート谷」へ突入。
魔物と盗賊が待ち受ける最難所で、《投石》がどう役立つのか……?
続きも楽しみにしててね!✨




