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第12話 挟み撃ち ―初陣の重み―

んばんは!

今回の第12話は、ついに「初めての本格戦闘」。

陽介とアイリスは恐怖に震えながらも、ゴブリンとの交戦に挑みます。

初めて「命を賭ける戦場」を経験し、二人は何を感じたのか?

そしてベテラン護衛長ガルドの存在感が光る回でもあります。

一気に物語の緊張感が増す章を、ぜひ焚き火の明かりのようにドキドキしながら楽しんでね。

「全員、気を抜くな! ゴブリンごときに遅れを取るな!」


 ガルドの号令が響いた。

 低く太い声は、草原の風を切り裂くように商隊の護衛たちへ届き、士気を一気に高める。


「おうっ!」

 冒険者たちがそれぞれ武器を構える。剣、槍、弓、そして魔法を詠唱する声――緊張が渦巻きながらも、戦う準備は整っていた。


 フィオラは馬上から軽やかに剣を抜き、真っ先に駆け出す。

「来なさい、小鬼ども!」

 鋭い剣閃が走り、先頭のゴブリンの首筋を一閃。小鬼は悲鳴を上げ、地に崩れ落ちた。


「……すげぇ」

 陽介は喉を鳴らす。自分の足はまだ動かない。剣を握る手は震え、汗で柄が滑りそうになる。


(怖い……でも、俺だって戦わないと……!)


 勇気を振り絞って前に出ようとした、その時――


「陽介! 待って!」

 アイリスの鋭い声が響いた。


「反対側から、ゴブリン三体接近中! 挟み撃ちになるわ!」


「な、なんだって!?」

 陽介の心臓が跳ね上がった。


 周囲はすでに正面のゴブリンたちとの交戦に集中している。

 もし後ろから襲われれば、馬車の列は無防備のまま蹂躙される――商隊ごと全滅しかねない。


 アイリスの耳がぴんと立ち、瞳に鋭い光が宿る。

「やるしかないわね。陽介、私と一緒に!」


「……わかった!」

 怖さを押し殺し、陽介はうなずいた。


 二人は馬車を飛び出し、反対側の茂みへ走る。

 踏みしめる土の感触が重い。心臓は耳の奥で雷のように鳴っていた。


 ――茂みの奥から、牙をむき出したゴブリンたちが現れた。

 濁った瞳に獰猛な光。汚れた刃物を振りかざし、甲高い叫びを上げながら突進してくる。


「くそっ!」

 陽介は剣を振り下ろす。必死の一撃が一体の肩を裂き、悲鳴を上げさせる。

 だが手に伝わる衝撃は予想以上に重く、腕が震えた。


「後ろ! 次!」

 アイリスの声に従い、体をひねって刃を受け止める。


 ガキィィン!


 金属と金属がぶつかり、火花が散った。

 腕に走る衝撃で、剣を落としそうになる。


(これが……戦い……! 生きるか死ぬかの、戦い……!)


 ゴブリンの刃が迫る。必死に受け止めながら、陽介はアイリスの声に導かれるように体を動かした。

「陽介、右下! 足を狙って!」

「うおおっ!」

 叫びと共に剣を振り下ろすと、ゴブリンの脛を斬りつける。小鬼は転がり、苦悶の声をあげた。


 だが、すぐに別の二体が迫ってくる。

「くっ……!」

 陽介は必死に剣を振るうが、数の圧力にじりじりと押し込まれていく。


 アイリスも短剣を振るい、素早く一体の頬を裂く。

「まだよ! 来る!」

 猫耳が震え、しっぽが乱暴に揺れる。彼女自身も恐怖を抱えながら、それでも必死に声を張り続けていた。


 一方その頃、正面で戦っていたガルドは、次々とゴブリンを斬り倒しながら周囲を見回していた。

「……あれ? 陽介たちはどこだ?」


 護衛たちの列に二人の姿が見えない。

「まさか……やられたのか!?」


 その瞬間、耳に鋭い金属音が届いた。


 ガキィィン!

 続けざまに響く必死の叫び声。


 ガルドの顔色が変わる。

「……挟み撃ちか!」


 彼は咆哮をあげ、部下たちをまとめながら音のする方へ走った。


 茂みを抜けたその先――

 そこには汗だくになりながらゴブリン三体と渡り合う陽介とアイリスの姿があった。


「はぁっ! くそっ、まだ倒れないのか!」

「陽介、左! 首筋を狙って!」

「うおおおおっ!」


 剣が振り抜かれ、血しぶきが舞う。

 だが、陽介の息は荒く、腕は重く、視界は狭まっていた。


 その必死さに、ガルドは一瞬だけ目を細める。

(悪くない……! 必死に戦っている。こいつら、まだ伸びる!)


「よし、あとは任せろ!」

 怒声と共に剣を振りかざし、ガルドは三体のゴブリンへ突撃する。


 重厚な斬撃が走り、ゴブリンの体が一瞬で切り裂かれる。

 残った二体も彼の剛腕に吹き飛ばされ、地に転がった。


「……終わった、のか」

 陽介はその場に膝をつき、荒い息を吐いた。

 アイリスも同じように座り込み、肩で息をしている。


 彼女のしっぽはぐったりと垂れ、耳も力なく下がっていた。

「……バカ陽介。もう少し冷静に動きなさいよ」

 それでも、声は震えていた。


「ごめん……でも、アイリスがいてくれたから……」

 陽介は苦笑し、空を仰ぐ。


 青空はどこまでも広がっているのに、胸の奥は重かった。


「これが……戦場か……」

 その呟きが、草原の風に溶けていった。

ここまで読んでくれてありがとう!

第12話は「初めての戦場」。

陽介とアイリスは恐怖の中で必死に奮闘し、ガルドの助けを得て命をつなぎました。

まだまだ未熟だけど、ここから少しずつ成長していく二人に期待してね

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