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4章

5人の顔は恐怖に凍り付いていた。

その恐怖の顔のまま跳んで行った。

切れた首の断面からは血飛沫が飛んでいた。


遠くの沖の方で起きた出来事なのに、なぜか眼前の出来事のようにはっきり見えた。


恐ろしい光景は容易には私の脳裏から離れてくれない。

ついさっきまで話していた人たちが・・・あり得ない死に方をしてしまった・・・



でも容赦なく試験の日は近付いている。


Ⅱ種国家公務員試験、上級地方公務員試験はことごとく落ち、地元の役所の1次試験の日が迫っている。



俯いて席に座り、テーブルに乗せている私の手を、温かいものが包んでくれた。

顔を上げると、大岳さんが私の手の上に自身の手を乗っけてくれていた。


予備校の中、もう講義も終わって事務員も誰もいない。

外はもう真っ暗。


大岳さんは私の向かいの椅子に座る。


「まだ悪夢から立ち直れてないの?」

「はい」

「無理も無い・・・」

「試験・・・受けるの止めようかな・・・」

「責任を感じるよ。海に誘ったのは僕だ」

「いえ。大岳さんは何も・・・」

「確か・・・お父さんは亡くなったんだっけ?」

「はい。私が幼い頃、交通事故で・・・」

「それで母子家庭・・・」

「はい。就職は公務員試験一本に絞ってたし、どうすれば・・・」

「結婚しよう」

「えっ?」

「実は前々から、北都さんの、お母さんのために・・・っていう一生懸命さ、誠実さに惹かれていたんだ」

「えっ・・・」

「君を護ってあげたいと思っている」

「びっくりだけど・・・でも嬉しい」

「今度北都さん・・・いや、“みゆ”でいい?」

「あっ・・・はい」

「今度みゆの実家に行こう。お母さまにご挨拶させて」

「あっ・・・はい」

大岳さんは椅子を持って私の隣に移動する。


私を抱き寄せる。

あまりにも嬉し過ぎて、一筋の涙。




大岳さんとキスをした―――。




その後、大岳さんは死亡した・・・。



その後と言っても3ヶ月くらい経った後だけど・・・。


結局私は地元の役所も受験せず、大岳さんと結婚してお世話になろうと思っていた。

大岳さんはお母さんとも挨拶して、お母さんも気に入ってくれたみたい。

来年早々にも結婚・・・と思っていた矢先・・・


大岳さんは普段から登り慣れているはずの冬山で遭難。凍死した・・・。




ーーーーーーーーー


年は明けたけど、私の心は開ける様子は全く無かった。


私は実家に戻り、自分の部屋で布団被って寝ていた。

あまりにもショックで・・・恐怖で何もする気が起きない。


私の実家はそれなりの立派な和風の家で、私の部屋は畳でけっこう広い。

敷布団の上で寝て、掛け布団を頭まで被っている。



ブルブルッ。

スマホが震えている。


見ると東子からで、「今近くにいるから行っていい?」って・・・


突然過ぎ!

こっちはショックと恐怖で塞ぎ込んでるのに・・・

いくら東子でも、会う気しない。


東子は幼馴染だからもちろん幼い頃に何度も家に遊びに来て、お母さんとも周知の仲。


ピンポ〜ン。

「早っ。すぐそこにいたのかよ」

「みゆ〜。上がってもらったよ〜」

「お母さん? 何勝手に!」

「東子ちゃんから元気もらいなさい!」

「もう〜。勝手に・・・」


襖が開き、いかにもギャルの出で立ちの東子が入って来る。


「みゆ元気〜?」

「何東子?」

「みゆ。ほっんとごめん!」

布団どかして東子を見ると、土下座しながら拝み倒してるような姿勢。

「何何どうしたの?」

「これ見て」

東子はスマホ画面を私に見せる。


「私は魔性の女! 私はキスをした男性を8人呪い殺した! 私とキスして呪い殺されたい男、カモーン!!!」

この訳わからん文言とともに、ギャルピースした東子の写真。


私は上体を起こした。

「ふ〜っ」

頭を掻いた。

風呂もしばらく入って無いし、頭はボサボサ。


「東子ならやると思った。私に起こった出来事を、さも自分に起きた出来事のように見せかけて、それでバズったの?」

「そうそう! もうバズりまくり!」

ほっんとに嬉しそうに話してる。

「でも人の死を、そんなバズらせるための手段にするって、倫理的にどうなの?」

「う〜ん。あんまよくないかも知れないけど、絶対バズると思ったんだもん」

「あんまどころか、絶対よくないでしょ!」

「ごめんごめん」

「軽っ」

「それでさ。こんなの信じるの誰もいないと思ったんだけど、バカが一人引っ掛かっちゃって」

「えっ?」

「今来てるの」

「えっ?」

「会ってもらっていい?」

「何で私が?」

「その魔性の女は、本当はみゆだって言っちゃったの」

「え〜っ!」

「それがさ。オカルトオタクっていうか、絵に書いたようなデブのキモオタなの!」

「え〜っ」

「みゆ、キスしてあげていい?」

「嫌だよ!」

「そいつ殺してよ」

「殺してって」


ピンポ〜ン。

「あれ? アイツ、待ってろって言ったのに」

「み〜ゆ! 上がってもらったよ」

「えっ!? ダメダメ! 絶対ダメ!」


サーッと襖が開き、立っていたのは細身の男性。

「あれ? いつの間に痩せた?」

「あれ? はじめ?」

目の前に立っていたのは幼馴染の男性、西野一(にしのはじめ)だ。

正直暗めの性格で、前髪は分けずにダラッとして、両目ともほとんど髪に隠れている。

だけど剣道の腕前は天下一品で、剣道の

先生だった私の父からはたいそう可愛がられた。


「しばらく会ってなかったけど、おばさんからみゆちゃんの状況聞いて、心配で来てみたんだ」

「そうだったんだ。ありがとう。はじめ」

「はじめ。外にデブのキモオタいなかった?」

「デブキモオタって俺のこと?」

後ろから更にもう一人、デブ男が現れた。

多分東子の言ってたデブキモオタ。

「え〜っと。名前何だっけ?」

「加藤太郎です」

私と目が合った。正直キモい。

「あっ、あなたがみゆちゃんですか?」

「違います。私、西野東子です」

「西野東子って」

「僕とキスして、僕を殺してください!」

「だから違いますって!」

あっ。私に向かってくる!

怖っ。

でもはじめが足を引っ掛けて、キモオタはすっ転んだ。

「いって〜。何すんだテメー」

「みゆちゃんは俺が護る。北都先生との約束なんだ」

「えっ?」

「えっ?」

「は?」


正直はじめの気持ちは幼い時から分かってた。

でもやっぱり、はじめの暗さは生理的に受け付けなかったというか・・・

友だちとしてなら十分仲良くやって行けたんだけど。

でも北都先生・・・お父さんとの約束って・・・?


「東子ちゃんのSNS見たよ。8人の男性が死んだのは、みゆちゃんとキスしたからじゃない。水を飲んだせいだ!」

「えっ? 水・・・って、この水?」

私は傍らに置いてあったペットボトルを持ち上げる。

私がいつも飲んでいる水だ。


はじめは私の持つペットボトルを指差す。

「それは・・・呪いの水だ!」

「!」

「!」

「!」



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